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地球への転生者

昨日はうっかり投稿し忘れました……

今回は長め。

 あれはなんという鳥だっただろうか。


 高校の同窓会で久々に昔の友人たちと出会い、みんなして体調になにがしかの不安を抱えていたのが原因か。

 数年来健康診断すら受けていなかった私も、近頃は血圧だの血糖値だのが気になり始め、運動がてらと山歩きなどを始めるようになった。


 必要以上に強く照り付ける太陽に辟易としながら、山の斜面に生えた巨木の木の枝を見上げると、くすんだ茶色の鳥が、それと似ても似つかない赤金色の親鳥に見守られ、右を向いたり左を向いたり、きょろきょろとしていた。

 それがなんだか、いかにも右も左もわからぬ子供といった様で、何とも微笑ましい。


 この世に生まれ出でたばかりといわんばかりのその様が、私にもこんな時期があったなあと、私を懐かしい気持ちにさせた。


 そんなことを思っていると、ふと、子供という言葉が似合わない、ある女の子のことが思い出された。


     ☆☆☆


 あれは、私がまだ小学生だった頃の話だ。


 確か小学3年生のクラス替えで、私は彼女と始めて一緒のクラスになった。


 初めはおとなしい女性だと思った。


 自己紹介ははきはきとしゃべっていたから、しゃべるのが苦手というわけではなさそうだったのだが、どうも会話することに興味がないといった風情だったのだ。


 しばらくして、それは思い直すことになった。


 彼女は決して積極的に騒ぐタイプではない。それは確かなのだが、彼女のやることなすこと、どれもが衝撃的なのだ。


 たとえば、テスト。彼女はいつも当然の如く満点をたたき出す。ミスなんてものもなかったし、かといって点数を取ることに気負いすら感じさせない。後になって知ったことだが、天才と呼ばれる人種でも、たまにはミスをすることもあるらしい。しかし彼女はミスをすることすらなかったように思う。


 また、例えば、運動。別に足も速くないし体力があるわけでもない。力も年相応の女子のものだし、特にどのスポーツが上手いというわけでもない、のだが、異常に堂に入っているのだ。

 子供特有の、力の有り余っている、無駄ばかりの動作とは違う。まるで大人が子供に合わせて運動をしているような、無駄を極力省いた、どこかで加減をしているような動きで、常に平均前後の結果を叩き出すのだ。



 とにかく、良く言えば大人っぽい、悪く言えば、子供らしさが全然ない、無理して子供を演じているような人だった。


 まるで常に自分を抑えているかのようだった彼女が、全力らしきものをだしたのは、小学5年生のときだった。


 この時も私はまだ彼女と同じクラスで、もっと言うなら、同じコンピュータクラブの部員だった。


 といっても、そこは小学校のクラブ活動。週一回、一時間程度の活動で、やっている内容も、先生が教えてくれる文章作成ソフトやらペイントソフトを使って好きなものを作るだけの、気楽な活動だった。


 実際、クラブ活動は参加が義務付けられているので、とりあえず参加しているというだけの者が大半だった。


 が、彼女は違った。


 第一回の活動で、彼女は隣の席に座るなり、慣れた様子でテキストエディタを立ち上げた。


 先生が、ペイントソフトの使い方を、簡単に説明し始める。その説明を聞き流しながら彼女は、その細い指をすさまじい速度で動かしながら、何やらわけのわからない文言を打ち込み始める。


 彼女のタッチはとても軽かった。


 指はキーの上を、まるでなぞるようにわずかな上下移動で、しかし正確に彼女が欲したキーを叩いているようだった。


 別に先生の話を聞かずにおしゃべりに明け暮れる悪ガキなどどこの教室にもいるので、彼女の打鍵音は目立つことはなかったが、そのタイピング速度は、およそ小学生とは思えないものだった。


 思わず気になって、私はちらりと彼女の前に鎮座する、小学生には大きすぎるディスプレイをのぞき込むと、英語と思しき単語が無数に踊っていた。


 それはまるで芸術のようで、無数の英単語が全体として一つの絵を作っているように、書き出しは独特のルールでそろえられ、ただの文章とは違うことを私に理解させた。


 いまではあれがプログラミングというものなのだということが分かるが、当時小学生だった私には、まるで英語で書かれた詩か何かのように見えたものだ。


 この時の彼女は、それまで見せたことがないほど真剣な表情で、物怖じしない少年だった私に声をかけるのをためらわせたほどだ。


 それでもあまりに気になったので、クラブ活動の終わり際に、私は思い切って、なにをやっているのか尋ねてみた。


 すると彼女は、


「ちょっとした訓練だよ。君もやってみる?」


 と、何とも楽しそうに聞いてきた。何の訓練? と聞けば、彼女は少し間をあけて、タイピングの訓練かな? といった。


 当時の私は仲間とカードゲームに興じるのに人生を賭けていたから、彼女の誘いは断ったが、果たしてあそこで彼女の誘いに乗っていたら、大学時代にもっと楽にレポートを書けるようになっていたのかもしれないと思う。


 それから毎週、彼女はクラブ活動の際は、決まって「訓練」を行っていた。


 ある時は実際に作ったプログラムを動かして、満足そうに眺めていたりもした。


 私たちがミミズだか毛虫だかわからない、本人が絵だといわなければわからないような代物を描いている間に、彼女は何とも美しい、コンピュータだからこその、無数の幾何学模様が描き出す美をその画面の中に作りあげていたこともあった。


