第20話 良い夢ってすんでのところで目が醒めることって多いよねという件
[星歴992年11月12日]
俺は荷物を手にチェックアウトすると、ホテルの外でストーさんとマリアンが迎えに来ていた。俺が意気揚々とまではいかなくても、何か吹っ切れているような表情をしているのを見て、少し安心したようである。
「しっかりしなさいよ。ボディガードさん。」
それだけ言うとマリアンは車に乗り込んだ。
「休暇は楽しめたかね?」
ストーさんの問いに
俺はいつものテンションではい、と答えた。
帰り道の車内も相変わらず無言だった。でも流れる空気は嫌なものではなく、なんとなくだが穏やかなものであった。
「あれでもお嬢様はずいぶん君のことを心配なさっていたんだよ。」
先日と同じように不機嫌そうに窓外を不機嫌そうに眺めるマリアンに聞こえないようにストーさんは俺にそっと言った。
「なんか言った?」
マリアンが両手を伸ばし、大あくびをしながら絡んでくる。お行儀悪いぞ、妹よ。
「おや、なんだか危なっかしいねえ。」
ストーさんの声に驚いて前を見ると、前を走るピックアップトラックの積み荷がゆらゆらと揺れて荷崩れをおこしかけていた。。
「ロープの掛け方が甘いのでしょうか?」
俺の分析に、
「そうだね、用心に越したことはない。少し車間を空けようか。」
そんなことを言っているうちに、その積み荷が崩れ始めた。ストーさんがクラクションを鳴らすと、トラックの運転手も気づいたようで、車を路肩に寄せると、落ちた荷物を拾い始める。
俺たちも手伝い、ストーさんがしっかりとロープをかける。今度は大丈夫なようだ。ドライバーさんもテラノイドで俺たちに何度も丁寧にお礼を言ってから車を出した。
「さすがストーさん、なんでもできますねえ。」
俺が褒めると、ストーさんは照れ笑いを浮かべながら
「いや、あれくらいはできて当然でしょう。」
満更ではなさそうな笑みを浮かべた。
「ねえ、さっきの運転手、お礼です、ってジュースくれたよ。」
振り向くとマリアンがジュースの蓋に指をかけていた。なんとも不自然な形ではある。
「なんかヘンな形~。」
マリアンは右手に抜かれたピンを持っていた。いや、よく見る形のピンじゃないか。
俺はそのよく見る形が食品のパッケージとしてではないことに気づいた。
義妹よ。そいつは音響閃光榴弾!しかも飲料缶の偽装仕様ときている。本来は人を騙すためではなく、ただの遊び心なのだが。
「ストーさん、ブレーキ! マリアン!!」
俺はマリアンの手からスタングレネード)を叩き落す。そしてシートの間からマリアンを引き寄せ、俺の胸に顔をつけさせ、その両耳を塞いだ。
俺の胸にナニスンノヨ!とマリアンの声が振動する。
その瞬間、車内は耳をつんざくような大音響と、瞑った瞼の裏さえも真っ白に染め上げるかのような激しい閃光で満たされた。ストーさんも急ブレーキを踏む。俺もくらった経験がないわけではない。しかし、ここまで至近距離で、しかも閉鎖空間でやられたことは初めてだ。俺はマリアンを抱きしめたまま気絶していた。
俺は夢を見ていた。そう、マクベイン家に初めて足を踏み入れたあの日のことだ。小さな、そう、小さな女の子が泣いている。マリアンだ。あの頃のマリアンは、掛け値なしで可愛かったのだ、本当に!
「お兄ちゃんがいなくなっちゃったの。」
幼いマリアンが俺に必死に訴え掛ける。
「私がお兄ちゃんの分のプリンを食べちゃったからかな?」
彼女にとっては真剣なのだろう。ただ、俺は笑いを噴き出しそうなのを堪えながらマリアンの頭を撫でる。
「いいえ、そんなことはないよ。僕はマリアンのお兄ちゃんから、マリアンのプリンを作ってくれるように頼まれてこの家に来たんだよ。」
マリアンを慰める。マリアンの顔がぱあっと明るくなった。
「ほんと?」
俺は彼女を不安にさせないよう満面の笑みを湛えながら
「ええ(にっこり)」。
と答える。
「一日3個?」
「1個までですよ(にっこり)」。
「一食1個?」
「一日1個ですよ(にっこり)」。
やばい、噴き出しそう。ああ、耳鳴りがする。
……「お兄ちゃん、お兄ちゃん。」
マリアンの呼ぶ声、そしてゆすられる感覚で俺は現実に引き戻された。
いきなりの拉致監禁、ゼロスは妹を、そして自分を守り切れるのか?次回「第21話 突然のピンチに、「落ち着け」というやつほど解決策が皆無な件」明日もお昼12時にお待ちしています。




