博多口の戦い(改定)
博多駅に近づくにつれ白い小山が見えてくる、現実世界ではありえなかった光景だ。
巨大、見ればわかる。その大きさは。駅ビルを優に上回る。
醜悪、見ることを憚る程だ。蠢く蛆が寄り集って人型を真似ようとしている。
巨人の足元から、ビルの物陰から、線路の脇から、巣穴をつついたシロアリの様に、うじゃうじゃと、ぞわぞわと、こちらを飲み干さんばかりの勢いで現れてくる。そして――
弾幕
目の前に広がる白き領域から弾丸が放たれる。それは敷石だったり、ガラス片だったりコンクリ片であったり、それらの体組織だったりと様々だが、音速を超す速度で、一斉に放たれる。
だが、牛若はかわさない。もとよりかわす隙間などありはしない。
ならば押し通る。歩みを緩める事無く突き進む。
放たれる弾丸が音速ならば――
「ちッ!」
――それを迎え撃つ剣閃もまた音速
一呼吸で九閃、縦横に放たれたその軌跡は早九字の印にも似ていた。そして牛若の正面に迫っていた白い壁は霧散する。
軋む関節を無視し、駆ける。加速と小回りはお粗末なものだが、最高速度ならば7割は出る。
目標座標のはるか手前より敵は目視できる。今回の戦法は、今までの様な組体操ではなく完全に1個体として合体するようだ。こちらの世界でのGENの振る舞いを見ていると知性ある存在に見えて来てしまう。現実世界では触れることは出来ないし、八正世界では器官も骨格も神経も何も無いただの白い塊でしかないので、分析はさっぱり進んでいないのでどう結論付けるかさっぱりだ。
そんな事は、置いとくとしても、今回の敵の出方は今の我々には非常に辛い。真一様が変化?進化?したおかげで、牛若様の能力は向上した。筋力、速度、持久力等全てにおいて目まぐるしい向上だ。
だが、足りない。いくら切れ味が上がった所で、太刀で小山を更地にしろと言うのはどだい無茶な話だ。
無論私はそれを補うために存在しているのだが
「流石にこのような怪獣大決戦は想定されておりませんでございます」
弁慶はそう呟きながら、武装を投影する。
「ふッ!」
絶え間なく降り注ぐ弾幕を、一振りの太刀で捌き続けるのは、押し寄せる津波をコップで捌き続けるようなものだ。
超人的な技量で、半分以上距離を詰めはしたが……。
「主殿、飽きました」
『うぉおおおおい!何言い出してんのお前!!』
「いや、某。気が高ぶり過ぎて、戦の中で戦を忘れてました。いやはや、牛若一生の不覚」
『いやいや、なんでこんな十字砲火のど真ん中で賢者モードになってんだよ!もうちょっと頑張れよ!』
接敵の少し前には完全に意識を取り戻すことが出来、訳の分からない勢いで弾幕を食い破っていく牛若に声をかけることも出来ずにいたが、いきなりのこの発言だ。
珍しく、戦いに熱が入っていると思っていたら、悪い方に熱が入っていたようだ。しかし、今更我に返った所で、行くも地獄返るも地獄の、八方塞がり。と言うか何故この弾幕の中にいて無傷なのか訳が分からない。
『弁慶、仕切り直しだ。下へ抜ける』
『了解でございます』
牛若が弁慶と通信をしたほぼ直後、後方よりの砲撃で牛若の周囲に火柱が立ち上った。
「主殿、下はどうなっておりますか?」
『あっ?筑紫通りも敵で一杯だよ!』
砲撃で開いた穴に吸い込まれるようにして落下する。博多駅南のアンダーパス、筑紫通りは駅よりおよそ150m、まさに目と鼻の先なのだが、その距離が遠すぎる。そして何より……。
「奴に取りついてもやれることがございませぬ」
右へ行こうが左へ行こうが、敵の数はそう変わらないので、どちらかと言えば本体に近い博多口方面へ向かうため、筑紫通りを西へ。
「奴が生物ならば、一寸法師よろしく、体内に潜り込んでひと暴れと言う手もあるのでございますが」
住吉通りへ出たら、博多駅の正面、博多口を目指すため北進する。
「表情を模したものを頭部に浮かばせる事はあっても、実際には目も口もございませぬ」
流石に、路線上より敵の数は少ないものの、奴らは物陰から、ビルの窓から、屋上から、次々と止めどなくあふれ出てくる。
「かと言え、この太刀で幾ら表面を撫でたとしても、奴にとっては蚊に刺された程の効果もありますまい」
それらの敵をすれ違いざまに、切り、撃ち、無視して突き進む。
「現状、某らの最大火力は、弁慶の腕部に内蔵された高性能爆弾『奥の手』なのですが、それを何とかして奴の中心で炸裂させるかが勝負と考えます」
奴らは個体、否、末端の反応は素早いものの、総体としての反応はそうでもない。前線が反射的に攻撃を行うが、司令部の意思決定がかなり遅れる。と言うよりも、前線の反応に引っ張られて司令部が動くと言った感じだ。
そこをついて上手く立ち回った所で、本体の圧倒的な物量が立ちふさがるのだが、何とか俺たちは博多口にて巨人と相対した。
昔から何故か博多駅は方向感覚が鈍ります。
他ではそうでもないんですがねー。




