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集う場所

街の北西部の一際大きな建物。

そこがロスたちの住む場所だ。

アーチ状の玄関をくぐるとすぐに、吹き抜けの中庭がある。

左右に分かれた通路は、中庭をぐるりと囲むように伸びている。

中庭と通路の境は壁ではなく、いくつもの柱だ。

ズッシリと重く、ヒンヤリとしている柱たちが中庭を護る様に囲み、

その上の居住スペースを支えている。

中庭というより、「小さな公園を囲むように建物が建てられている」

そういった表現の方が正しいかもしれない。

通路から中庭に入るには、東西2つの入り口がある。

東から入り、出る時は西から。

これが中庭を使用する為の掟だ。

ロスとマルセルの腰くらいまでしかない塀、入り口以外からでも容易に入ることができる。

しかし、少し面倒な気もするが、掟を破ろうとするものは今まで1人もいなかったらしい。

特にロスも破る事はせず、意外にも素直に掟を遵守している。

実は、中庭の入り方の掟について、ロスは思うところがあった。

(東から入って西から出る。これって星の動きと同じだよな〜)

自転という概念がないこの時代、星などの天上の世界は決まって東から始まり西に終わる。

これが共通認識であった。

「星の動きに習って、自分も同じようにする」

単純なその行為に、ロスは何故かワクワクするのであった。

(そんな単純な事じゃなくて、もっと深い意味があるんだろうけどさ)

なんて事を思いながら2人の後ろを無意識に付いていくロス。

考え事をしながら歩く癖は小さい頃かららしく、何かしらのトラブルの原因である。

先ほどのアンナの件などすでに忘れて、建物に入ってからずっとこの調子。

しかしそこは慣れ親しんだ場所だからなのか。

幾度か角を曲がっては建物の奥へ奥へ歩いてきたが、何にもぶつかる事はなかった。

そんな不注意状態を中断させたのは、元気な複数の声だった。

「あ、マル兄とロス兄、やっと帰ってきた!」

「どこ行ってたんだよ〜」

「謝罪しろよ謝罪〜」

「やっと食べれる〜」

思い思いの言葉を浴びせてきたのは、10歳未満の子供達。

皆も今夜の祝儀に参加するらしいく、

ロスとマルセルのせいで夕げをお預けされていたのだろう、言葉にトゲがあった。

「おぉ、チビ共〜。悪かったな、待たせちまってよ!」

マルセルが少しも悪びれず、飄々と輪にはいっていく。

この男は少年たちに人気がある、というか、扱いが抜群に上手い。

今回の様に反感を買うような事をしても、いつの間にか仲良くやっている。

別に子供達も、本当に怒っているわけではない。

それどころか、マルセルに構ってもらいたい気持ちが半分以上を占めていたりする。

だから今回もマルセルに任せておけばいいし、ロス自身も積極的に輪には入っていかなかった。

適材適所。

今がまさにそれであり、それを分からないほどロスも抜けてはいないらしい。

一歩下がって、少し微笑ましい光景を堪能していた。

「本当の兄弟みたいだなぁ」

思わずそうこぼすと、後ろから声がかかった。

「もしかすると、本当に兄弟なのかも知れんぞ?」

ロスはギクリと振り返る。

髪は短髪で栗色の中に白髪が混じる。

今年で52歳になる身体からは、衰えを全く感じさせない。

見た目では、隆々としているわけではない。

むしろ細身で、マルセルの方が筋肉量は多く見える。

凝縮されているのだろうか。

表現するならば、

「人の姿に化けている5mを超えるドラゴン」

そんなところだ。

5mもの大きさが人間のサイズに収まっているのだ。

当然、密度は高いだろう。

実際には見たことはないドラゴン人間を想像し、

またもや思考の世界に迷い込みそうなところを、

「ロスさま、ロスさまぁ」

と、アンナが肘で小突いて引き戻す。

現実に帰ってきたロスは少しどぎまぎしつつ、

「え〜と、なんで兄弟だと思うのですか?サモア院長」

「その前に、お前も皆に詫びでもいれてきたらどうだ?」

「っっ!!…はは、そうします…」

引きつる顔はそのままに、後ずさりながらドラゴン人間と距離を取る。

「まぁ冗談だがな。あの子たちの扱いはマルセルに任せておけばよいだろう」

「………」

(この人は威圧感って言葉を知ってるんだろうか…)

