第40話:キャッキャウフフの陰では大変だった件
「ゼロスが逃亡奴隷に?」
エリカたちが休暇を終えて学院に戻るとその話でもちきりであった。
「なんでもアネジイブ大学にお礼参りをしたそうだ。」
「お礼参り」とは、護衛体技の選手が時々おこす、いざこざや私闘騒ぎを指す隠語である。
その後の警察の発表でゼロスがアネジイブ大学の選手5人を射殺し、と逃亡した、というニュースが入ってくる。
「俺が入院している間にとんでもないことになっているな。」
退院して復帰を果たしたカレブが頭をかいた。
「しかし、おかしいとは思わないか? 銃のないやつがどうやって『射殺』するんだよ。この発表にはなにか裏がある。」
ラザロも首をかしげた。とにかく、情報が少なすぎる。
「マリアンが退院したらしいよ。」
彼らの休暇空けごろからマリアンも緊急に入院しており、なんの手がかりもなかったのだ。
しかし、マリアンには政府から派遣されたSPがはりついていて接触もできない状態が続いた。
「あたし、(マリアンのクラスメイトでエリカの義妹)カタリナに頼んでみる。」
エリカは義妹のカタリナに頼んで、マリアンを家に招待してもらうことにしたのだ。そして、
ボイスレコーダーをしかけ、会話を録音してもらった。
「スパイ映画みたいでドキドキするね。」
カタリナは喜んでひきうけてくれた。
カタリナの録音されたマリアンの話は驚くべきものだった。
「ずいぶん、説明がこなれている、っていうかまとまっているな。」
ラザロが分析する。
「恐らく何度も何度も繰り返し聞かれたんだろうな。」
「ジョシュア、確か、お前の実家、ラザフォード家はGOSENの委員だったよな?」
不意にカレブがジョシュアに尋ねる。
「なんで?」
「いや、地球教関係ともつながりが深いと思って。お前、ゼロスの元の名前を聞いたことがあるか?」
ジョシュアはいったん首をかしげ、
「シラヌイ・タケルていったっけ?珍しい名前だよな。」
カレブは自分の手帳を広げた。
「これがそのつづりだ。ゼロスが自分で書いてくれたんだ。」
そこには見たこともない字(漢字)で「不知火尊」と書いてあった。
「なんだこの字?標準語じゃないな。」
ジョシュアがいうとカレブもうなずく。
「今度、実家に帰るときに調べてくれないか?」
「いや、すぐにでも調べてもらうよ。俺んとこは実家同士仲が良いんだ。」
ジョシュアの父親は元はセルバンテス家の奴隷養子で、今の当主(ジョシュアの養父)と彼の実父は義兄弟なのだ。だから交流が深い。
1週間後、ジョシュアは興奮気味にやってくる。
「大ニュースだ。ゼロスの正体がわかった。」
皆ジョシュアの周りに集まる。彼の手にあったのは「スフィア王国史」という古い本だった。
「この写真見ろよ。」
それは王国建国の経緯であった。キングアーサー中心に、10人の騎士と1人の魔導士が並ぶ。
ジョシュアが指をさしたところにゼロスがいた。
「ゼロスだよな、間違いなく。」
「どうかな。他人の空似じゃないの?」
「ていうかなんで1000年前の写真にゼロスがいるんだよ?」
そして、ジョシュアが指をすっと下したところにその名はあった。
「不知火尊=パーシヴァル」
「つまり彼はハイ=エンダ―(High Ender)ということ?」
ハイ-エンダーとは、キング・アーサーの眷属で、この惑星の先住民「ケルビム」と契約し、その知恵や技術を縦横無尽に使えるという伝説の存在である。そしてこの王の眷属は標準文字ではなく漢字を名前に使うという。
ちなみに、ジョシュアの実家ラザフォード家は、王国時代は貴族(ハイ=ランダー)の家だったそうだ。
「そうすると全部つながるな。一応。」
ラザロがまとめる。
「ゼロスはハイ=エンダー、しかも四天の一人、パーシヴァル、となると話がでかくなりすぎる。」
ジョシュアが思い出したように補足する。
「だから、ゼロスの逮捕に協力してくれってオヤジが。」
「え?」
みな硬直する。
「あいつの脳の中にはベリアルというアプリが入っていて、どうしても政府がそれを欲しいらしい。」
「それはやばいものなのか?」
「詳しくはわからない。政府がゼロスの生け捕りにこだわっている理由がそれらしいんだ。」
ここからジョシュアは筆談にはいった。盗聴されていることもわかっている。ジョシュアは紙に
「俺はこれから政府の協力者のふりをする。そうしないと、セルバンテスもラザフォードも立場はやばい。GOSENも政府もゼロスの敵だから。でも俺を信じてくれ。俺は絶対にゼロスやお前たちを売ったりしない。みんな、逮捕されるはずだ。ゼロスの共犯として。」
みんなうなずく。ジョシュアは本をラザロに手渡した。ジョシュアは筆談に使った紙をシュレッダーにかけた。
やがて、ジョシュアの予告通り、ジョシュア以外の3人がゼロス・マクベインの共犯として逮捕される。エリカとラザロは未成年であるにもかかわらず実名で報道された。そして3人は同じ刑務所に収監されるがそのことも報道された。
「俺たちはエサだ。ゼロスに対するな。」
ラザロがつぶやく。でもジョシュアがGOSENの関係者であるためひどい扱いはうけなかった。
「ゼロスは必ず俺たちを助けにくる。俺たちはそれまでの時間を有意義に使おう。」
裁判で有罪判決が降った後、カレブはラザロとエリカに言うと、二人ともうなずく。
そう、体は奴隷でも、心は自由だ。俺たちはゼロスと共に戦う。そう「選んだ」のだから。
次回は「マリアンの決意」についてのお話だよ。更新は明日の正午だ!




