第13話 「当たり前だのクラッカー」がすでに死語であった件
勝ったら勝ったで悩みは尽きない。
「やれやれ、銃抜きで強襲かよ。」
準決勝は明日の午前中だ。今日のうちに仕込みをしておかねばならない。
「何がやれやれよ。やる気満々のくせして。」
エリカが俺を茶化す。
「これがほんとの『やれやれ詐欺』だな。」
ラザロがまたうまいことを言ったつもりのようだ。鼻の穴を広げんな、やれやれ。
数時間後、俺が作業着に着替えて工具のチェックををしていると。来た来た。
「おーい、ゼロス、手伝いに来たぞ。」
カレブ、ラザロ、ジョシュアに加えて補欠メンバーたちも手伝いに来てくれた。
今回のステージは廃ホテルだ。一応予算の関係で二階までしか作れないが、本当はもっと高層だと思ってほしい。侵入口は2階客室廊下突き当りにある、非常階段。そこからまっすぐ一本の広い廊下があり、階段、エレベーターホールへと続く。廊下の両側には客室が並び、ドアは部屋の内側へ開放するタイプである。ドアをあけても、相向かいの部屋から見えないよう互い違いになっている。
広いホールは時計回りに1階へ続く階段がついている。1階は玄関ロビー。正面玄関は回転扉、扉から入ると左手にフロントのカウンターがあり、その奥に事務所兼金庫室がある。フロントの相向かいには大きなレストランホールがある。その奥に厨房さらに奥に、職員の仮眠室や、洗濯室へと続くドアがある。ただし、洗濯室は使用不可というよりは、作られていない。
思った以上に攻めにくく、守り易いとは思う。ただし、銃があればだ。とはいえ、銃がない分。こちらにもハンディキャップをいただける。それは模擬指向性対人地雷である。しかも2個である。そして品評会バージョンよりさらに豪華である。というのも、これまでの5倍の火薬と多数のゴムボールが仕込まれており、まともに食らえば大の大人でさえ失神するレベルなのである。
それが2個。俺の顔もニコニコである。これで何とか試合の組み立てが利くからだ。俺たちは夜更けまで電動ドライバーの音を響かせ、「正義の味方」をしとめる罠を構築していくのであった。そう、ぐつぐつと煮立った怪しい薬の入った鍋をかきまぜる魔女のような表情で。
[星歴992年10月31日]
競技会2日目。準決勝。対アネジイブ大学戦。種目 強襲
シチュエーション:廃ホテル。1階テロリスト「アジト」に監禁された被誘拐者奪還せよ。
対戦相手が2階奥非常階段から侵入を開始する。俺は本来2階の客室で各個撃破の予定だったが、2回戦の俺のミスで鹵獲兵器は使用可能、という奥の手を知られてしまった以上、王道でいくしかなかった。銃が無いため、俺たちは2階の廊下という限定空間で対戦チームを撃破しなければならない。限定空間といっても幅2.5m、高さも3mはある。そして、俺はこの廊下の天井に鉄パイプを何本も渡しておいたのだ。まあ、もっと広い空間では遠距離攻撃も可能な銃が圧倒的に有利なのだから仕方がない。
敵は開放されたドアの中に敵が潜んでいないかどうかを注意深く確認しながら進んでゆく。彼らの眼前にはバリケード、そして件の模擬指向性対人地雷が鎮座ましましている。ラインはバリケード内の俺が握っていて、まさに「手ぐすねを引いて」待ち構えている状況だ。
「厄介だな」
舌打ちとともに敵の呟きが聞こえる。そうでしょ?もっと褒めていいんだから!
