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第1話 出会い

 桜の花が満開に咲く季節。終業式も終わり、放課後の教室では生徒達が思い思いに行動している。

 陽気な風に誘われてか、明日から連休だからなのか、浮かれているものが大半だ。

 教室内ではいくつかのグループに分かれてそれぞれの予定を話し合っているが、その中で一人黙々と帰宅の準備をしている少年がいた。


「翼!どうする~?この後竜の家で集まって遊ぶんだけど~」

「ごめん、飛行機の都合があるからもう帰らないといけないんだ」

「そっか~じゃあしょうがないよな~」


 一人だけ帰ろうとしている翼に気づき、集まって雑談をしていた友人の一人が翼のとこまでやってきて誘いを掛けるが、翼は荷物を(まと)めつつ断る。

 あらかじめ事情は話してあったので友人もしつこく誘うことは無く、あっさりと引き下がる。少し離れた場所にいた他の友人達も翼達の会話に気がつき集まって来た。


「あれ?翼、引っ越しって今日だったの?」

「でもさ~すごいよね。小4で黒桜学園(こくようがくえん)の推薦を受けて海外留学なんて。しかも一人暮らしなんでしょ?」

「そうそう、さすが学園都市自慢の天才少年だよな」


 皆に誉められて照れていた翼は、時計を見て少し慌てて言った。

「ごめん、もう時間だからじゃあね!!」

「「「じゃぁね~」」」


 友達と話していたら予定していた時間を少し過ぎてしまったので、急いで家に帰る為に普段は余り使わない近道を通る。

 正門を出ると垣根をくぐり抜けて(へい)の上を歩き飛び越え、神社の裏の林をぬけようとしたとき、急に頭の中に声が響いた。


 (誰かが呼んでる?何処からだろう?)

 辺りを見回して確認すると、奥の暗がりの中に小さな(ほこら)が埋もれているのを見つけた。

 特に理由があった訳ではないが、何となくその小さな祠と頭に直接話し掛けてくる声に関係があることを理解する。


『ほう、私の声を()くことの出来るものがまだこの世界に残っていたなんてな』


 頭の中に響く声から、声の主の驚いている様子が伝わって来た。

 慎重に祠へと近づいた翼が祠を覗き込むと中にはボロボロになった獣の置物(おきもの)が一つあるだけだった。この置物が頭の中に話し掛けてくる声の正体であろう。


「僕に話し掛けてきたのは君かい?いったい何者なんだ?」


『我は異世界“クレオピアス”の神々の一体、獅子神だ。この世界の少年よ、どうかこの私に力を貸してくれ』


「うん、良いよ」


「……まだどのような事をやるのかも告げてないのだが?」


 何の躊躇いも無く協力を約束してくれた翼に疑問を持った獅子神が尋ねるが、翼は小首を傾げて当たり前のように言う。


「困っているんでしょ?困っている者がいたら助けて上げるのは当たり前だよ。努力に報いた弱者救済こそが僕の生き様だしね」


 幼いながらも既に確固たる自己を持っている翼はその強き意志を獅子神に見せ付ける。そして、その純粋でありながら決して変わることが無いだろう強い意志こそが獅子神の望んでいたものだった。

 笑みを浮かべる翼を見てその強き意志を感じ取った獅子神は自らの期待を確信に変える。


 『……確かにそうだな、感謝する。では話そう我々の世界のことと我が望みを───』

  獅子神の話を纏めるとだいたいこんな感じだと分かった。


  ・ 彼は異世界“クレオピアス”から来た神で、“クレオピアス”に戻るためにも契約を結び神格者となって共に戦ってくれる者を探していた。


  ・ “クレオピアス”は人々の強い気持ちによって生まれる世界なので、神々などは自分に向けられる気持ちの合計量がそのまま自分の力に変わる。


  ・ より強い力を(ほっ)して神々は争いあっている。


  ・ 神格者を持つ神は、持っていない時より数十倍にまで力が跳ね上がる。また、契約した神格者も神から力を分けて貰うことで、身体能力を始めとした様々な能力が跳ね上がる。


