第一話:はじまり
杏奈、19才。新宿・渋谷など都内の風俗店を転々とする風俗嬢。
でも、どこにいても落ち着かない。
「だんだん、自分がなんなのかってわかんなくなってくるんだよね。」
「どういう意味?」
「なんてゆーか…。家にいるときはお父さんとお母さんの娘の私じゃん?なのにここでは杏奈じゃん?どっちが本当の私で、こんなとこで何やってんだろー…とかね。」
「杏奈ちゃんはこの仕事嫌いなの?」「当たり前だよ。好きでこんなことしないわ。」
「でも結構稼いでるじゃん。好きなもの買い放題でしょ?」
…何て答えたらいいか解らなかった。笑いながら曖昧に頷く。
待ち合い室のインターホンが鳴った。
「杏奈さん、次120分で、セーラーとブルマで、5号室にお願いします。」
また、自分を殺さなくちゃいけない。地獄の時間がやってくる。
店を出るとツトムが車で待っている。無言で助手席に乗り込む。
「よっ、今日はいくら?」車を走らせながらこっちも見ずにツトムは言う。そして、私は黙って五万円を渡すのだ。
「マジかよ。もっと頑張れよ。」
そうして全てを奪われる。お金も、時間も、自由も。『私』という人格さえも無視して、私を追い詰めようとするのだ。「まー、明日は頑張ってね。」
それには答えず、小さく、死ね、とつぶやいた。