敵はクラッカーをゴム弾で破壊する作戦に移る。まあ、そうしなければ突破できないからだ。
ところが敵は意外な方法で突破を図ってきた。音響閃光榴弾を使ったのだ。もちろん規定違反である。というのも、TV観戦していてびっくりした人もいただろう。俺とエリカは衝撃で失神したほどだ。
それを見計らって敵が突撃を開始した。俺たちのチームも迎撃する。まず、カレブがTUを開いて盾にしながら、突進する。当然。銃撃はカレブに集中する。今度はカレブをブラインドにして、背後からジョシュアがダッシュ、カレブの背中を踏み台にジャンプすると、傘の柄を鉄パイプに引っ掛ける。
ジョシュアの傘も特注品で、傘の柄に巻取り式のチェーンが組み込まれ、柄の持ち手の部分には比重の重い金属がしこまれているのだ。
ジョシュアはそれを2本使い、鉄パイプから鉄パイプへと雲梯の要領で伝っていく。カレブにあわせて低い姿勢で銃撃していた敵はそれに対応できない。
あっという間に最後尾の敵に上からキックをいれる。昏倒した敵を部屋の中に引きずりこむと、ラバーナイフで、首筋に貼ってある電極を潰した。を潰した。「死亡」のランプが点灯する。
「一丁あがり」
ジョシュアスペシャルの廊下が功を奏した。
さらに客室に潜んでいたラザロが、カレブに銃撃をしているもう一人の背後に降りると、後ろから羽交い締めにして、やはり首筋に貼ってある電極を潰した。
「二人目。」
そしてカレブは傘を開いたまま前進すると、気合いもろとも木刀「摩周湖」で突きを入れる。もろにくらった敵は失神した。
「三人目。」
しかし、突破に成功した一人は悠々と抜けられたと思っただろう。バリケードの前を抜けようとしたとき、クラッカーが炸裂したのだ。
「すんません。死んだふりしてました。」
俺とエリカは音響閃光榴弾で失神したふりをしていたのだ。
「もういいよ。エリカ。…?」
死んだふりをしていたと思ったらエリカ、ほんとに失神してたのね。
俺が揺り動かすと目を覚まし、
「え、私寝てた?どれだけ?試合は?」
少し取り乱す。ちょっとかわいいと思ってしまった俺たちだった。
「しかし、音響閃光榴弾はあり得んな。」
俺たちがほとほとあきれていると、ラザロが
「おかしい。4人しかいない。」
と異変に気付いた。しかし、ほどなく本拠地のほうからぎゃあという男の悲鳴と、大きな物音が響き渡った。
「かかったみたいだな。」
本拠地に戻ると、模擬指向性対人地雷がすでに発動し、ゴムボールが散乱していた。俺は人質人形の靴を脱がしてそれにみえるようにぼろ布などをつめ、クラッカーを仕込み、その上に毛布をかけていたのだ。毛布をはぐとラインが外れて起動する、という基本中の基本のブービートラップだったのだ。
「まあ、クラッカーを相手にするの初めてだからしかたないよね。」
ただ、問題があった。それはこの選手が「光学迷彩マント」を着ていたことであった。これも規定違反であった。というのも、TVに映らないからである。
「なるほど。これじゃあ突破されるわけだよ。」
こんなに後味の悪い勝利も珍しかった。さすがに学校側も運営に抗議して、相手の失格を訴えた。しかし、回答はあんまりなものだった。
「勝ったからいいじゃないか、だとさ。」
運営側やTV局としては、人気種目かつスポンサー収入が見こめる強襲の中止はどうしても避けなければならないのだ。
「そう、俺たちが奴隷だからさ。」
昨日のカレブのセリフが俺の脳内でリフレインしていた。
「勝てばいいんだよ。今度は攻めるよ」
エリカが息巻く。
「だよな。エリカは寝ててなんにもしてないもんな。」
からかうジョシュアにけりをいれる。俺は両手でほほを張って気合をいれた。
次回、第14話 「NDK(ねえ、いまどんな気持ち?)を命がけでやってみる件」です。強襲後半。攻めるゼロスたちに敵が仕組んだ魔の手とは?請うご期待。なんちて。 明日の正午に配信だ!




