第22話 俺の覚醒と、脳内妹まで現れた件
俺の嫌な予感が的中しそうだ。男二人がマリアンを押さえつける。
「お前の前でお前の義妹を(ぴー)してやるよ。お前はたった一人の女の子も守れない、無能なボディガードだ。」
「この奴隷が。思い知れ。」
マリアンは絶叫しながら抵抗している。
「それだけは勘弁してください。俺はどうなってもいいですから、それだけは。」
俺は声を張り上げて哀願する。できれば起き上がって土下座をしたいくらいだったが、骨折の痛みでそれもままならない。
「じゃあ、土下座してみせろよ。」
男が無情にも言い放つ。俺は起き上がろうとしたが激痛で突っ伏した。
「お兄ちゃん、助けて!」
マリアンの叫びに俺のストレスは限界に達した。
「力が欲しいか?」
聞き覚えのある少女の声だ。俺が目を上げると、そこには10歳前後の幼女が青い縁取りの白いローブを着て、俺の目の前に立っている。俺はこの子を知っている。そう、俺が不知火の家にいたとき、俺の義妹だった少女。茉莉の在りし日の姿だ。でも、茉莉は俺と1つしか違わない。いまだにこんな背丈のはずはない。
「あの世へのお迎えなら、もう少しセクシーな天使がよかったのに。」
俺の言葉は口から出ていなかったが、彼女には通じるらしい。
「なんじゃ、尊よ。まだ元気みたいじゃな? 実はの、一度このセリフを使ってみたかったのじゃ。カッコよいとは思わぬか?」
その声は、俺の脳内に巣食う「居候」の声であった。
「ベリアル……か。茉莉の姿と声は止めろっていっているだろう。」
「何を言う。われの姿は宿主の願望に基づいて構成されるのじゃ、このロ●コンめ。」
「可愛い義妹に欲情なぞするか、バカモノ」
俺は記憶を取り戻しつつあった。ただ、今は再会や俺の記憶の回復を喜んでいる場合ではない。
そのときだった。マリアンを押さえつけている男が「ひいっ」と悲鳴をあげた。俺の左目が金色に光っているのである。骨がボキボキと音を立てて再生する、肌の表面に、粒子状の光が文様のように浮かび上った。
「や・め・ろ……。」
俺が両腕、両足の手錠を引っ張ると、稲妻のような炎が一瞬にしてあがり、ちぎれる。空気中のナノマシンを駆使してプラズマをつくり、一瞬の高熱で鎖を焼き切ったのだ。
目の前の光景に男たちもマリアンも呆気にとられた様子でこちらを見ている。ものの1分もしないうちに俺の体は表皮も含めて完治した。
「化け物め。」
俺の身体から痛みが引く。頭の中が異様にすっきりしている。俺は、ほかの人からもベリアルの姿が見えているのかと思ったがそうではなった。視線が俺に集中しているところからして、俺のことをさしているのだろう。
「おやおや、それはお互い様ではないですか?人の皮をかぶった獣のみなさん。そろそろ義妹をお返し願えませんか?」
男たちは俺の高圧的で低姿勢な態度にひるんでいた。
「貴様、魔法使いなのか?」
声が震えている。
「さあ、一応童貞ですが、30歳はまだ先ですよ。」
俺は場を和ませるつもりだったが相手はそう感じなかったらしい。男たちはマリアンにナイフをつきつけた。俺は、もう一度プラズマを発生させると。そのナイフに電流をはしらせる。
「あつ、痛っ」
男の戒めがとけ、マリアンは俺に駆け寄り、俺の背後に回った。
「ねえ、大丈夫なの?あんなに酷いことされたのに、お兄ちゃん、大丈夫なの?」
マリアンは本当に心配そうに俺に訊く。あれだけ怖い思いをしたのに俺を気遣うとは、何年ぶりの可愛さだ、義妹よ。
「ええ、もう大丈夫です。お義兄ちゃんは鍛え方が違うのですよ。」
(どんな鍛え方じゃ)
頭の中からベリアルが突っ込みをいれられる。俺は改めて男たちに向き直った。
