第39話:王様の『あれ』がもの凄かった件(全年齢対象です)
ついに学校の「保健室」が日の目を見るようになる。尊とアーニャが村の診療所を始めたからだ。無論、テラノイドの尊が一人で始めたとしたら誰も寄り付かなかっただろう。所詮は「無免許医」である。しかし、エンデヴェール家の信頼感は高かった。
アーニャのやけどを知るおばちゃんたちのおかげである意味、天然なアーニャは守られていたのかもしれない。それはそれは、化け物のように醜い体、と喧伝していたおかげで、怖い者見たさでアーニャに近づくものさえいなかったからだ。だからこそ、すっかりきれいに治ったアーニャの肌を見ると、まずおばちゃんたちが診療所におしかけてきた。
「アーニャちゃんみたいに、きれいになれるって本当なの?」
ここはエステじゃねえ、と怒鳴りたいところをこらえ、
「皆さんの場合、すでにDNAが劣化してますからねえ。若返ったりはしませんよ。なにしろ設計図通りになるだけですから。」
笑顔でもっと酷いことをいってやった。まあ、おばちゃんたちはちんぷんかんぷんだろうけど。
「気をつけろ、尊。ババアどもは悪口を言われてくらいは気が付いておるぞ。ババアをいじる時にはコツがあるのじゃ。『ああ、あのときあなたは若かった。そう、まるで妖精のように。あれから30年。かつては妖精。今はようか……』」
待て、ベリアル。いろいろやばいからそれ。
それでも、その年齢に応じた健康体へ近づけることはできる。噂は噂を呼び、診療所は繁盛した。
事故で欠損した部分を再生治療するなど、ドラスティックな効果は尊が名医では済まないことを示している。尊は治療してもらったことを口外することを禁じた。それでも、周囲の村から人が押し寄せる。
(うーむ。祈祷師スタイルの方が金が稼げたかもしれぬのう。)
ベリアルがさらっと恐ろしいことを言う。悪魔の二つ名は伊達ではない。
むろん、尊の治療にも限界があった。原因がストレス性のものであったり心の病気であったりする場合は、効きようがない。尊も所詮は人間なのである。
(そこは信心とお布施の不足にしておけば無限ループでがっぽりだったのにのう。)
ベリアル、ほんと怖いからそれ。
時はあっという間にすぎ、8月を迎える。エンデヴェール家の校庭は村の広場もかねており、村総出で夏祭りの準備が行われている。
保健室からも校庭の活気が見える。
「今年も『あれ』が楽しみずら。」
待合室でお年寄りたちが盛り上がっていた。
「どうしました?ずいぶんと盛り上がってますね。」
尊が尋ねると、どうやら、「ダンスコンテスト」の『あれ』が楽しみらしい。ただ、尊としては、村人の「ダンス」する姿に行き会ったことはないのだが。
「尊さんはダンスができるのでしょう?」
クララさんに聞かれる。
「はい、義妹の練習につきあわされていましたから。人並みですが、一通りは。」
俺が答えるとクララさんは嬉しそうだ。
「よかったわね。あなた。」
「うむ、『あれ』も今年が最後であるな。」
なぜか夫婦で喜んでいる。『あれ』ってなんだ?
「ねえシモン。『あれ』ってなんだかご存じですか?」
「うちの両親の『あれ』のこと?まあ、祭りになればわかるから。お楽しみに。」
とシモンにもはぐらかされる。アーニャですら教えてくれない。妹たちも「内緒」ととりあってくれなかった。
「あれ」ってなんだろう?無論、そんな些事を気に留めている場合ではなく、俺は診療所とキングの探索に明け暮れていた。
そして夏祭りがめぐってくる。貧しいながらも、祭りのための準備をおこたらないのはテラノイド共通のようで、都市部の奴隷も夏の休暇はたいてい故郷に帰って祭りを楽しむ。
俺も三姉妹の面倒を見ながら屋台を回る。はしゃぐ三姉妹の手を引きながら、地球時代の夏祭りを思い出していた。
無線で放送が始まる。
「夜8時より、旧体育館で『あれ』が行われます。みなさんお誘いあわせの上、起こし下さい。」
正式名称が『あれ』ですか。
夜8時を回ると、みな体育館に集まり始めた。夏の夜だが、比較的乾燥した地域にあるため、ミーディアンの夜は快適である。
スポットライトが点くと村の村長さんが司会を務めていた。ダンスコンテストの始まりである。
「では、優勝を発表します。ローレン・エンデヴェール、クララ・エンデヴェール両陛下です。」
(のっけから優勝とかありえんな)
最近医療マシンとして酷使されてお疲れモードのベリアルが突っ込みをいれた。
そのあと豪華な副賞が発表される。進呈されたローレンも嬉しそうだ。ただ、極上品のワインを見る眼差しが妻に対するそれよりもより愛おしそうで、クララさんにヒールで足を踏んづけられていた。
表彰が終わる。
「それではダンスを披露していただきましょう。お願いいたします。」
スポットとともに手を取り合って体育館中央に進み出る二人。音楽が始まる。滑り出すようにダンスを始める二人。さすがに息がぴったりだ。
しかし、穏やかなワルツで始まった曲はやがてリズムを変え、テンポもどんどん激しさを増していく。そして二人のダンスも激しさを増す。
「競技ダンスか!?」
尊は開いた口がふさがらない。拍手が沸き起こる。そんな激しくも美しいダンスは3曲披露され、二人は汗びっしょりになりながら退出した。二人が見えなくなるまで拍手は続いた。俺は正直こんなに動くローレンさんを初めて見た。
「お兄ちゃん、『あれ』すごかったね。」
呆気にとられている俺のひざにブリ子がのる。俺はぐっすり寝てしまったタラ子を抱き、背中を占拠するサバ子で立ち往生していると、クララさんの世話が終わったアーニャが助けに来てくれた。
アーニャがいうには、1年でローレンが唯一労働するのが「あれ」、つまりダンスなのだという。ただ、日ごろからそれを口にすると、へそをまげてやらない、と言い出すことから、みな「あれ」としか言わなくなったのだという。
(泥棒も捕らえてみればなんとやらだな)
俺がベリアルの発言にうなずいたのは初めてかもしれない。
「来年からは尊さんと姉ちゃんでやれってさ。」
シモンがほっとしたように言う。
「俺にお鉢が回ってくる前にパス出来てよかった」
そう顔にかいてあった。
「忙しいとは思うけど、これから二人をみっちりしごいてやるから週1で時間空けといてくれって両親が。」
俺の肩をポンとたたくとシモンは颯爽と去って行く。
俺はがっくりとうなだれた。
この『あれ』が尊の役に立つのはまだずっと先の話です。次回、幸せいっぱいの尊の裏ではチームメイトたちが大変なことに、明日の正午も来てちょんまげ。