  ・ 獅子神は今まで契約をせずに自分の気に入る神格者をぐずぐずと探していたら、遂に他の神に負けてしまい力の(ほとん)どを失ってしまっている。


「神様情けなっ! ! 何でそんなにぐずぐずしていたの?」


『自分と相性が良く、性格が合って仲良くできる強い奴を選ぼうと思ったから気に入る奴が見つかるまで待っていたらな・・・』


「条件多くない ! ?そんなんだから見つからないんだよ!」


『当たり前だ、我は欲望の肯定者なのだからな!』

 胸を張っている様子(さま)が容易に想像出来る言い方に翼は呆れかえった。


「いや、そこは誇る所じゃないからね」


『?・・・・別に事実を告げただけなのだが?』

 獅子神とってはこれが通常だったらしい。


「まぁ、そっちの事情は分かったよ。今更放り出すのも気が引けるし、仕方がないから助けてあげる。家族にお別れしてくるからちょっと待ってて」


 すると獅子神が申し訳なさそうに告げる。

『お前が“クレオピアス”に来た時点で、こっちの世界でお前と親しい者達の記憶から、お前と()う存在は消えてしまうのだ』


「・・・・・・・え?」

 愕然として思考を止める。しかし自分は外国どころかもう二度と戻って来れるかどうかも分からない、異世界へ行くのだ。どうしているのかと不安になるよりも、いっそ忘れてしまう方が残される者達にとっては幸せかもしれない。と、少しの寂しさを感じつつも自分を納得させる翼。 

 

『例外はある。今のお前のように異世界の力や知識に触れたり、特殊な力を手にした者は記憶を失う事はないし、たまに記憶を思い出す者もいる。....しかし今回のようなことが、人が一生を終える短い期間の中で何度も起こるとは思わないがな』


「分かった。それでも僕で良いなら力を貸すよ。契約をしよう」


『感謝する。我も元の姿に戻れるだけの力は戻った』

獅子神がそう言うと急に置物が光りだした。


(うわぁっ!?)


 余りの眩しさに目を閉じる。...光が消えたので目を開けるとそこには本来の姿となった獅子神がいた。それは置物そっくりな姿だった。


 その姿は獅子(ライオン)(タイガー)のハーフであるライガーの(よう)に勇ましい目つき、ふさふさの(たてがみ)、漆黒の虎模様。黄金色の毛や瞳はまさに太陽を思い浮かばせ、鋭い白銀色の爪や牙は澄みきった氷の(よう)な輝きと冷たい鋭さを持っていた。さらには暖かな初雪という矛盾を感じさせる程の純粋な白色の天使のような翼を持ち、神々しい雰囲気を纏っていた。


「すごーい、格好(かっこ)いい ! !」


 翼が驚いていると獅子神が頭にでは無く直接言葉で話しかけてきた。

「そろそろ行こうか?」


 獅子神がゲートを開き、翼達は“クレオピアス”へと向かった。


 ゲートをくぐり抜けてついた場所は森の中だった。


 ただ、大きな空き地に造られた巨大な石の祭壇上に落とされたが....

 (すまない、ゲートの開く位置がずれていた)

 おかげで異世界について早々(そうそう)にすっかり目立ってしまった。

 ゲートから突然 祭壇上に表れた翼をたくさんの人達が見つめている。


 こちらをみている人達の中で一番偉そうな男が叫んだ。

「なっ何なんだ貴様は、此処(ここ)がどこだか知っての無礼か!?」


 (面倒だ、知らぬと答えておけ。とりあえずこれからの拠点を探すぞ。)

 獅子神は投げやりな様子で次を決めようとしていたが、下手に刺激をしない方が良いだろうと考えた翼は礼儀正しくして答える。


「誠に申し訳御座いません。久しぶりの転移でしたのでイメージなどのズレにより、上手に飛ぶことが出来ずお騒がせしてしまいました」


「むぅ・・・・それならば仕方がない・・・のか?とりあえず其処から降りてきてくれ」

 翼の幼い見た目には似合わない礼儀正しい返答に戸惑いを見せる男は、渋々ながらも納得し 注意だけして引き下がった。 

 

「ところで皆さんお揃いで何をする所だったのですか?」

corpse(コープス)eater(イーター)様に生け贄を捧げる、年に1度の大切な行事だ。あんま、子どもに見せるもんでもない。とっとと どこか行きな」


 (馬鹿な ! ? (しかばね)喰らいの祭壇だと?つまりここはガルバードか ! ! )

 突然 獅子神が頭の中で大声を上げたので、眉を顰めて姿の見えない獅子神を目で探しつつ尋ねる。

 

 (どうでも良いのですが そもそも貴方はどこから話し掛けているのですか?)


