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第十五話 悪党の泣き声は聞こえない

(仮)を細かく書き換え、後半を書き足しました

 雑に振り下ろされる刃毀れの酷い剣を、横から杖で軽く小突いて逸らす。

 思わぬ空振りに、大きく身体を泳がせてしまった盗賊の足を払い、杖を腕に絡めるようにして引き込むことで投げ飛ばし、背中から地面に叩き付けて無力化する。

 さて次、と思ったところに襲いかかってきた別の盗賊の爪先へ、ずばんと矢が突き刺さって地面に縫いとめた。

 すかさず、その顎を掠めるように杖で殴りつけて昏倒させる。

 そして、振りぬいた杖をそのまま次の賊へと流し、力の籠っていない杖でも反射的に防いでしまったところを引っ張り、押し返して足を払う。すぱんと面白いように賊の身体が宙を舞い、大地に叩き付けられて昏倒。

 これはなかなか面白い。


「──身体が思い通りに動いて、動画で見た程度の知識で武道の真似ごとが軽々と出来るっていうのは、なんともインチキくさいですねぇ」

《神に至る肉体を授かった有難味を、おっさんはもっと知るべきです》

「まぁ確かに、実体験すると思い知れたというか…」


 大柄な賊が錆びた大金槌で殴りかかってくるが、今度はその肩に矢が突き立つ。

 堪らずよろめいたその隙を逃さず、賊の膝裏を杖で打ち、薄汚れた上着を引っ張り、後頭部を地面に叩きつけた。


「あ、死んだ?」

《死んでませんよ。相手は盗賊ですが、殺してしまうのに抵抗がありますか?》

「まぁ、前世の価値観では受け入れがたいですね…。その上、今のユーリの脳味噌は屁とも思わないってのがまた、何とも言えない居心地の悪さでして」


 容易く昏倒させられた仲間を見て、怯えた賊の一人が武器を捨てて逃げ出そうとする。

 そちら目掛けて足元の石ころを蹴り飛ばすと、跳ね飛んだ石を膝に受けたその賊が悲鳴を上げて転倒、そこへ杖をフルスイング。容赦無く叩きのめす。


「でもまぁ、ちょっと楽しいかなー。盗賊襲撃イベントってやつ?」

《どっちがどっちを襲撃してるんでしょうね?》

「襲っていいのは襲われる覚悟のある奴だけだーって感じ」


 くけけ、と生き残りに嗤いかけると、返ってきたのは悲鳴。

 失敬な奴らだと舌打ち一つ、するりと懐に飛び込み爪先を強かに踏みつけ、同時に杖で顎を突き上げる一撃。がつんとした手応えに一呼吸遅れて、賊がまた一人倒れる。

 更に駄目押しとばかりに、残った連中の足元へ速射砲の如く矢が撃ち込まれ、震えあがった賊たちは腰を抜かしてへたり込んだ。


「さぁ、武器を捨てて額を地面に擦り付けなさい、降伏と認めて命だけは助けましょう」

《カッコイイですねそういうの!》

「やってみたかったんですよねー」


 がくがくと壊れた人形のように頷いて土下座を始めた負け犬どもの、手近な一人の頭をぐりぐりと踏みつけながら、ひとつ夢が叶ったかなぁと呟いたユーリのところへ、油断無く弓を構えたままのマリィが近付いてくる。

 そのあとに続く数人の男たち。はて、誰だったかなと、ユーリはこうなった経緯を思い出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あまり評判の良くない商人の護衛依頼だったが、マルティンには選択の余地がほとんど無かった。

 怪我で療養中の仲間の為にも金が要ったし、仲間を残して町から離れてしまうような仕事も出来なかったから、仕入れの為の往復に護衛として就くというのは都合がいい。

 その商人が、何かと難癖をつけては報酬をケチるような、実に面倒臭い人物であっても、無収入よりはマシだった。

 怪我人以外の仲間たちも同意見だったのか、何よりもまずは仲間の為に力を合わせようと、その依頼を受ける事に賛同してくれたのは、素直に喜ぶべきだろう。

 そうして、マルティンと仲間たち──シードルとイレーネの三人はその依頼を受け、商人が以前から雇っているという数名の同業者と合流し、道中を護衛する筈だった。

 しかし、思えばここから既にキナ臭かったのだが、出発当日に現れたのは商人だけ。聞けば、直前になって報酬で揉め、クビにしたのだと言う。

 その連中を口汚く罵り、四六時中ぐずぐずと文句を垂れ続ける商人に辟易としながら、こんなヤツ相手ならそういう事もあるだろうと、そのまま出発したのは大きな間違いだったと言わざるを得ない──まぁ、依頼を断り違約金を支払う、なんて手段をとる余裕なんてなかったのだが。