迫力満点に冗談を言われても笑えない。

過去、幾度となく「お叱り」を受けてきたロスにとって、それはただのトラウマの再現である。

そんな、内心でも見た目でもビクつくロスに、アンナが助け船を出した。

「兄弟というのは、どーいう意味ですかぁ?院長ぅ」

話を振られたサモア院長は、どこかわざとらしく微笑みながら、

「おぉアンナ、2人の出迎えご苦労だった。すまんな、1人で行かせてしまっ」

その瞬間、目の前にいたアンナと院長が熱風と共に消えた。

なんとなく、院長がアンナに連れ去られた様にも見えたが…。

残されたロス、とりあえず部屋の中へ。

共同の食堂であるこの部屋には、長い長いテーブルが1つあり、取り囲むようにイスが置かれている。

壁には最低限の装飾がぶら下がるが、決して豪華ではない。

この街における、一般的なダイニングだ。

部屋を見渡してみると、席は既に大方埋まっていたが、ロスの席が分かりやすく余っていた。

左側、入り口から3番目のこの席は、ロスの席と言っていいだろう。

共同であるからには、それこそ自分の席などあるはずもないのだが、

好みというものはやはりあって、年長者の好みは反映されるらしい。

さっきまで怒っていた(様に見えただけ)子供達も、そう判断して空けてくれていたのである。

愛らしさを感じつつ、ロスは席に着く。

目の前では、マルセルが大人気ぶりを発揮していた。

今日はどこに行っていたのか。

何をしていたのか。

変わったことはなかったか。

そんな質問が飛び交っている。

マルセルは南の林の守り人のような事をしている。

林の状態を監視するとともに、野生動物の観察など。

つまりは林で遊んでいるのだ。

だが、ここの子供達には新鮮なようで、

熊を見た話になった時は、わーっと歓声の様なものが上がった。

ここにいる子供達は滅多に街の外には出ない。

だからなのだろうか。

一見、他愛のない話にも瞳を輝かせ、好奇心の炎を燃やしている。

女の子たちも、小動物や花の話に顔を見合わせては驚き、

「見てみたいね〜」などと盛り上がっている。

今夜もマルセル見聞録は大盛況のようだ。


そうこうしているうちに、院長とアンナが帰ってきた。

少し怒っているように見えるアンナは、さりげなく予約しておいたロスの隣に座り、

「お待たせしましたぁ、ロスさまぁ」

と、満面の笑みで言う。

その笑みには、「さっきの事は聞かないで」としっかり書いてあった。

サモア院長は、白髪混じりの栗毛を掻きながら、自分の席へ。

そして、

「えー、皆。時間がずれ込んだが、今から護昇の祝儀を始める」

すると係りの者たちが、大皿に盛られた料理を運び始めた。

「今年に入って採れた物だけで作った料理だ。まずは皆の身体に祝福を。

今夜はそうだな…ルペ、祈りの言葉を」

「はい」

ルペと呼ばれた少年は、アンナと同い年の14歳で背が高い。

スラリと長い手足、薄い銀髪を後ろで結んでいる、いわゆる美男子である。

両肘をテーブルにつき、手を組み、目を閉じる。

テーブルを囲む皆も、ルペに倣う。

ルペは2回、静かに深呼吸をすると、口を開いた。

「我ら、星天の寵愛を受けし者。

我らは永劫、星と共に生き、星と共に滅する。

我らは、絶えず前に進み、立ち止まり、挫け、そして必ず歩き出す、心強き者なり。

我らは、大いなる導きにより集い、やがて別れる。

しかし今、この時だけは、満たされた時間を。

見守り給え、愛し給え、導き給え、我らが星よ。イーサー」

「「「イーサー」」」

そして誰も口を開くことなく、自分の前に置かれた木の実を半分かじり、残りを皿に置く。

自分たちは欲張らないという証に小さな木の実を半分食べ、皿に返した半分は星への供え物の意味。

「それでは頂こう」

院長の言葉で、護昇の祝儀もとい、夕げが始まった。




















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