新入生と新学期!
男には譲れないものというものがある。たとえ相手が仲がいい幼馴染みだとしても、絶対譲ることができない。ましてや…
「いいから譲れっつってんだろがゴミクズ野郎がぁ!」
「お前に譲る気なんぞ微塵もねーよバーカ!」
俺とジンのような殴りあうほど最悪なほど仲が悪い幼馴染みだったら尚更だ。
両刃の剣
この日は学校の始業式だ。全校生徒が小中高合わせて10人前後しか居ないこの学園の始業式は公民館に集まって行われる。前で司会をするのは小中一貫校の先生、尾崎佳恵だ。
「えー、それでは。まずは新入生の入学式をやりまーす。えー、小学校1年生、佐久間 志保さん。」
「はーい!」
元気よく手を挙げ、前に出て行く。昨年度の卒業生の妹だからみんなよく知っている。
「次は進級して中1になった坂本諒太君とそのお兄さんで高1になる坂本浩太君。」
進級するメンバーは顔なじみが多く、前に出た2人も至極どうでもいいという顔をしていた。
「はいみんな、そんなどうでもいい様な顔しないで。」
「でもさ先生さ、新入生ったってみんな顔なじみなんだからこんな盛大に始業式しなくてよくない?」
そう言ったのは中学2年、駒木響子だ。おそらくみんな同じ考えを持っていただろう。響子が言わなくても誰かが言っていたに違いない。そんな中ただ先生は…嬉しそうにしていた。
「ふふふ…実はね、なんとこの学園に県南の学校から転校生がやって来たのです!」
先生のその一言でクラスは騒然となった。この学園に初めて転校生が来るのだ、無理はない。
「ねー先生!その人ってどんな人ですか!?」
「僕より歳上ですか?それとも歳下?」
小学校3年の尾崎由莉奈と小学校5年の佐藤祐基が先生に詰め寄る。由莉奈は先生の娘、祐基は高等部の先生、佐藤伸一の息子だ。学園ではあくまで先生と生徒という立場なので由莉奈も裕基も学園では親を先生呼びである。
「どんな子かは来てからのお楽しみ。…それより、呼んでくる間にどっちが生徒長やるか決めといてね。」
そう言って先生部屋を出て行った。生徒長とは学園で一番の年長者が生徒たちを守るリーダーになるという事だ。昨年度生徒長が卒業したので新しく決めなけばならないのだ。今の最年長は高校2年生。つまり…
「「俺が生徒長になってやるよ」」
そう言って手を挙げて立ち上がる俺とその幼馴染み、白雲刃。
「おいジン、お前には無理だ。俺に譲れ。」
「ナギこそ、生徒長は俺みたいな責任感の強い男じゃないと。お前みたいな奴に任せたいとは思わないね。俺は。」
「はぁ!?どの口が言うか!自分のだけでなく預かった朝顔すら枯らせる癖に!」
「それ小学校の時の話だろうが!お前こそ山登りの時一人で突っ走って結局迷ったじゃねーか!」
「お前こそ中学の時の話を引っ張り出してくるな!喧嘩も弱い癖に!」
「お?何ならやって見るか?今の俺ならお前なんて一捻りだバーカ!」
「上等だやってみろやボケェ!」
パーカーのポケットから手を出して戦闘態勢に入る。こいつをぶっ倒すのに武器なんか必要ない。素手で十分だ。
「いいから譲れっつってんだろがゴミクズ野郎がぁ!」
「お前に譲る気なんぞ微塵もねーよバーカ!」
ジンと俺の叫び声、扉が開く音、小学生が逃げる足音、誰かの悲鳴、先生や高学年の生徒のため息など、様々な音がホール内にこだまする。
「「くたばれぇぇえ!!」」
『喧嘩はやめて下さいっ!!』
ジンと俺が殴りあおうとした瞬間、見知らぬ少女が間に入ってそう叫んだ。騒然としていた部屋が一気に静かになった。
「あ、その…やめた方がいいかなーって…思い、ます…」
その一言で更に静かになった部屋で一番に口を開いたのは先生だった。
「…二人の喧嘩に割って入る人初めてだわー…」
「ええっ!?す、すみません!勝手な事して…」
「いやむしろ助かるわぁ…あ、そうだ…」
先生は何かを思いついたのか、ホワイトボードに何かを書き始めた。
「えっと、紹介が遅れたけど…慶推学園からの転入生で高校2年、武藤秋音さんです。先生としては、そこのふたりより武藤さんに生徒長を頼みたいと思いますが、いいと思う人は挙手を。」
結局その時手を挙げなかったのは俺とジンだけで、転入生が生徒長という異例の事態となった。
「えっ…えっ?」
状況が理解出来てない当人は、ただただ狼狽えるしか無かった。