第2話 俺氏、女子校に通う。あくまで生徒で。ただし、男の娘ではないという件
俺は奥様のの話に適当にあいづつをうちつつ、マリアンの仕上がりを待つこと30分、身支度が完成すると登校である。通学には学校から自動操縦のスクールハイヤーが回されてくるのだ。マリアンが座席は4つが会い向かいにセットされており、マリアンの隣に俺が座る。
近年はテラノイドの暦(星暦年)で区切りの1000年が近いことから、救世主が現れる、という信仰があるのだ。それに煽られた者たちが逃亡奴隷となるものが続出しているそうだ。彼らはWHF(人類解放戦線/Warfront of Human's Freedom、戦線という略もある)というテロ組織に身を投じてアマレク人やGOSENの要人や、その子息を誘拐したり殺害したりするため、護衛が必要なのである。なんとも物騒な時代である。
ハイヤーはもう一軒回って生徒とその護衛を拾う。カタリナ・バーグスタインというマリアンの同級生である。護衛はエリカ・バーグスタイン、彼女もやはりテラノイドの奴隷養女である。エリカと俺は同い年である。
学校は首都メンフィスの郊外にある聖バテスト女学院という名門のお嬢様学校である。「女学院」なので生徒はすべからく女子であるが、護衛は男女問わないし、年齢もバラバラだ。俺もエリカも18歳だが、同級生の中には20歳を超える者も珍しくない。奴隷には制服があるが生徒は基本私服である。
護衛(奴隷)の制服は白いシャツに黒いタイ、黒いスーツであり、女子もスラックスである。護衛はスタンガン、特殊警棒、手錠を携行しているし、靴にはナイフが仕込んである。一目でそれとわかる身なりが求められているのだ。
地球人種とアマレク人は容姿にそれほど違いはない。決定的に違うのは肌の色である。アマレク人の皮膚に含まれている色素はメラニンではなく、葉緑素なのである。それで彼らは皮膚で光合成を行って養分や酸素を作ることができる。 それで彼らの肌の色は薄いグリーンから始まり日に焼けると抹茶色になる。だから俺たちは「白いこども(メラノイド)」と呼ばれることもある。
学校にはおよそ20分で到着する。校門の内側に設けられた車寄せでハイヤーを降りると、俺はマリアンの荷物を持って、彼女の教室まで送り届ける。このわずかな時間だけが唯一マリアンが俺に優しいそぶりをする時間なのだ。プロムナードを歩いていると、マリアンの同級生や、上級生やら下級生も次々に近寄ってくる。
「マリアン、ゼロスが護衛体技の学校代表に決まったんですって?おめでとう。」
口々に俺のおかげで褒められる。選ばれたのは俺なんだが。
「まあ、わたくしの躾が行き届いているからかしら。」
奴隷のしつけの良さは飼い主の功績と言わんばかりである。まあ、マリアンの機嫌が朝の仏頂面を思い出せないほど上々なのは喜ばしい限りではある。
エリカも代表なので、カタリナのところにも人が群がっていた。エリカは白い肌に少しオレンジに近い茶色の髪の毛の美少女である。少しそばかすがあるのが彼女のコンプレックスだが、色が白いことの代償だろう。髪の毛はいつもポニーテイルに整えられていて、束ねられた髪の毛がが格技の際、動きとともにぴょこぴょこと跳ねるのが可愛らしい。彼女の実家は貧乏子だくさん家庭の長女で、きわめてしっかりものであり、養女の貰い手は引く手数多であったそうだ。
だからと言って俺は彼女を好きにはなれない。結婚相手を決めるのは主人なのだ。恋愛は仕事の妨げであり禁止なのである。
「まあ、マリアンのご機嫌なこと。」
エリカが言うと皮肉っぽく聞こえるが嫌味はない。
「どっちのマリアンが本物なのかしらね。」
エリカが屈託のない笑みを浮かべる。
「さあ?」
俺も手を広げておどけてみせる。まあ、両手に荷物を持っているからあまり様にはならないけど。
上機嫌の「姫」を送り届けるとしばらくはプライベートな時間が与えらえる。座学も皆無ではないが、基本的にはあまりない。奴隷にはバカなままでいてもらわないと困るのである。学生の「校舎」から自分たちの「厩舎」に戻るとアマレク人の「調教師」が待ち受けていた。
「今日はお前たちによい知らせがある。」
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