第15話 「怠慢」な俺が「タイマン」勝負に挑んでちょっとイケメンぽい件
アモンは俺に頭を上げるように告げると、こういった。
「いや、君たちにこんなところで棄権などされてしまっては、勝ちを譲られてしまったようで心苦しい。どうだろう、決勝は君と私の1on1で決着をつけるというのは?」
彼の提案は極めてフェアなものであった。まあ、俺がもう少し「デキる子」だったら即、お願いしますというところだが、「イマイチ」な俺は正直、逡巡していた。
「では、私が…」
事態を察して申し出ようとしたエリカを俺は制した。確かにエリカの腕は俺よりずっと確かだが、さすがに女子に相手をさせようとすることはアモンの矜持と好意に泥を塗りかねない。
「君は、まだ持っているものを出し惜しみをしているように私は感じるのだが。あの、狙撃防御の時に見せる凄さをもう一度見せてほしいのだが。」
確かに直接アモンと対峙した競技ではある意味で俺が彼を負かしたという形になっている。つまり勝ち逃げは許さない、ということかもしれない。さすがは絶対王者である。
そしてあの「臆病風」、あれを仮想空間だけでなく現実でも発揮できたら…。俺は少し色気を出していた。よくよく考えてみれば、本気を出さざるを得ない状況は今をおいてほかにはない。
「ではお言葉に甘えまして。お相手つかまつります。」
俺は言ってしまう。いいんだ。考えてみれば、本気を出してたとえ当たって砕けてもちっとも恥ずかしくない相手じゃないか。俺は王者ではなく挑戦者なのだから。俺は「諦め」たのではない、「覚悟」をしたのだ。
「本気…なの?」
俺のちゃらんぽらんな性格を熟知するエリカが俺に確認を取る。
「ああ、本気でいくよ。」
俺の中にもアドレナリンやらドーパミンやらが噴出しそうなイメージだった。
やがて、場内にアナウンスが響く。
「これより決勝戦が行われます。諸事情により1on1、1本勝負のみとなります。」
待ちに待った観衆からどっと拍手と歓声があがる。奴隷チームの想定外の躍進に歯噛みしつつも、自民族の卑劣ともいえるやり口に辟易していた民衆は、本物の英雄の登場に色めきだつ。コイントスによって先攻は俺に決まった。
「先攻は聖バステト女学院所属。ゼロス・マクベイン。まもるはチャンピオン、メンフィス大学所属、アモン・クレメンス。」
俺に対する観客の目には、英雄に指名された対戦者に対する憐憫と憎悪が渦巻いている。
「ゼロス、結果についていえば、俺たちは決勝戦まで来れて十分に満足している。だから、お前がやれるところまででいい。あの澄ました坊ちゃん面に一発だけでいいんだ、俺たち奴隷の意地をぶつけてほしい。」
ラザロのしれっとした励ましに俺は無言でうなずいた。今はとにかく集中したい。しかしラザロ、「だけ」というわりに注文が無茶すぎるだろ。やつのこの競技での二つ名は「ジ・アンタッチャブル」なんですけど。
地球人種はそれこそ地球にいたころからよくも悪くも戦闘民族だった。だから地球独特の武術はいくらでもある。なんとか不意を衝くには彼の予測範囲を越えなければならないだろう。
時間だ。俺がステージに向かおうとすると、エリカが俺を呼び止めた。
「マリアン、応援に来ているわよ。」
エリカが指さした先に、両親とともにいるマリアンの姿が目に入った、両手を組んで祈るような表情でこちらを見ている。
「Mr.クレメンスのかな?」
「バカ。」
俺のボケはエリカには不評だった。
先攻は俺、つまり刺客だ。良い刺客は、「自分が刃物」そのものになることだという。怒り、憎しみ、恐れ、不安、すべてを棄て、ただ握られたナイフのようになるのである、という。
俺がこの競技を始めた理由はなんだったのだろう。義妹の護衛を務める練習で始めただけだったのに、今は目の前にチャンピオンがいる。
「今日、俺は、チャンピオンと、優勝をかけて、戦う。」
夢を見ているような話だ。それが悪夢かどうかは別として。俺はナイフを構えていた。
試合開始のブザーがなった。
漢にはやらなければならない時がある。ゼロスの刃はアモンに届くのか?次回、「第16話 アンタッチャブルの手触りはアルパカなのかピクーニャなのか教えてほしい件」。投稿は明日正午。触ってご覧、ウールだよ。




