第19話 タイトルが綺麗でも内容がとんでもないドラマってあるよね、という件
「クヌムの涙」とは、アマレク人の古代神話からとられたフレーズで、人間はクヌムという神の涙から作られた、ということからとられたらしい。まあ、さすがにそれを信じている人はいないけどね。
俺はこの3日間、ひたすら部屋か、部屋のプライベートビーチで資料を読み漁り、調査することに没頭することにした。もともとチームの作戦参謀である俺は、この手の作業が苦にならない。
俺の立てた予定では、最初の一日で資料を掘り起こし、分類する。二日目でそれを解析し、思考の流れを系統化させる。
そして最終日には結論を導き出し、それと向かい合い、そしてうけいれる。
簡単に言ってみたが、どこまで届くことやら。何せ時間はない。養父から預かった資料だけでも、標準語辞典3冊分はある。
しかし、知りえた事実は俺にとって思ったより深刻なものであった。
まず人造奴隷の主要な生産目的は奴隷の確保などではなかった。その主な目的は惑星外輸出である。 つまり、兵士として、あるいは性的に搾取する対象としてである。その生産も、ストーさんが言うように始まったばかりどころか、奴隷養子制度とほぼ同時期に稼働を始めていた。逆に、奴隷養子制度自体が、この計画に使用される優秀な奴隷の「遺伝子プール」の役割を持たせるためだったといえる。
また、人造奴隷は、惑星間ビジネスで有名な通商国家、フェニキア惑星連邦を通じて銀河系中に売りさばかれ、アマレクに巨万の富をもたらしていたのだ。
そして、 俺にとって深刻なのは人造奴隷の寿命である。平均65歳前後、とされていた。遺伝子操作によって、DNAの細胞分裂因子を酷使し、60歳までは20代後半の容姿、知力、体力を保つことができるが、その後、急速に老化して5年をまたず死に至るのである。
もっとも、自然死を待つことなく安楽死処分が行われことがほとんどだそうである。
また、治癒率も抜群に早くなるよう設定されている。おそらくは兵士として「優秀」な資質だからだ。
また、人造)奴隷は、不妊であり、性的欲求はない。ただし性的快感はあるとのことだ。まあ、その方が、兵士だったら戦場で乱暴狼藉も働かないであろうし、性的な搾取もしやすいだろう。
さすがの俺もハンマーで殴られたかのような衝撃であった。俺ってあと40年くらいで死ぬのか…。
俺は気分が悪くなって吐いた。すがすがしいほどの非人道的である。まあ、アマレク人が俺たちを人間と認めていない証左でもある。俺は、こんな現実を受け入れられるだろうか。
大体養父は俺を信頼しすぎている。こんな資料をチームの奴らに読ませでもしたら、間違いなく何人かはWHF(人類解放戦線)に走ってもおかしくない、そんなレベルである。
[星暦992年 11月11日]
目が覚めた。気分は最悪だ。目覚ましをかけてもいないのに朝6時5分に目が覚めてしまったのだ。それにしても習慣って恐ろしい。
俺には気になる点があった。まず、性欲だが、俺には普通にある。その証拠にちゃんと俺のベッドの下には…げふんげふん、まあ、それ以上は聞かないでくれ。この話が15禁にならないためだ。
そしてもし俺が人造奴隷なら首筋にロット番号がうってあるはずだ。そしてそれもない。その番号は個体識別に必要なため刺青になっており、落ちることはないからだ。
俺は思考の行き止まりにぶち当たった。なぜ養父は俺にこの資料を与えたのだろうか?
俺は自分がマクベインの家に引き取られたいきさつを調べる。すると、俺が引き取られる少し前の事件に、WHFと見られる犯人グループによるテロが国立生産技術研究所で起こっていることが分かった。当時養父は、奴隷輸出に関する国内法を整備するチームにいたようだ。だからこんな資料をもっていたのだ。
でも、俺が理解できたのはそこまでだった。俺の頭ではそこが限界だった。でも、俺は楽天的に考えることにした。俺は人造人間じゃないに違いない。今はまだわからなくてもいい。少なくとも今の俺にはちゃんと居場所がある。
きっといつか、俺の出生の真実について知るチャンスが回ってくるはずだ。
それで、俺はバカンス後半を思いっきり満喫することにしてやった。「アモン・クレメンスに銃を抜かせた男」はテラノイドの女の子にもてもてだった。ただし、デートの時間はあんまりなかったけどな。
そして、その「チャンス」がこの後すぐに訪れるとは予想だにしなかった。それも俺の望まない形で。
ゼロスはいったい何者なのか、そのパンドラの箱を開けることができるのか。次回、
「第20話 良い夢ってすんでのところで目が醒めることって多いよねという件」
投稿は明日も正午。ではまた。




