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気まずい……

 突然だが、異世界転生というジャンルの小説をご存じだろうか?


 モノによって多少の差異はあるが、ざっくばらんに言えば、平凡な地球人の男(女)が、ある日死ぬかなんかして、別の世界で新たな生を受ける、という話だ。


 中でも、二次創作のジャンルでのこのタイプは、転生者が元の作品の進行を知っているため、いろいろとうまくやれる。結果、ヒロインたちに好かれちゃったりする話なんか山ほどある。


 俺の現在の境遇は、まさにそれ。知ってる小説の世界に転生しちゃって、最初から知ってることをうまいこと利用して主人公と協力したり、時には代わりに事件を解決したりしちゃってるパターン。


 無駄にかっこつけて事件を解決してきた成果か、最近は関係各所から頼りにされるようになった。


 主人公とも、一緒に何度も死線を潜り抜けてきたせいか、随分と仲良くなった。


 なったのはいいんだ。ただ……



 時は昼休み。荘厳な石造りの建物は、魔法のエリートを養成するための国内最大の魔法学校。


 空にはぽつぽつと、綿雲が浮かぶのみ。何とも平和な日である。


 その屋上で、購買のパンを片手に俺と原作主人公はだべっていた。


「あ、いたいた、ね、一緒にお昼たべよっ♪」


 すると、昇降口から上ってきた見目麗しい美少女、原作のヒロインにあたる彼女が、僕に腕をからめてくる。


 そう、石橋……じゃなかった、吊り橋効果というやつだろうか? 一緒に死線をくぐってきた僕と彼女は、いつしか互いに惹かれあい、そしてついに先日、男女としてお付き合いし始めたのだ。


 もちろん、一男子として、これほどうれしいことはない。ないのだけれど、


「くっ、見せつけてくれるじゃねーか」


 一緒にいた主人公が冷やかしてくる。


 口では冗談めかしているけれど、俺は知っている。彼は彼女のことが好きだ。こんな光景を見せつけられたら、相当悔しいに違いない。


 だって、原作では、このタイミングで彼女と付き合い始めるのは、彼だったのだから。


 俺がいなければ、こいつは愛する彼女と結ばれ、幸せになれた。


 それを知っていながら、俺は彼女に告白し、付き合うことになった。



 とっても気まずいのである。というか時々すごい自己嫌悪に陥る。


 先にも言った通り、俺と主人公とは仲がいいのだ。しかも俺がいなかったら、こいつらが砂糖を吐きたくなるほどの甘々空間を作り上げることも知っている。


 これほどにやりづらいことがあるだろうか。


 内心の葛藤に、俺は気の利いた返しをすることさえできなかった。



「? どーしたの? はやくお昼行こ」



 ああ、彼女は今日もとっても可愛い。

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