第十八話:家
高校二粘性の時に、もう後の人生そんなに不幸な目には遭わないだろうとタカをくくっていたけど、たったニ年でまた不幸のどん底に落ち込んでいる。今は家に帰ってこれたからまだマシだけど、ツトムから離れられたわけではない。それに、今の状態が『マシ』と思えるほど、私の感覚はマヒしていた。でもまだ家に帰って来たという心地はしない。まだ誰にも会っていないから。その時、
ガチャッ
家の鍵が開けられる音がした。この時間に帰ってくるのはおそらく母親。玄関の靴を見て、私がいることに気づくはずだ。物音がいったん止まる。そして静かに家の中に入ってくると、部屋から出てきた私と目が合った。
「・・・おかえり。」
と小さく言う私。母は、人一倍世間体を気にする人で、高校も偏差値の低い学校に進んだ私に、ヒステリーを起こしながら「これじゃぁ人に言えない」と言い放った。優しくて家族思いだけど、真面目で常識から外れるということは考えられない。そんな母だから、叩かれたり罵られたり、問い詰められたり、勘当も覚悟した。
すると母は、
「・・・ただいま。」
と言ったまま押し黙ってしまった。重たい空気に耐えられずに部屋に戻ると、ガサゴソと何も無かったかのように夕飯の支度をする母の包丁の音が聞こえた。
そして
「ご飯できたよ。食べるでしょ?」
と何事もなかったかのように私の部屋に入ってきた。前と変わらない優しい声で、でもちょっと緊張した様子で。
「うん。」
と笑顔で答えると、母も笑った。
二人で夕飯を食べていると、父が帰ってきた。父も何もなかったかのように、相変わらずの無口で並んで夕飯をつついた。
二人とも、何も聞かなかった。私も、何も言わなかった。