 ともかく、不愉快な気持ちを仲間の為だと堪えに堪え、向かった先での商人の振る舞いに「二度とこいつの依頼は受けねぇ」と決意しながらも帰路につき、明日には仲間の待つ町に帰れるかと思った矢先、待ち伏せを受けた。

 商人の反応を見るに、直前になって解雇した護衛が賊の中に居たのだろう。奇襲では無く待ち伏せ、商人はよっぽどの恨みを買ったらしい。

 こちらは三人と足手纏い一人、その足手纏いだけではなく積み荷も守らなければならないという厳しい条件で、更には相手の方が多勢かつ恨みつらみで士気も高い。

 そんな酷い状況での睨み合い。

 くそったれな商人を見捨てて逃げるべきか…そうとも、自分や仲間の命を掛けてまで守る様な相手ではないだろう? そんな風に考え始めた頃、それは飛び込んできたのだ。


 最初は妖精かと思った。二匹の妖精がじゃれ合っているうちに、運悪くここに飛び出してきたのだと、そう思った。

 なにしろ紫だ。銀の艶を備えた淡い紫色の髪、妖精以外の何に見間違えるというのか。

 そんな色の髪と、怖ろしいほど整った容貌、奇妙なローブを身に巻き付けただけという格好も相まって、人間とは違う何かのような印象を受ける娘。

 もう一方は黄金、陽を浴びて燃え上がる様な太陽の色をした髪の娘。こちらも負けず劣らず美しく、そして何より人間らしさ、人間としての生気を漲らせている少女。

 賊がその二人の美貌に目を奪われている最中、マルティンは仲間たちと頷き合う。


 これで逃げられなくなったな、と。


 どういう経緯なのかはさっぱりだが、盗賊の前に少女二人を放り出して逃げ出すほど零落れてはいない。そんなことをすれば、町で帰りを待つ仲間に合わせる顔が無いじゃあないか。

 腹を括り、彼女たちも守る為にマルティン達が動き始めた直後、それは起きた。


「…おいおい…何の冗談だ、ありゃあ…」


 シードルの呟きにも返す言葉が浮かばなかった。

 人が飛んだのだ。

 小柄な紫の娘が、その手に持った粗末な──まるでそこらで拾ってきた枯れ枝のような──杖でちょんと触れただけで、娘よりも遥かに大きく目方のある盗賊が宙を舞うのだ。


「あれは…魔法か?」

「…馬鹿言わないでよ、詠唱なんかしてないじゃない…」


 詠唱も無く、ただ今にも折れそうな枯れ枝の杖でちょんと触れる。それだけで振り下ろされた剣は大きく外れ、賊の身体が宙を舞って地面に叩き付けられていく。

 金髪の方もとんでもない。

 大して狙いを定める素振りも無く、しかし撃てば必ず賊に突き刺さる。

 分厚いブーツごと爪先を貫き、地面に深々と食い込んで賊を縫いとめる。

 それも、襲いかかってくる賊どもをあしらいながらだ。


「…俺たち、要らねえんじゃねぇか?」

「楽でいいけど、参ったわね…」


 こんな展開で、あの商人がマルティン達に報酬を払うだろうか。

 私を守ったのはお前たちではないだろう!とか言いそうだ、いや言うだろう。

 加勢する間も無く、少女二人が賊を片付けてしまった。三人の口から揃ってため息が漏れる。


「まぁ、ともかく…だ、危機を脱した事は喜ぼうじゃないか」

「そうだな。一応は礼も言っておこう」

「ええ、こっちの事情はさて置き、ね」


 頷き合い、三人で向かった先に居る、降伏した賊の頭を踏み付ける紫の娘。

 その目の奥に、マルティンはなにかとんでもないものを見たような、そんな気がした。


いわゆる無双っていうのをやってみたら、思いのほか地味な仕上がりになりました

なんでじゃ


お気に入り登録がじわっと増えるとニヤッとしますな

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