第十六話:釈放
この日々は一生続くものだと思っていた。もう私はこのまま長生きもせず誰も知らないところで死んでいくのかも。逃げようと思えば逃げれたのかもしれないけど、そんな考えは微塵もなかった。どこまでも追ってきそうだし、家族に迷惑がかかるのが一番怖かったから。
いつから私の人生はこんなことになったのかなぁ。どこで間違ったのかなぁ。
もっとちゃんとした人間だったら、こんなことにはならなかったのに。私は世界一親不幸な娘だ。
私の両親は真面目でまっとうな人生を歩み、一人娘である私にも幸せな人生を送ってほしいと人一倍願って育ててきてくれた。そんな思いを踏みにじり、今どんな気持ちで毎日過ごしているのか・・・。
ところがある日突然、地獄から一歩助け出されることになった。
「お前もう家帰っていいよ。」
あまりにも突然だった。
「えっ・・・。本当??」
「うん。でも今まで通り働いて、病院代も払えよ。」
「う・・・うん。」
嬉しさと共に少しの不安と、何とも言えない、いきなり空に放り出されたような感覚になった。
それでもすぐさま荷物を整え、外に出ると、日の光がいつもよりまぶしく感じて、意味も無くまわりを気にしたりした。
ツトムの部屋は外からみえないように、カーテンは常に閉められ、隙間という隙間にガムテープを貼り、一切外と遮断されたような家だったから、監獄からやっと釈放されたような気分になった。
それでも家に帰るのはためらった。
両親とは一度も連絡を取っていない。携帯はツトムに管理され、始めのほうに私のフリして母にメールを送っていたけど、その内容は知らないのだ。
とんでもない内容のメールだったら・・・。そんな不安が頭をよぎり、中々家の中には入れないでいた。
ちょうど仕事で誰も家にはいなかったので、一人で静かにみんなの帰りを待った。