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壊れたモノ

主人公の過去編2です!

あの事件とは何なんでしょうか?


また光に包まれた俺は目を開けると、そこは先程自分がいた家だった。

さっきと変わったところといえば、リビングから玄関に移動しただけ。

てっきり、光に包まれると何処か自分に所縁のあの場所に飛ばされると思っていた俺は拍子抜けしてしまう。



とりあえず何か変わったところはないかと家の中に入ろうと思った時、リビングから男の怒鳴り声が聞こえてきた。

それと同時に女性がすすり泣く音と何かを懇願する声が聞こえてきた。

拍子抜けしたことで緩んでいた気が一気に張り詰められ、俺は声が聞こえてくる部屋へ駆け出す。

そうして、リビングに駆け込んでみると、自分の母が床に座り込み男の服を掴んで泣いていた。

男はその手を鬱陶しそうに振り払うと、また怒鳴り声を上げて母に詰め寄る。



「さっきから泣いてんじゃねえよ!

 いいから金を出せって言ってんだよ!」

「ごめんなさい、あなた…。

 でも、この家にお金なんてもう…」

「うるせえ!

 無いんだったら身体を売るなりして稼いでこい!」

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…。」



俺は泣き崩れて謝っている母を怒鳴りつけている目の前の男に対して激しい怒りを覚えた。

この目の前にいる男は俺の家族を壊した張本人である父だ。

そして俺は、今自分がいるこの場所で何が起こっているかを理解した。



俺の父は優れたセールスマンだった。

営業の成績は社内でもトップクラスに位置し、上司に媚びへつらっていたことで評価も高く、昇進も早かった。

しかし、プライドが高く、夜遊びとギャンブルが大好きで大量のお金をつぎ込んでいた。

それこそ、折角の稼ぎを全て使ってしまうぐらいに…。

父の浪費癖に頭を抱えていた母は、一度父に夜遊びとギャンブルを控えて欲しいと頼んだ。

結果は父の怒りを買っただけで、その日から父は母に暴力を振るうようになった。

母は父にすっかり怯えてしまって何もできなくなってしまい、父はそんな母からお金を脅し取っていく。



そんな日々が続いていたある日、父が女詐欺師によって多額のお金を騙し取られてしまった。

プライドが高かった父は騙し取られたお金をギャンブルで取り戻そうとギャンブル漬けになった。

勿論、そんな無茶苦茶な方法がうまくいくことはなく、段々と貯金は消えていった。

そしてついに、家の貯金が底を尽きかけてもギャンブルをやめない父に母がもう一度やめて欲しいと懇願したのだ。



(母さんはあくまでもあいつを愛し、もう一度やり直したかったのに…こいつは…!)



目の前で起きている惨事に対して血が出るほど拳を固く握りしめる。

今ここで自分が母を助けられたらどれだけ幸せだろうか…、この最低な男を殴り飛ばせたらどれだけ気が晴れるだろうか…!

もはや、怒りを通り越して殺意すら放っている気がするが、こんな外道に遠慮する気など毛頭ない。



俺が父に殺気を放っている間、父は近くのタンスの中を漁っていた。

すると、父がタンスの中にある引き出しを開けた時、母は大きく目を見開いて体を震わせ始めた。

あの引き出しの中にはそんなに見られたくないものが入っているのか…そう思っていると、父は何かを見つけたのか口を歪めてこちらに振り向く。

その手には茶色い封筒が握られており、封筒は膨らんでいる。

それを見た母は大きく目を見開き、絶望したかのような表情で口をパクパクと動かす。

そんな母を尻目に、男は封筒の封を切り中から札束を取り出した。

ざっと20枚はあるだろうか、という札束をみた父は醜く口角を釣り上げた。



「なんだよ…あるじゃねえか。」

「あ…あぁ…。」

「全く、隠したりせずに大人しく出していれば痛い目を見ずにすんだものを …。」

「それは…それだけは…駄目…。」

「あ?この金がなんだって言うんだよ?

お前のお気に入りのブランドでも買うつもりだったか?」

「違うの…それは…。」

「チッ、だからなんだって言うんだよ?」



足で床をトントンと踏み、イライラした表情を隠すことなく問い詰める男。

母は消え入りそうな声で男に言った。



「…それは壊斗の学費なんです…それだけは、それだけは見逃してください …。」



(母さん…。)



そう呟いた母の言葉に、俺は静かに泣いていた。

こんなに壊れそうなぐらいまで追いつめられていたのに、それでも自分の事を考えてくれていた…。

その事を知っただけで胸がいっぱいになる。

それだけで、少年時代に友達と遊ぶことを我慢してまで母を手伝い続けた自分が報われた気がする。



しかし、それを聞いた父は驚いたように目を開いたと思うと腹を抱えて笑いはじめた。



「学費だと…?ククッ…クハハハハハハァ!

