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はるかかなたのエクソダス  作者: 風庭悠
第1章:見えざる鎖~護衛体技(ガード・アーツ)品評会編
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第5話 バトルアニメのヒロインに惚れる男の心境がイマイチ解りかねる件

 [星歴992年10月21日]


「品評会」は週の半ばに行われる。週末はアマレク人の「競技会」が行われるためだ。品評会は全国大会など上位の大会は存在しない。というのも奴隷の輸送費(交通費のこと)が無駄だからである。

 勝負は一発勝負のトーナメント方式で32チームがぶつかり合う。本番の護衛は失敗したらそこで終わりだからである。運も実力のうちなのだ。

 

俺たちの緒戦は1on1(ディフェンス)の5本勝負で、先に3勝すれば勝ち抜けられる。相手は男子のみのチームであったが、先鋒のエリカに簡単に負けてしまうと激しく動揺してしまう。「捨て石」のはずである女の子がこんなに強いとは、と士気が下がってしまった。そこをうまくついた俺たちは簡単に三連勝し、二回戦進出を決めた。

(どうか俺まで回ってきませんように)

と俺がずっと祈っていたとは相手チームの誰も気づくまい。


「まあ、傘の使い方がなってないんだよ。」

俺は応援に来ていた補欠メンバーたちに評論家よろしく解説して見せた。

「銃で来ないのが判ってるんだから、何も開いて応戦する必要はないんだ。かえって死角が増えるだけだ。」

自分の出番が来なかったことに心底ほっとしながら熱弁をふるっていた俺だが、エリカが後ろでニヤニヤしていることに気づかなかったのだ。

「ゼロス。後ろ後ろ。」

皆の指摘に、ばね仕掛けの人形のようにぎこちなく振り向いた俺に、エリカはにっこりと微笑みながら、

「そうよねえ。わかっているなら、できるわよねえ。」

その仰り様に、口だけチャンピオンの俺は

「すみません。」

と小さな声で謝った。


 2回戦は1on 1が2本。3on3が1本の変則3本勝負であった。これはチームの全員参加が義務なので、やむなく俺も出場する。ポイントは俺の出る3on3である。これは3人のディフェンスが3人のオフェンスから護衛対象者クライアントを守るというもので連携が何よりも重要である。

 

 オーソドックスなフォーメーションは傘を開いてを護衛対象者クライアント囲み、ひたすら防御する、という「ファランクス」と呼ばれる形が主流で、どう守るかよりどう攻めるかが大切になってくる。

 

 この種目でものをいうのが護衛傘(TU/テクニカルアンブレラ)だろう。傘の直径、柄の長さ、太さ、硬さ、何を仕込むかは自由で、傘の先端が刃物の場合は危険防止のためにキャップをつけることになっている。ただ、大きければ大きいほど自分の視界を妨げることを忘れてはいけない。


 試合が始まる。すでに初戦の1on1でラザロが勝っているので、俺はリラックスできた。3on3は、俺とジョシュアとカレブの3人がチームを組む。先攻は俺たちだ。定石通り相手はファランクスを組んで隙間から警棒で応戦という戦法だ。きちんと傘に透明部分の覗き窓もつけてある特注品で、死角対策も施されていた。


 しかし、カレブの傘もまた特注品で、柄の部分が曲がっていない。硬くて太くて重い、丈夫な木材でできている。ほぼ木刀である。俺が勝手に「摩周湖」と彫ってやったらものすごく怒られたのは懐かしい思い出だ。「洞爺湖」と彫ってはいけない、とは知っていたのだが。

 

 カレブはそれで相手の頭部めがけてフルスイングしたのである。護衛傘は銃弾や刃物には強いが打撃にはあまり向いていないという弱点がある。それを逆手にとってやったのだ。木刀は敵のゴーグルをかすめたらしい。その凄まじい衝撃は彼らをひるますには十分だった。


 カレブが第二撃の構えをとると、相手選手は恐怖でガードを上に上げてしまう。そして、そこが狙い目立った。ジョシュアが傘の柄で空いた下から敵の軸足をひっかけて一人を引き倒す。今度は、一人倒れて空いた隙間に俺が傘で横から打ち込む。敵は自分を守るためとっさに傘を俺に向け、背中をクライアントから外してしまった。そして、一人きりになった護衛を、そのままカレブが傘(木刀)で相手の傘ごと「相手をなぎ倒した。そしてジョシュアがターゲット(敵のクライアント)を確保してゲーム終了である。

 

 次はこちらがディフェンスである。試合時間は5分。カレブを前衛に出し、二人でクライアントを左右から挟み込んで守る「魚鱗」というフォーメーションである。もう後がない敵チームは、何とかカレブにスタンガンを当てようという作戦で来るのだが、振り回される木刀(傘)のせいで近寄れない。業を煮やした敵チームは今度は三方から囲んで、チームの弱点(俺のことな!)をたたく作戦に出る。しかし、それはカレブに各個撃破の機会を与えたに過ぎなかった。制限時間の5分が終了。俺たちの完全勝利だった。俺は自分の作戦が見事にはまったことに満足感を覚えつつハイタッチで勝利を祝う。


 俺たちが意気揚々と引き上げてくるとエリカがふくれっ面をして立っていた。

「ねえ、あたしの出番は?ねえ、あたしの出番は?」

普通、楽できてよかった、というくらいの形だけの抗議なら理解できるが、こいつの場合はマジでそう思っていたりするのが恐かったりするのだ。

 「ま、とりあえずベスト8進出おめ、ってことで。エリカも乙でした。」

俺たちは笑顔でその場を押し切ったのだった。

バトル小説の難しさに自分の限界を感じる作者。応援よろしくお願いしますな件

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