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はるかかなたのエクソダス  作者: 風庭悠
第6章:白鳥の騎士(パーシヴァル)~王との邂逅編
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第45話:わたしは「ことり」 

 尊とアーニャの寝室は今夜は賑やかであった。明日からしばらく尊がいない、ということで妹たちが乱入してきたのだ。"水入らず"を期待していたアーニはむくれていた。


「ねえ、尊さん。ちゃんと帰って来ますよね。」

妹たちがようやく寝付き、二人でベッドに横たわると、アーニャは尊に尋ねた。

「ええ、まだ対決ではなく、準備の段階ですから。それほど危険性は高くないですよ。」

尊の少し自信の無さげな発言にアーニャは不安げに尋ねた。

「失敗する可能性もあるの?」

尊は天井を見上げたまま答える。

「そうですね。私が指導者としてテラノイドに受け入れられるかどうか、そこが問題ですね。」


「きっとあなたなら大丈夫よ。」

アーニャの声が明るくなった。

「どうして?」

「だって、私の"魔法使い"さんだもん。」

尊は笑いを噴き出しそうになり、それを必死にこらえた。ここで妹たちを起こすわけにはいかない。


「ねえ尊さん。」

アーニャが尊の指に自分の指を絡める。

「ん?」

「あたしに名前を頂戴。」

「名前……?」


「あなたの言葉の名前が欲しいの。私、不安なの。エンデヴェール故郷ヌーゼリアルに帰ってしまったら、私は一人になってしまう。だから、この惑星ほしが私の故郷だっていう証が欲しいの。」


「なるほど、わかりました。」

尊はしばらく考えた。これまでの楽しかった日々が思い起こされた。これまで互いを必要とし、分かち合って生きてきた。それは誰かに強制されたものでもなく、尊が望み、自ら選んだものであった。この思い出があれば、尊は決して自尊心を失ったり挫けたりしないだろう。

 

 その象徴的な光景を尊は思い起こしてきた。羊飼いの仕事の帰り、美しい夕景の中、バイクをアーニャと二人のりで家路につく。そんなとき、いつも、アーニャは歌を歌ってくれた。アーニャがアーニャの母君から教わったヌーゼリアルの歌、尊が教えたテラノイドの歌。いつも小鳥が囀ずるような可憐で、美しい声で。そして二人が初めて結ばれたあの日のことも。


「ことり。『不知火ことり』はいかがですか? アーニャの歌は小鳥の囀のように美しく、可憐で、私の癒しの源ですから。」

「はい……嬉しい。」

尊がアーニャを抱き寄せると、アーニャも尊の腕に自分の身を寄せながら

「不知火…ことり。」

と何度もつぶやき嬉しそうに微笑んだ。


 翌日、尊は村人に車を借り、ローレンさんとシモンを伴って、宇宙船"ネーヅクジョイヤ"が横たわる渓谷へと赴いた。宇宙船を守ってきた二人の護衛オズワルドとペイジはローレンの姿を確認するとすぐに駆けつけ、その足下にひざまづいた。


「陛下、ようこそお越しくださいました。」

 これまで、家族の必要が生じると、それを売って家族の糧とするために何らかの文物を取りに来る、そんな日々を続けてきたが、ここ数年は暮らし向きも上向き、この二人に差し入れを持って来る、そんなことも増えて来ていた。


 二人の案内のもと尊たちは艦橋(ブリッジ)に案内された。尊は球体の水晶のようなコントロールボールを目にすると、それに触れる。ヌーゼリアル語の表記が現れる。尊は流れるメッセージに留意しつつ、システムのチェックに入った。


 オズワルドとペイジは不安そうな顔で、尊、モニター、ローレンさんを順々に目を配っているようだった。尊としては少し気を散らされることが気になったものの、二人の恐らくは23年を超えるであろう護衛の日々を考えると、席を外すことを求めることは出来なかった。


 2時間ほどのチェックを終えると、問題の箇所が分かったようで、尊はオズワルドとペイジに機関室を案内するよう求めた。無論、船内のことは誰よりも既に詳しくなっていた尊であるが、二人の長年の労苦を考慮すれば、まず彼らに尋ねることが敬意を示すことになるだろう、そう配慮したからでもあった。機関室はほぼ密閉されており、所有者ですら開けられないような仕組みになっていた。


 手前にある機関制御室に入ると、紫色に輝く宝石のような石がはめこまれていて、そこのひびが入っていた。


「やはり、"賢者の石"が原因か。」

尊が手を当てると、尊の左の目が金色に輝き出す。すると、ひびが音もたてずに修復されていく。見守る者たちは、ただ訳もわからずひたすらこの作業を注視していた。


「エンジンは治るのか?」

ローレンの問いに尊は意外な答えをする。

「この船にエンジンはありません。」


みなが絶句するのを尊は楽しそうに眺めている。

「エンジンはこの物質(電子)界ではなく、アストラル(重力子)界で常に回りつづけています。その動力がこの『賢者の石』によって転送・供給されてくるのです。まあ、町全体の冷暖房を供給するセントラルヒーティングの乗り物版だと思ってください。」


「ワープドライブは可能なのか?」

ローレンさんはさらに尋ねる。


「そうですね、そちらはもう少しかかるかと。あと正確さを帰せばワープドライブではなく、アストラルドライブです。」

「どう違うの?」

シモンの問いに尊は

「簡単に言うと、ワープドライブは物質の粒子を波長化させて航行しますが、アストラルドライブは物質(電子)を情報(光子)化させて航行します。」

みなの頭にクエスチョンマークが乗っているのを見て尊は


「さて、まずはオーバーホールが必要なので、航行はできませんが、少し動かしてみましょうか。」

と提案した。

ちなみにモチーフのモーゼの奥さんの「チッポラ」も小鳥という意味の名前だそうで、歌が好きだったそうですよ。

 いよいよ明日第一部完結します。第2部新連載のお知らせもありますよ。

評価の方もよろしくお願いします。

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