第十三話:一度だけの帰宅
それからまた違うお店で働き、二十万を払ったけど、もう遅かった。話はどんどん膨らみ、どんどん色んな理由をつけて、お金を請求されるようになった。
私は、直接コウタにもコウタが頼んだ誰かにも会っていない。全部ツトムが連絡をとって会ったりしてるらしい。
私はまた、あれから家にも帰れず両親とも連絡を取れず、ただひたすらツトムの部屋と店の往復を繰り返していた。毎日毎日、今日はいくら稼いだかを報告する。少ないとサボったとか無駄遣いをしたとか言われて怒られて、たまに、またクリスマスのことを持ち出して殴られたりした。
私は一度だけ、家に帰ることを許された。着替えも何も持っていないので、とりあえずの身の回りのものだけ持ってくるように言われたのだ。ただし、両親が仕事でいない昼間に、時間制限付きで出された。タクシー代を渡され、時間内に戻って来なかったらまた殴ると言われた。
ツトムは私の住所を知っている。逃げたり余計なことをしたら家族にも迷惑がかかるかもしれない、そう思うと言う事を聞くしかなくなっていた。
家に帰ると、誰もいない部屋で、何も変わらず、でも何だか知らない家のように遠い感じがした。だけど浸っている時間もなかった。往復の時間もいれたら、本当に数分で仕度をしなくてはいけなかった。
バッグに入れられるだけの服を詰めると、私はふと台所に向かい、小さいナイフをポーチにしまった。そして後ろ髪を引かれる思いで家を後にした。
待たせていたタクシーに飛び乗ると、また、ツトムの待つ部屋に戻った。
母が仕事から帰ってきたら、誰かが家に入った痕跡に気づくだろう。きっと私だとすぐわかる。そしたらどんな気持ちになるのか・・・。それを考えたらまた涙が止まらなかった。