【SFエッセイ】1.完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~電脳化と拡張現実の可能性~
2016年7月末現在、某AR(Augmented Reality:拡張現実)ゲームが超絶人気です。というより登場と同時に社会現象化しておりますね。もうドローンとかIngressとかの比ではありません。で、今回はちょっとそこに絡めたSF考証のお話など。
私はやってませんが、友人の端末で件のARゲーム、その威力と可能性を垣間見ることが出来ました。
この話題を肴に友人と話していたのですが、結論から言えば“AR絶対定着するよね”というところで意見は一致。
危険行為とか違法行為とかはユーザのモラル、あるいはインターフェイスの問題として、それが示す可能性はもはやドローン(こっちも社会問題を経て認知が進み、定着しましたね)の比ではありません。つか危険じゃないように視覚にオーヴァレイ表示できばいいだけの話。単にインターフェイスの問題だってだけのことだと私は捉えております。
ということは“すわ電脳化も現実味を帯びてきたか”、という話題になりましたが――実は私が抱く電脳化のヴィジョンは“インターフェイスだけ進化して生身のまま電脳化”というもの。脳にハードウェアを埋め込む肉体改造型の“ハード・ワイアド(Hard Wired、ハードワイヤード)”は主流たり得ないと思ってます。逆にコンタクト・レンズ型の網膜投影機であるとか、こめかみ辺りにセンサを貼り付ける脳波検知インターフェイスであるとか、骨振動スピーカや骨振動マイクであるとか、ジェスチュア入力であるとか、生身を可能な限り駆使した、いうなれば“ソフト・ワイアド(Soft Wired、ソフトワイヤード)”が主流になると私は踏んでおります。この辺、拙作『その絶望に引き鉄を ~クリスタルの鍵とケルベロス~』で描いている未来展望ですが、その意見に今のところは揺らぎはありません。
その理由は、インターフェイスをはじめとするハードウェア規格の目まぐるしい進化にあります。
肉体、特に中枢神経系にインターフェイス(接続端子)を埋め込んでしまったが最後、その人のインターフェイスは中枢神経系の(末端とはいえ)損傷なしに取り出すことはまず不可能。ちょうど虫歯の治療のごとく、治療のたびに生体は削り取られていくであろうという懸念が拭えません。歯ならともかく、相手は中枢神経ですから穏やかな話ではありません。それに比べ、インターフェイスそのものの進化は日進月歩です。
例えば映像系出力端子。初期のコンポジット端子に始まり(いや同軸アンテナ・ケーブル直付けというのが本当の初期の姿ですが)、以後S端子、コンポーネント出力、D端子、それからPCのD-SUB、それからデジタルに移行してDVI、HDMI、Display Port(これも標準型に留まらずMini Display Portとか派生形もあり)と、どんどん規格が変わっております。そして世代を経るに従ってどんどん性能が上がっております。OSにしたってWindows XPのサポート期限問題を記憶に残しておいでの方も多いでしょう。これにしたって世代を経るごとに対応インターフェイスなどといった機能拡張を果たしています。
そこを考え合わせるに、電脳化インターフェイスなんて、それこそ日進月歩になることがいともたやすく予想できます。“そのたんびに中枢神経系の末端削って、最新型のインターフェイス埋め込み直すの?”というのが私の疑問。
それより人間の五感と神経信号はそのままに、操縦感覚で慣れさえすれば自由自在に最新規格を操れる“ソフト・ワイアド”の方が中長期的により強い! というのが今のところの私の判断です。
言うなれば完全義体化対パワード・スーツ(生身の強化)、どっちが強いかといえば、“完全義体は施術した最新の時点でこそ強いものの、半年を経ずして旧式化して、最新型に乗り換えたパワード・スーツに勝てなくなる”というのが私の描く未来絵図。
そして脳をハードウェアで直結する“ハード・ワイアド”、最大の欠点は2つ。
まず1つは“脳をハック(下手すると破壊)される可能性”、ここにあります。現実世界でもウィルスとその対策は日進月歩ですが、肝心のウィルス対策そのものが旧式OSや旧式ハードウェアを見捨てるのはWindows XPのサポート終了問題で顕在化しましたね。とすると、“インターフェイスを含むハードウェアは一生ものたり得ない”と考えるのが妥当というもの。
そして2つ目。“デッド・エンド問題(『攻殻機動隊 新劇場版』で触れられていましたね)”、“旧式化したハードウェアのサポートを巡ってメーカに生殺与奪を握られる”というもの。先ほど触れたOSやセキュリティ・ソフトのサポート期限問題と一部ダブりますが、問題としてはこっちの方がより深刻です。完全義体化したはいいけど、生体と機械を繋ぐインターフェイスの規格が旧式化して乗り替えが利かない、サポート打ち切られた義体は老朽化する一方――なんてことになったら悲惨です。
これらのリスクを頭の片隅に置きつつ、インターフェイスの進化を振り返ってみるに……解像度、伝送速度、情報量、いずれも日進月歩で進化してます。現状に例えて考えるならば、インターフェイスは携帯端末のごとき進化を果たすであろうことは想像に難くありません。「え~? 未だに初代iPhone使ってんの? 今はRetinaディスプレイなんて当たり前じゃん、信じらんな~い」と言い切られてしまうであろうように、インターフェイスなんてものの数年、下手すりゃ半年で旧世代化する時代が既に到来しているのです。取っ替え引っ替えして当たり前なのです。それを考えた際に、“ハード・ワイアドに未来はあるのか?”という疑問に辿り着くという次第。
もちろん、肉体的補助としての義肢は進歩を続けるでしょう。すでに義足で幅跳びの記録とか更新されちゃったりしてますし。一方でパワード・スーツなんて医療用・介護用として登場を果たしてますし。ただしその進化がどちらも加速度的に早くなっていく、というだけのことです。そして義肢やパワード・スーツの制御が高度になればなるほどインターフェイスは高度化して、それを生体(脳や思考)とどう接続するかという問題は避けて通れないという。
だからこそ、肉体改造を伴う電脳化は“最小限”に留まるであろう、という考証なのです。さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【SFエッセイ】を連載版として一本にまとめることといたしました。こちらに掲載したもの以外にもテーマを扱っております。よろしければお付き合い下さい。
『【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~ヒトと科学の可能性~』
http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
それでは引き続き、よろしくお願いいたします。