第12話 事件は会議室ではなくシュミレーターの中で起こっているという件
準々決勝は「狙撃阻止」と1on1である。ベストエイトに残ったチームの代表選手、各一名がシュミレーターで狙撃阻止に挑むのだ。このゲームで最優秀賞を取った選手のチームには、続く1on1で2勝、そして次点の選手のチームには1勝のアドバンテージが付与される。大抵はチームのN0・6(作戦参謀)がエントリーされることが多く、選手登録さえしていれば補欠でもこのゲームには参戦できる。
俺がシュミレーターに入ると、隣のシートはアモン・クレメンスであった。俺が会釈をすると、
「ゼロス君、君には負けないよ。」
となぜかライバル宣言してきた。
「はい、よろしくお願いいたします。」
俺の返事は極めて間抜けなものであった。しかし、アモンをライバル視する連中は、これまで自分たちが聞いたこともなかったライバル宣言をされたことで俺にに嫉妬する。一方、アモンを崇拝する連中はファースト・ネームをアモンに知られていることで俺に嫉妬した。
(いったい誰だ、この奴隷は?)
俺に集まる視線が痛い。もっとも、冷静さが要求されるこの競技で、俺を含めたほかの選手の動揺を誘うためにわざとこんなセリフを吐いていたとすれば、これほど恐ろしいことはない。ただ、どちらかといえば天才肌の人間が垣間見せる『天然』な部分なのだろう。天性のカリスマなのかもしれない。
俺は天候、季節つまり太陽光に関する情報、そして風向や風速。予想天気図。想定されたテロリスト集団の思想信条、メンバーなどの情報を頭に叩き込む。そして計算したうえで7つの狙撃ポイントを指定し、それをシュミレーターに入力する。
8人でこのゲームを「する場合ははバトルロワイヤル方式になる。狙撃地点の指定に失敗すると、たとえは1ミスで失格になってしまうのだ。途中に挿入されるテロ攻撃の対処は、要人が暗殺されれば一発アウト、多少の被害は減点方式でポイント化さrている。そして、最後の一人になるまで争われるのだ。
俺は集中が高まるにつれ、どんどん頭の中が澄んでいくのを感じる。思考力の冴え方が半端ではない。そう、「臆病風」が吹いたのだ。…もっといいネーミングはないものかね。
護衛対象者はオープンカーによる要人の車列である。狙撃地点を間違った時点で現実であればゲームオーバーだ。さすがに競技者の資質が高いのか前半4つのポイントで脱落したのはわずかに1人だけだった。
続くテロリストの攻撃で要人が斃されてしまったもう一人もリタイア。要人は無事だったものの民間人に被害を出した2人が減点の対象である。残りは5人。うちパーフェクトは3人である。
後半3つのポイントでは、減点されたうちの一人が脱落しり。ゴールまで無傷だったのは俺とMr.クレメンス、そしてもう一人の学生だった。フィニッシュできを抜いてしまった彼は、ビール売りの少年が自爆テロを起こすという隠しイベントを見過ごし、茫然としていた。
それもそのはず、テロ攻撃は一度としか聞かされていなかったからだ。まあ、事前に申請してからテロを起こす律儀なテロリストがこの世に存在していれば文句のつけようもあっただろうが。
すでに「サプライズ」を経験していた俺とMr.クレメンスはパーフェクトゲームであった。到着した要人がオープンカーを降り、手を振って群衆の歓声にこたえている。終わったのだ。なんだか娘を無事に嫁がせた父親のような気分である。まあ、経験ないけど。
俺がモニターゴーグルを外そうとしたとき。違和感が脳内を駆け抜けた。一人だけSPの腕章の色が若干違う。俺はゴーグルをかけなおすともう一度その腕章をみた。おかしい。
「全SPに命令。SP-06を逮捕せよ!」
と支持を出した。最後の最後に裏切者が潜んでいたのだ。気づくのがもう2秒遅かったら、すべてが水の泡になるところであった。
「やられた。」
アモンは脱いだゴーグルをかけなおしたが時すでに遅く、犯人は取り押さえられていたものの暗殺は達成されていた。犯人はSPのものとは少し色目が異なる腕章をしていて、その下からはテロ組織のマークが入ったものが出てきた。
準備時間中に配置を確認したSPの名前一覧で、テロ組織の主要メンバーと似たような名字のものがいるなあ、という思考がかすかに残っていたのが幸いだった。テロ組織の信条は独立闘争だったのだ。
何はともあれ、芸が細かいシュミレーションである。
「おめでとう。君の勝ちだ。」
アモンは俺に握手で祝福する。
「いえ、脱ぐ途中でゴーグルが髪に引っかかってしまったのが幸運でした。」
そう謙遜することを忘れなかった。
実にこのアドバンテージが効いて俺たちは準々決勝で勝ちを拾ったのだ。
次回
第13話 「当たり前だのクラッカー」が既に死語であった件
準決勝の強襲にゼロスたちが挑みます。
明日午後0時投稿予定です。
疑似指向性対人地雷が大活躍! お楽しみに!




