現代知識が魔法の邪魔をする
僕はファンタジーが大好きだ。
無駄にかっこいい呪文を唱えて強力な魔法を発動する。
複雑な幾何図形が組み合わさったような魔法陣が手の前に現れたりしちゃって、敵をまとめてなぎ倒す。
中二病と言ってくれるな。かっこいいものにあこがれて何が悪い。
そんな僕だが、素晴らしいことに、ある時、剣も魔法もあるファンタジーな世界に転生したっぽい。
幼いころは心配する両親の手前、怪しげなことはできなかったが、僕ももうこの世界に生れ落ちて10年目。
そろそろ、念願の魔法というやつを使わせてもらってもいいだろう。
幸いなことに、知り合いの爺さんが魔法に詳しいとかで、魔法の使い方を教えてもらうことになった。
「魔法にはいめーじが大切じゃ。何をどうするか、具体的ないめーじと、理論に基づいた魔法陣が魔法の行使を可能にする。こんな感じにな」
爺さんは丁寧に魔法について説明した後、僕の前で手の上に炎の塊を出して見せてくれた。
「ほれ、お前さんもやってみぃ」
爺さんに言われて、僕は手を前に出した。頭の中で、さっき爺さんが出したような炎をイメージする。イメージする。イメージ……
僕のイメージに従って、手のひらに炎が生まれる気配がする。すると、
「あつっ!」
僕の手のひらに生じた炎の塊は、僕の手のひらを焼き焦がして、すぐに消えてしまった。
それを見た爺さんは、あわてて治癒の魔法をかけてくれる。
「まさか自分の手のひらが焼けるところまでしっかりいめーじしてしまうとは、想像力が豊かというか、豊かすぎるというか……」
どうやら、僕の前世での固定観念が、自分の手のひらだけ焼かない炎の塊というのを想像することを邪魔しているらしい。だからといって温度の低い炎を作ってもそれこそ手品以外の利用法が思いつかないしなぁ……。
「うーむ、ならばこんな魔法はどうじゃ」
そういって、爺さんは手のひらに水の球を生み出して見せてくれた。
僕は爺さんに倣って、手のひらに生まれる水の球をイメージする。
とたんに、僕の手のひらがカサカサになった。
どうやら、何もないところからは何も生まれないという固定観念が邪魔して、変わりに僕の手の水分を奪って水球を作ったらしい。
手のひらから水分が奪われすぎて、うっすらと血がにじんでいる。結構痛い。
余りにも危なっかしいので、爺さんが魔法は諦めたほうがいいと僕に言い聞かせた。
このままなんかやらかすと爺さんが父さんや母さんに叱られるだろうから、僕はこの日はすごすごと帰るしかなかった。
その後も魔法を諦めきれなかった僕は、独学で魔法の勉強を始めた。
たいていはろくでもない結果になるので、とにかく慎重に、頑張った。
それから3年後、結局、僕が安全に使える魔法はなかった。
それでも、魔法があきれめきれなかった。今日もいつも通り、ひっそりと、魔法を試す。大切なのはイメージ……。
その日が、僕の二度目の人生の最期の日だった。
移動魔法を発動しようとした僕は、動かそうとした木の枝の質量をすべてエネルギーに変換してしまい、住んでいた村は地図から消えた。
ネタがあと一話分しかないっ
というわけで次回で完結? の予定です。