 笑わせてくれるな、あんな餓鬼のための金だったなんてな!」

「お願いだからそれだけは取らないで…私の身体だろうが何だって売るから それだけは取らないで…。」

「身体を売るか…確かに俺はそう言ったが如何せんすぐに金が必要でな。

 悪いがこの金は貰っていくぞ。」



父はそのお金を掴み、この場から逃げるように去ろうとする。

それを母が止めようと、必死に父を摑まえた。



「いや!そのお金だけは渡せないの!」

「チッ、うるさいやつだな…。

 いい加減に離しやがれクソアマァ!」

「あぁっ!」



それでも、か弱い女性が男性の腕力に勝てるはずもなく突き飛ばされる母。

すると、母が突き飛ばされた先には簡素な小物入れがあった。

母はそれを開けると中から銀色に輝くナイフを取り出した。

幸か不幸か、父は突き飛ばしたときにばら撒かれたお札を拾うのに夢中になっていて母がナイフを持った事に気づいていない。

母は覚悟を決めたようにナイフを構えると、父に向かってナイフを突き出した。




ドシュッ




鋭利なナイフが父の首を貫き、そこから血が噴き出した。

父は突然の事に驚き、信じられないといった様子で母の方へゆっくりと振り返った。

ナイフが握られている母の手は血にまみれており、息も大きく乱れていた。

だが、その目だけは父の首をしっかりと捉え続けていた。

ヒューヒューと空気が漏れるような音を出しながら血を流し続ける父は床に倒れ込み、驚愕と恐怖の眼差しを血濡れの母に向けた。



「お、お前…ゴフッ、なにを…。」

「ごめんなさい…でも、もう限界だったの。」

「な、何を言っているん…カハッ」

「さようなら、あなた。もう会うこともないでしょう。」

「い、嫌だ…死にたくない…死にたくな…ガハァ!」



最後の言葉とともに血を吐きだした父は、それっきり動かなくなった。

母は力が抜けたように動かなくなった父のそばにへたり込んだ。

父を殺した、真っ赤に染まった自分の手を見つめる母。

そんな時、リビングの扉がゆっくりと開いた。



「お母さん…?何をやってるの?」



そこにいたのは不思議そうな顔をして立っている幼い自分だった。





-------------------------





「ねえ、お母さんどうしたの?

 さっきから大きな音がいっぱいしてたけど…。」



この時、俺は気付いた。否、気付いてしまった。

これから起こりうる最悪の出来事を。



(駄目だ俺、やめるんだ。これ以上こっちに来ちゃだめだ。)



俺の願いも空しく幼い自分は母のもとへ近づいて行った。

そして、母のもとに近づくと、傍で血を流して倒れている父を見つけた。



「これって…お父さん?何でこんなに血が出てるの…?

 それに、なんで何にも喋らないの…?」



そこまで分かると幼かった自分でも気づいてしまう。

今、父は危険な状態であると。

このままだと父が死んでしまうという事に。

それに気付いた自分は動かない母の肩を両手で持って力いっぱい揺すった。



「お母さん!このままじゃお父さんが死んじゃうよ!

 早く救急車を呼んで病院に行かないと!

 ねえ、お母さん!お母さん!」



幼い自分は母の肩を揺らし続ける。

それでも、母が反応する事はない。

何も反応しない母親が歯がゆいのか、母親の正面に回って声をかける。



「ねえお母さんったら!このままじゃ本当にお父さん死んじゃうよ!?

 そんなことになっ「ふふふっ…」…お母さん?」



その時、幼い自分は母の異変にようやく気が付いた。

焦点の定まってない虚ろな目に赤く染まった服、そして何より手に持っている血まみれのナイフ。

幼かった自分には理解できなかった。

ここで起きた事が分らなかった。

いや、一つだけ思いついたことがあるがそれを信じたくなかった。



---自分の母親が父親を刺殺した、という事を信じられる子供がどこにいるのだろうか。



脳がその仮説を理解する事を拒んでいると、母は虚ろな目を幼い壊斗に向けた。

壊斗は余りにも空虚な母の目を恐ろしいと感じた。

そんな母は、何処までも儚げで今にも消えてしまいそうだった。



「ねえ壊斗…。」

「ど、どうしたのお母さん?」

「お母さん…か。ふふっ。」

「お、お母さん大丈夫?どこか悪いところでもあるの?」

「どこか悪い…そう、ね…。

 

 …ねえ壊斗、一つだけいい?」

「おかあ、さん?」



母は既に自分を見てなくて、自分を通してその向こう側を見ていた。

…全てを諦観した目で。




「ごめんね。もうお母さん、疲れちゃった。」




ザクッ




そう言って母は自分の首にナイフを突き刺した。

首から出た血が自分に降りかかる。

母は糸が切れた操り人形のようにガクンと身体を落とすと、父に寄り添うように倒れた。

幼い自分は何が起きたか理解できなかった。

震える手で自分にかかった血を拭い、倒れた母の体を優しく揺らした。

そうしないと壊れてしまうような気がしたから。



「お母さん…?起きてよ、ここはリビングだよ?こんなところで寝てたら風 邪ひいちゃうよ?ほら、いつもお母さんも言ってたでしょ?ねえ…起きて よ。お母さん…お母さん…。」




いくら呼んでも母が返事をすることはもうない。



なぜなら、彼女はもう死んでしまったのだから。



それは、幼かった自分でも理解することが出来てしまった。



涙は出なかった。



いや、出せなかった。



今の彼の心にはぽっかりと大きな穴が空いていたからだ。



そんな彼には、最早悲しみを感じる事もできなかった。





彼には何もできない。



ただただ、壊れた人形のように母を呼び続けるしかなかった。


はい!取りあえず過去編はここまでです。

それにしても、主人公って壮絶な過去を背負ってますね…。


次回はついに転生(予定)です!

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