第4話 熱血バトルの予感がしてワクワクがおさまらない件
「確かに労務者チームが出てはいけないことはないが、出場にはポイントが必要ではないのですか?」
チームメイトのラザロが尋ねる。相変わらず冷静なやつめ。大会はトーナメント形式で、一大会32チームと決められている。一回戦から準々決勝までが一日目で、二日目には準決勝と決勝が行われる。
出場チームは週末に行われる練習試合を戦って、それで得たポイントをもとに決められるのだ。
「大統領盃といえば、大学生の三大カップの一つじゃないですか。」
キャプテンのカレブも疑問を投げかける。
ここでひとまず俺たちのチームを紹介しておこう。
先鋒を務めるのはチームの紅一点であるエリカ・バーグスタインである。ちなみに護衛体技に男女別という概念はない。というのも護衛対象者に襲い掛かる暴漢が男であるとは限らないし、護衛者が女性だからという理由で手加減してくれるテロリストもまたいないからだ。とはいえ、エリカに関しては心配無用で、戦闘能力は俺なんかよりはるかに上なのだ。
次鋒はジョシュア・セルバンテス。髪の毛が金髪(地毛)で服装もルーズなのでちゃらい男とみられがちである。しかし見た目によらず、攻守のバランスに優れ、状況に臨機応変に対応する能力に秀でる。以外に忍耐強い性格で根気よく相手の攻撃を潰したり、敵の足止めなどをやらせると絶大な能力を発揮する。本人曰く、自分は末っ子で兄や姉の傍若無人に耐えてきた賜物だそうだ。普段は見た目通りおちゃらけていてチームのムードメーカーでもある。
中堅はラザロ・ビスコンティ。胆の坐ったやつで、慎重さと大胆さを兼ね備えている。その黒々とした頭髪はいつも短く整えられていて、銀縁の眼鏡をかけているため、「執事」と裏では呼ばれている。最初は「セバスちゃん」って何かと思ったが、著名な執事の名前らしい。執事なのに著名とか、わけがわからない。さて、爆弾処理演習などをやらせると、やつの右に出るものはまずいない。銃を持てる身分だったら、狙撃手を任せられるだろう。いつもは寡黙な奴だが、隙あればいいことを言ってやろうと狙っているところがたまに傷なのだが。
副将は俺、ゼロス・マクベイン。作戦参謀(NO.6と呼ばれ、通常は選手と兼任しない)も兼ねていて、攻撃の時は司令塔的な役割を担う。戦闘能力に関しては残念ながらチームの中では今一つであり、逆にNO.6一本で、と希望していたのだが、主将の意志が堅く、調教師と俺が折れざるを得なかったのだ。まあ、危険を察知する能力が高く「スナイパーハンター」がダントツの好成績だからかもしれない。因みにこの能力に「 臆病風」というありがたい名前をつけてくれたのはほかならぬマリアンである。
最後に主将、カレブ・ヨハンソンである。大きな体格で、身長も2Mを超え、パワーも圧倒的だ。しかも敏捷性と柔軟性も併せ持っていて、防御の要となっている。
それぞれ個性は違うが、チームとしての結束が固い。そして 「One for All,All for One」一人はみんなのために、みんなは一人のために。ができる仲間なのである。
どうも、アマレク人のチームに棄権者が出たらしく、員数合わせに特例措置が設けられたようだ。噂だとアマレク人の競技者は年々減少しているらしい。
「こんな時代なのにねえ。」
エリカが皮肉を言う。
「まあそういうな。競技ならいざ知らず、『戦線』みたいな本物のテロリスト相手に戦いたいとか普通は思わないだろ?」
カレブが一応フォローする。
「でも、向こうには銃があるんだけど。試合の前提条件から無理がありすぎなんだよ。」
俺は作戦参謀として不満を述べる。
「傘(TU)で何とかしろ。作戦は頼むぞ、ゼロス。」
カレブもそんなことはわかりきっているのだ。アマレク人の運営が求めているのは「犠牲のヤギ」なのだ。俺たちがコテンパンにやられ、やっぱりテラノイドは劣等種だ、と留飲をさげたいだけなのだ。
「お前ら、一つ言っておくが、この権利は、お前らが今回の品評会で優勝しないとダメなんだからな。」
調教師が念を押す。
「そうだよね、まずは品評会での優勝が先よね」
エリカが繰り返す。
「……だね。」
ラザロも同調する。
「それじゃあ早速トレーニング開始だ!」
ジョシュアも気勢を上げる。
「おお!」
皆の気持ちが 一つになったところで、トレーニングルームとは反対方向へと向かう俺の腕をエリカがつかんだ。
「ゼロス~。どちらへ?」
エリカが眩しすぎる笑顔に加え、こめかみに怒りマークをちけて俺に問う。
「いや、対戦相手の分析とか、作戦立案とかNO.6としてもやることがいろいろと…」
俺はトレーニングが大嫌いというよりは、大の苦手なのである。」
「まずは短所を削りましょうね。」
エリカは細く引き締まった腕で俺を引っ張る。残念ながら俺の膂力は彼女より下だ。
「俺は長所を伸ばす方向で…」
俺の抵抗も虚しく引きずられていく。
「OK! 褒めて伸ばしてあげるから覚悟してね。」
助けを求めてカレブを見ると、カレブは葬送行進曲として口笛で「ド●ドナ」を吹きだした。
「かわいそうなゼロス~。売られていくよ~」
ジョシュアに至っては口笛に合わせ、音程は外して変な替え歌をうたい、ラザロは必死に笑いをこらえていた。
一応、俺たちのチームは、「品評会」では負け知らずなんですけど。