「私に対する暴行には目を瞑りましょう。しかし、義妹に対する狼藉は看過できません。大人しく投降し、罪を償いなさい。みなさん、まだお若いですし、暴行も未遂ですから、今ならまだ間に合いますよ。」
俺は、頭に入っているアネジイブ大学のチームの選手名簿を一人ひとり読み上げる。男たちに動揺が走る。自分の正体をしられている、というのは彼らにとって恐怖だったのだ。そりゃ卒業や就職を控えた時期にこんなことをやらかす自分たちの自業自得ではあるが。
「もう、二人ともぶっ殺して、口をふさぐしかない。なかったことにしてやる。なかったことにしてやる。」
ナイフで俺に切り掛かるがその切っ先は虚しく空を切る。
「もしかして、まだみなさんは自分たちに分があるとおもっておられるのですか?」
俺は驚いた。しかし考えてみると、彼らが奴隷一人に引け目を感じる理由は一つもなかった。
「地球人種はこの惑星の大気を人類の棲息に適応させるため、おびただしい量のナノマシンを散布しました。いえ、今でもそうしています。私はそれらを意のままに操ることができる、それだけのことです。ただの科学ですよ。今、この部屋の水分量は私によってコントロールされています。光の屈折率など、容易に変えられるのですよ。」
ついに彼らは銃を抜きそれを射った。水槽の中から人を撃つようなものだ。当たるはずもなかった。
(何をしておる。パーシヴァルよ。この無礼な虫けらどもを一思いに、ナノレヴェルまで分解せい。)
脳の中でベリアルが不穏当なことを言う。
「いいえ、生きているからこそ、恥辱と痛みを感じることができるのです。一思いに死んで楽をしようなど、私は許しません。」
俺はもう一度彼らにプラズマ電撃をお見舞いする。彼らはみな失神してしまった。もとはただの静電気なのに、大した威力である。
(相変わらず、エグイのう。惚れ直しそうじゃ。)
「いいえ、お断りします。」
俺は丁重に断った。
そして、失神した連中を彼らの持つ手錠でつなぎ合わせ、自分の手にぶらさがっているものやマリアンを束縛する手錠を解いた。
「マリアン、長居は無用です。」
俺はマリアンの手を取ると外へ向かう。途中、、入り口付近の部屋に監禁されていたストーさんを見つけ、解放した。俺は事の次第を簡単に説明し、警察への通報を依頼した。
「マリアン、ここでお別れです。」
俺は車に入っていた自分の荷物を取ると。唐突に別れを告げた。
「お兄ちゃん、どこに行くの?行っちゃいやだよ。」
俺とマリアンの呼び方が数年ぶりに「マリアンとお兄ちゃん」に戻っていることにストーさんは驚愕していた。驚くとこそこ?俺は心の中で突っ込んだ。
「お兄ちゃんはちょっと逃亡奴隷になってきます。私がいると間違いなくマクベイン家に迷惑がかかりますから。ストーさん、旦那様にホテルのお礼をお伝えください。」
「帰ってくるよね?……お兄ちゃん。」
「ええ、マリアン。たとえどんなに離れても、あなたにとって私はゼロス・マクベイン、あなたのお兄ちゃんです。それは約束します。マリアン、警察にはあったことをありのままに、正直に話すのですよ。わかりましたね。」
「……うん。」
俺はマリアンを抱き寄せると髪を撫でた。これが俺とマリアンの最後の接触になるだろう。
(では、出発じゃ。)
ベリアルは俺に光学迷彩をかけた。二人の目からは、俺は忽然と姿を消したように見えただろう。
(後悔しておるのではないか?)
「そうだな、お前を入居させたことはな。おかげで賞金首は間違いなしだ。」
そう、このベリアルこそ、アマレク人がこの惑星に移民してまで欲した力の鍵だからだ。
覚醒? ベリアルって何?怒涛の展開にとまどうあなた、明日ですよ明日。次回「第23話 俺の正体が明かされはじめ。チートの香りがする件」明日も見逃すな。




