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第十六話 大中小

 冒険者。

 ゲームならヒーローになれるかも知れないが、現実ともなればただのならず者だ。

 住所不定で仕事もあるやらないやら、家も無く、宵越しの銭を持てず、宿から宿へ、町から町へ、国から国への流れ者。

 冒険者組合だとか互助会だとか協会だとか、まぁギルドというような受け皿組織が無ければ、すぐにでも社会から弾き出されそうな連中の総称である。


《…滅茶苦茶言いますね》

「まぁ、胡散臭いですよ実際。大体何、冒険者て。じゃあ冒険行けよお前らダンジョンとか秘境とかいけよ冒険してこいよ、みたいな」


 寄って集って襲いかかっておきながら、いざ不利になるとへこへこと命乞いをする賊の横っ面を蹴り飛ばして黙らせ、近付いてくる胡散臭い──多分、冒険者じゃないかなと思われる──三名を迎え撃つべく向き直る。

 そこへ、


「ユーリちゃん大丈夫? 怪我とかしてない? 平気?」


 駆け寄り抱き付いてきたマリィに、ユーリが「大丈夫、してないよ、平気」と答えるとにっこり笑ってくれたが、冒険者(多分)を見てびくりと身体を震わせた。

 そのお尻を軽く撫でてから、マリィを背中に庇うように立つ。


《いやいや、おいおっさん、何しれっとお尻撫でてるんですか》


 なんのことやらと黙殺し、近付く三名には杖を向けて睨む。


「そこで止まれ、何の用だ」

「待て、敵じゃない。ただ、助けて貰った礼が言いたかっただけだ」

「助けてない、身を守っただけだ。盗賊の仲間割れに飛び込んだだけかもしれないだろ?」

「話を聞いてくれ、俺たちは商人の護衛で、そいつらはその商人目当ての連中だ、仲間だなんてとんでもない」

「護衛ね…傭兵? 冒険者?」

「ただの冒険者だ」


 ただの冒険者! 凄い自己紹介だな!

 などと碌でもない事を考えながら、少しだけ警戒を解く。冒険者云々ではなく、受け答えに誠実さが見えたからだ。


「今は近くの町のギルドに籍を置いている、マルティンだ。いささか不利な状況だったんで、助かったよ」

「全くだ。俺はシードル、こっちのデカイのが…」

「デカイは余計よ、イレーネって呼んでね。凄腕のお嬢さんたち」


 三人が名乗った。

 マルティンはマリィより少し背が高いくらいの赤髪の男で、金属製の部分鎧を身につけ、腰には剣を提げている。

 シードルは彼よりもずっと背が低いが、その代わり筋骨隆々とした人物。


《ドワーフですね。酒が好きで力持ち、手先がとても器用な、少し頑固ですが誠実な種族ですよ》


 ドワーフ! ファンタジーだな!

 内心で感激しつつ、警戒をまた少し解いた──昔読んだ物語に登場したドワーフ達への印象補正と、女神さまの好評価からだ。

 そして三人目のイレーネは、


《多分、普通の人ですよ、多分。大きいですけど多分、普通の人間ですよ多分》


 マルティンよりも頭一つ分以上高い長身で、シードルに負けず劣らず逞しく、軽くウェーブのかかった髪を腰まで伸ばし、そして実に女性らしい所作の大男だった。

 若干対応に困ったので保留。


《悪い人たちではないですよ。保証します》

「──ま、そう言うならいいか。ぼくはユーリ、こっちはマリィちゃん」

「こ、こんにちわ…」


 小柄なユーリの後ろに隠れるように下がるマリィに、三人は少し困ったような顔をした。

 ユーリは肩を竦めて、


「ああ、ちょっと人見知りっていうか、まぁこんなに美人だから色々あってさ」

「そう…困らせて御免なさい。こっちの二人にもこれ以上は近寄らせないから」

「ありがとう、お姉さん」


 返答を高く評価して、イレーネにはそう対応する事に決定。

 その呼びかけには三人揃って驚いたようだが、イレーネ本人は嬉しそうだ。

 特に、


「イレーネ…お姉さん?」


 というマリィの呼び掛けには、満面の笑みで大きく頷いていた。


「それで、まぁ、事情は大体分かったけど。その商人ってのは──」


 ユーリが言いかけた時、三人の後ろからそいつは現れた。

 痩せた、ちょび髭の、ぎょろりとした目つきの、神経質そうな男。


「なんだ! 何故殺してしまわない!」

「ピンコットさん…いくら盗賊でも、生きているなら捕縛して連行せねば」

「そんな連中を連れて移動など、予定から遅れるだけではないか! さっさと殺してしまえばいいのだ!」

「しかし、法は法です。一応、衛兵に引き渡せば報奨金も」

「フン! なら娘! そいつらをくれてやる! その報奨金とやらで礼にはなるだろう!」

「ピンコットさん、それはいくらなんでも」


 マルティンが商人を宥めようとしているが、正直ユーリにはどうでもいい。

 別に謝礼を期待していた訳ではないし、今更気が変わってありがとうありがとうと言われても気持ち悪いだけだろう。

 しかし、最初に商人が怒鳴ったとき、マリィがびくりと震えたのは別だ。うしろからぎゅっとくっついてきたマリィから、不安そうな動悸が伝わってきた事は問題だ。


《──コイツムカつく》

「同感。マルティンさん、いいよ。そんな三流からとれる金なんか知れてるし」

「なんだと? 小娘! 私を誰だと思っ」

「知るか馬鹿、いちいち怒鳴るなカス、次に小娘っつったらブチ殺すぞ黙ってろ」

「な、なんっ、この、小むす」


 言葉が途切れ、ピンコットが崩れ落ちる。


「殺してないからね。まぁ多分、町に着くまではそのままじゃないかな。二日くらいでしょ?」

「あ、ああ、そうだな、なんというか、そう、静かで助かるよ」

「違いねぇな!」

「最初からこうしとけばよかったわね」


 目を丸くしながらなんとか答えたマルティンの背を、バンバンと叩いてシードルが笑い、イレーネは肩を竦めた。


自分より小柄な女の子の後ろに隠れようとする女の子、という伝説上の存在について

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