推理モノはやめて
あの日、私は人生に絶望した。
もっともこれは二度目の人生。私はいわゆる転生者。
このとき気が付いたことだが、私は一度目の人生で見ていたアニメの世界に生まれ変わっていたらしい。前世の記憶が残っているから、まだ小学一年生の私の脳味噌は、大人にも負けず劣らずの知識と経験をため込んでいる。
これはもはややりたい放題。この子供の柔らかい脳みそを有効活用して、今からハイレベルな知識をためていけば、将来はそれこそチートの権化のようなスペックの生き物になっているにチガイナイ。
……などと思っていた時代が私にもありました。
この日、私は、いつも通り、近所の小学校に通学した。
この時点で、私の前世の記憶はあいまいで、なんか学校名に聞き覚えがあるような気がしていたものの、この世界がどういった世界か全く理解していなかった。
しかし、教師に連れられてきた「転入生」の自己紹介を聞いたとき、私はこの第二の人生に平穏な日々が来ないことを悟ってしまった。
彼はある意味で私と同じ。小学生の脳味噌に大人並みの知識量を蓄えている、名探偵、である。
彼の行く先々で事件が起こる、彼は間違いなく死神の類が憑いている、というのはこの世界の警察官も言っていたのではなかっただろうか?
そう、私はあろうことか、推理モノの世界に転生してしまったのだ。
大方の予想通りというか、この日以来、私の周りではとんでもない頻度で犯罪が起こった。
三か月前には、外出先で知り合った気のいいおっさんが殺された。殺ったのは、仲良くなった漁師のおばあちゃんだった。
一月前には、親戚のおばあちゃんが殺られた。小さいころにいつもおせんべいをもらった、大好きなおばあちゃんだった。
一週間前には、兄さんが死んだ。自殺だった。
一昨日は、誘拐犯にさらわれた。結局助け出されたけど、とても怖かった。
ああ、もうこんな生活いやだ。
仲の良かった人が、尊敬する人が、殺し、殺され、気が付いたらいなくなっている。これなら、いっそ……
☆☆☆
精神的に追い詰められた私は、自殺を決意した。
父母宛に手紙を書き、十階建てのマンションの屋上に上り、覚悟を決める。
あとはこのフェンスを乗り越えるだけ。
私はゆっくりとフェンスに歩み寄り、乗り越えようと、手をかけて……
「こんなところでどうしたのかな?」
唐突に後ろから声をかけられた。
いつの間にそこに上がってきたのか、そこには小さな名探偵が、ボールを弄びながら、立っていた。
ああ、そうだった。ここはそういう世界だった。
いったいどんな推理をして、この場所に現れたのかわからない。
「あなたはなんでもわかるのね」
つい皮肉気にこんなことを言ってしまった私を誰が責められようか。
「そんなことはないよ。僕にもどうしてもわからないことがある」
小さな名探偵は苦笑しながらそう答えた。
半ばやけくそになっていた私は、意地悪に、例えば? と聞いた。
すると、無駄に鋭い名探偵は目を輝かせて、こう言った。
「そうだね……。たとえば、君が何者なのか。本当は君が何歳なのか、どうして子供の姿をしているのか、とかだよ」