 今考えると、どう考えても小学生じゃない。あれは小学生の面をかぶった何かだった。


 いろいろと興味は惹かれたが、そのころには私にも思春期というもの忍び寄り、また男友達の間の体面というか、そういったものもいろいろあり、学年でも美少女ということで有名だった彼女には少しばかり話しかけづらいというか、突っ込んだことを聞きづらい気持ちがあり、結局卒業するまで彼女のその奇行というか、そういったものを眺めることしかしなかった。



 事件は中学生のころに起こった。


 このころには、私もパソコンヲタクへの道を歩み始め、彼女の異常さがだんだんと具体性を増してきたというか、どのくらいありえない存在なのかということが解り始めた。


 同じ地元の県立中学に進んだ彼女は、案の定コンピュータ研究部なる部活に所属し、部活動初日、というか見学期間中からすでにその頭角を現していた。


 事件は私たち新入生が十分に部活に慣れ、どことなく弛緩した空気が流れていた10月ごろに起こった。


 その日、私は掃除当番のために少しだけ遅れて部の活動場所であるコンピュータ室に足を運んだ。


 すると、同じく掃除当番だったらしい彼女がコンピュータ室の前で部の担当教師と話しているのが見えた。


「というわけで、しばらく部の活動は中止にするわ。また使えるようになったら連絡するから」


 先生がそのように話しているところだけしか聞こえなかったから、どうしたのかと声をかけると、先生がおそらくすでに何度もしたであろうその説明を私にもしてくれた。


 なんでも、学校のイントラネット(校内のみで独立したネットワーク)にウィルスが入り込んだとかで、しばらくは生徒の利用を禁止するのだそうだ。


 すでにコンピュータの魅力に取りつかれた私はがっくりと肩を落としたが、意外にも、彼女にはそんな様子はなかった。


 それどころか、事情を説明し終えた先生に、犯人を特定する当てがあるからサーバ管理者の監視のもとでイントラネットに接続できるパソコンを触らせて欲しい、といった。


 このころには彼女のパソコンスキルは大半の教師の知るところであったから、先生は少し逡巡したのちに、ちょっと上に掛け合ってみるわといって、職員室に向かった。


 彼女と、なんとなく帰るタイミングを逃した私は先生の後ろについて職員室に向かった。


 先生はしばし校長先生と何やら話した後、彼女に、ゴーサインを出した。


 先生が放送でサーバ管理者を任されている男性教諭を放送で呼びだし、彼女に教員用のパソコンの前の席を明け渡した。



 それから起こったことは、はっきり言って当時の私にはさっぱりだった。


 普段私が見慣れていたグラフィカルな画面はほとんど開かれることなく、彼女は真っ黒な画面に踊る文字だけを見つめ、私が見たこともないようなコマンドを打ち込んでいった。


 管理者を任されている男性教諭などは、正直何をされているのかわかってなかったのではないかと今でも思っている。


 とにかく、その男性教諭は、彼女の求めに応じて何度かパスワードを入力するだけで、彼女の監視という意味では全く役に立っていないように見えたが、彼女が最終的に出した画面を見たときは、流石というか、その内容を正しく理解したらしい。


 彼女は、学校のサーバに残されたログから、ウィルスの侵入経路と侵入したおよその時間を特定したらしい(正直私はログを見ても何が何やらさっぱりだった)。


 しかも、それにとどまらず、彼女は、そこから見事な推理を披露し、犯人を暴き出し、さらにさらに上手く話をすすめ、子供だった私でも順当だなと思うほどうまい落としどころにもっていった。


 そのさまはまるで初めから何もかもわかっていたかのようで、あまりにも鮮やかな手腕だった。


 私が直接見聞きした彼女の武勇伝の中ではこの事件が最も衝撃的だったが、彼女はその後もいろいろと武勇伝を作っていた。


 ある時などは、どこぞの機関に対して行われたサイバーテロからうまくデータを守ったとか、とにかくその活躍の場は学校などという狭い領域には収まりきらなかった。


 彼女は常に先を見据えているようで、けれどもそれを隠そうとしているかのように、常に十分な根拠を披露して、様々な事件を解決していった。



 私は元来オカルトなどは信じない質で、彼女のその異常なまでの才能も、生まれ持ったものと努力のたまものなのだろうと信じ続けて長いことやっていた。


 しかし、春休みにファンタジー小説を一気読みした影響か、はたまた卒業式の雰囲気にあてられたのか、私は中学の卒業式で、彼女に問うた。


「君はいったい何者なんだい? いったいどこから来たのか、本当に僕たちと同じ年月を生きた人間なのか、僕には全くもって不思議に思われるよ」


 ともすれば女性に対して失礼な問だったかもしれないが、どうしても聞いてみたい気持ちになったのだ。何が彼女を超人足らしめるのか、その欠片でも、私は知りたかった。


 彼女はきょとんとして、それからしばらく考え込んで、何面相かして見せた後に、こう答えた。



「私は別の世界で一度人生を終えて、気が付いたら物語として読んでいた世界に生まれ落ちていた。だから私はあなたの3倍は人生を経験しているかな?」

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