 (あまり人前に姿を晒すのは好ましく無いだろうと考え、お前に取り憑くことで融合している。・・・・ってどうでも良く無いぞ ! ? 奴は恐怖や苦しみを自らの力に変える凄く危険な悪魔神なんだ、今の我では勝てぬぞ! ! ) 


 早く此処(ここ)から去ろうと言う獅子神を無視して、この後の儀式を少し離れた所で見ていく事にした。平和な国で生まれ育った自分がこれから戦争に参加するのだ、いくら天才で大人びていても 武術をそれなりに使えても 子どもである事に変わりは無いのだ。少しでもこの世界のことを知り、慣れていく必要がある。獅子神が喚いていたが、目の前の儀式に注目することにした。すると連れてこられた生け贄は翼と同じくらいの年の少女だった。


「あなた方は大人で在りながら 女性を、それも幼い子どもを生け贄に捧げてい『ゴゴゴゴゴ..........』


 縛られ怯えた少女の姿を見て、翼が叫ぶのと同じタイミングでコープスイーターが現れた。コープスイーターはその場にいる者全てに見せつけるように、捧げられた少女の体を鋭い鉤爪を使って少しずつ、少しずつ 刻み 引き裂き 抉って潰し 傷つけていく。そして余りの痛みに気を失う事すら出来ず、声にならない声で苦しみ泣き叫ぶ少女の頬を伝う涙を舐めとると、傷口をその細く長い舌でほじくり返していたぶる。能力により狂う事すら許さず、少女の小さな手足を一本ずつゆっくり捻っていく。少女の苦しみやそれを見ている者達の恐怖を味わう様に出来るだけ長く、完全に壊れてしまわないギリギリの限界を見極めて襲う。コレこそがコープスイーターが生け贄に行う儀式だ。 


 (くそっ、助けなきゃ ! ! )


 出来るだけ長く苦しむように少女をいたぶるコープスイーターにいきなり斬りかかる。


「何をしている!!」

 周りの困惑や混乱の声より一際大きな声で先程の男が悲鳴のような慌てた声をあげる。


「愚かなガキが、我がコープスイーター 死と苦痛の悪神だと知っての狼藉か!?」

 コープスイーターも怒りの声をあげる。


 しかし翼の怒りは止まらない。

「うるさい ! ! 女性や子どもを傷つけ殺そうとする奴らなんてこの僕が絶対に許しません!!」


 丁寧な言葉使いも徐々に崩れて来ている。


「神を怒らせた報いを受けるが良い!!」

「させるか!」


 獅子神が姿を表しコープスイーターの攻撃をギリギリ弾く。


「ぬ、只のガキではなく神格者だったか。しかしその程度の力しか持たぬ神で我に勝てる訳がなかろう!?」


 少し驚いたようだがすぐに余裕を取り戻すコープスイーター。しかしそれに対して獅子神も余裕そうに告げる。


「もとより戦うつもりはなかった。よってここは逃げに興じさせてもらうぞ」


 相手が話している最中も逃げる準備をしていた獅子神は、あっさりと翼(と少女)を連れてその場から逃げ去った。不意をつかれる形となったコープスイーターは怒り狂う。


「こけにしおって!見つけ出したらズタズタに引き裂いてぶち殺してくれるわぁ~!!!!」


 コープスイーターが怒りだした時点で祭壇のある森からは全員がとっくに逃げ出していたので、祭壇にいた者達は暴れまわったコープスイーターに1人も殺されずに済んだらしい。

 

神格者

 神々から祝福を受け、神の力の一部を身に宿す者達。

 生まれながらにして祝福を宿した者や、後天的に試練を果たすなどの理由で祝福を授かった者の総称である。 神々よりその力の一部を授かり、神々に代わってその力を振るう。 神々の声を聞き、それを信者たちに伝え、時に神より授かった祝福を用いてきた。

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