表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

星のチカラ

麗らかな風が吹く、小さな丘。

大きめの岩が幾つもあり、牧草の様な緑が広がる平原。

空を見上げれば、少しずつ濃くなり始めた青空と、羊のような雲。

大気に湿り気が程よく混ざり、ようやくそれらしくなってきた。

春である。

厳しい冬が終わりを告げ、春が来たのだ。

「やっぱり自分の季節はいい!」

っと、噛みしめるように唸ったのは、1人の若者。

快活そうな顔をして、にんまりと笑っている。

小さな荷物をほっぽり出し、靴まで脱いでくつろいでいる。

寝そべったり、転げてみたり。

じわじわと照りつける太陽を味わうかのように、何度か深呼吸する。

草の匂い。

土の匂い。

風の匂い。

何もかもが新しく、春という季節に相応しい。

かれこれ、1時間はこうしているのだが、若者は飽きることを知らない。

自分にとって、何よりも大切な事であるかの様に、春という季節を貪るのであった。


ふと、パキッと渇いた音が聞こえた。

枝が踏まれる音だろうか。

寝そべっていた若者は、すぅーっと上体を起こし、音のなる方へ視線を向ける。

若者から100m程先の平原と森林の境に、鹿がいた。

角がまだ新しい、若いオスの鹿の様だ。

鹿は辺りを警戒する様に、ピクピクと耳を動かしながら、食事している。

若者は眉をひそめ、視線を固定しながら、起き上がった。

腰を低くし、前傾姿勢。

視線の先に、気配が2つ。

何やら異変に気付いた鹿は、ムクっと首を持ち上げ、若者を見た。

目があった瞬間。

鹿の後ろの林から、大きな熊が現れた。

ゆうに2mは越えようかというその熊は、低く唸り声を上げながら飛び出してきた。

後ろ足だけで立ち、前足を大きく広げて威嚇。

鹿はブルブルと震え、その場から動けないでいる。

若者はとっさに

「我、アルクトゥールスの名において命ず。風よ、我が身に宿れ!」

輝く意思をその瞳に宿し、声高らかに叫んだ。

若者の体に、まるで竜巻のように絡みつくのは風。

宙に浮き、消えたかのような速度で上昇。

上空から、鹿と熊の間に向けて一気に急降下。

そして……

大地を穿ち、砂ぼこりを巻き上げるその現象は、もはや人間が起こしたとは思えない破壊をみせ、辺りに轟音が鳴り響いた。

熊は一目散に林へ逃げ、鹿も腰を抜かしそうになりながら、やっとの思いで走り出した。

粉塵がそよ風に流され、若者の姿が浮き上がる。

「ふぅーー」

と、空気を肺から押し出し、若者はにんまりと笑う。

すると、

「また変なことしてるのな、お前」

っと、声をかけられた。

「やっぱりいたんだ、マルセル」

マルセルと言われた青年は、木の枝に座っていた。

「そりゃそうだろ、俺の住処だからな」

そう半笑いで言いながら枝から飛び降り、若者へ向けて歩き出す。

上半身はだかで、鍛えられた胸筋。

二の腕は若者の2倍はありそうだ。

腰に下げている鉈は使い古しらしくボロボロだが、何故かそれが青年にとても良く馴染んでいた。

マルセル、それが彼の名前だった。

「何故助けた?弱肉強食なんて自然の摂理だろ?」

イタズラする前に、親に見つかってしまった子供のように、気まずい表情を浮かべながら

「いやぁ、なんとなくだよ」

そう言いながら、若者は頭を掻く。

先ほどの舞い上がった砂が、髪からポロポロと落ちる。

「なんとなくで、護星脈ピアー使う奴がいるかよ」

呆れ顔でそう言ったマルセルだが、もう諦めてる風でもあった。

そう、この若者が無駄に護星脈ピアーなる力を使うのは、これが初めてではない。

マルセルが記憶しているだけでも、手の指が足りない程だ。

「まぁ、減るもんじゃないんだしさ」

そう言って若者は、またしてもにんまりと笑う。

「そりゃそうだけどよ、自覚を持てって話だ。

いいかロス、お前は【春の群勢】の1人なんだからな」

「……わかってるよ」

ロスと言われた若者は、少し真剣な表情をして言った。

このやりとりも、もう何回目だろうか。

「ま、んなこと言ってどうせまたやるんだろうけどな」

やはりマルセルは呆れたようにそう言うのだった。


護星脈ピアー

それは、様々な星の加護を受け産まれてくる人間に、備わる星の力である。

星々には、名前があり意思がある。

自分の気に入る人間が産まれるのを星達は待っているらしい。

地上で男女が契りを交わし、子を成す。

母親の体に新たに宿る生命を感じ、その胎児と運命を共にするかを決めるのだ。

星に気に入られると、天空から細く微かな糸の様な光が降りてきて、その人物は祝福を受ける。

祝福されると、直ちに神殿へと移り住み、神の前で出産するのがしきたりだ。

ロスもマルセルもそうして産まれてきた。

特別な人間として。

高貴なるものとして。

そうした、祝福を受けながら産まれた人間をロス達の国では【春の群勢】という。

「だからって、何もかも禁止しなくてもいいだろ」

街に帰る途中、荷馬車を発見したロスとマルセルは、

おじさんに頼んで荷台に乗せてもらっていた。

その荷台から、足をプラプラと遊ばせながらロスは拗ねた風に呟いた。

「それはお前が悪いんだろ、実際」

マルセルがやはり呆れながら言う。

「静かに過ごしてりゃ、お偉いさんだって何も言わないさ。

お偉いさん方がうるさく言ってくるってこたぁ、お前が悪いんだろうよ」

ピシャリとそう言って、どこから出したか分からないリンゴをかじっている。

「そんな事言ってもさ、別に悪い事してるわけじゃないだろ?」

と、悪びれた様子はなく、納得もしていないようだ。

リンゴをかじりながら、「またそんな事を」と思いながら、

マルセルはやはり、呆れてため息をこぼすしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