Episode 5 クラスメイト
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚めた。
「……朝か」
見慣れない天井。
いや、もう見慣れ始めてるのが嫌だ。
『おい相棒、朝メシだ』
「うるせぇ……」
隣を見ると、グラトニーが枕元で仁王立ちしている。
なんでそんな偉そうなんだよ。
「飯は自分でどうにかしろ」
『できるか!俺様はまだ小さいんだぞ!』
「見た目だけな……」
適当に流しながら、俺は制服に着替える。
どうやらこの寮から学校までは直通らしい。
――Sクラス専用の通学ルート。
「ほんと、どこまで特別なんだよ……」
『当然だろ。俺様の契約者だぞ?』
「はいはい」
⸻
Sクラス寮の廊下は静かだった。
昨日とは違い、他の住人の気配がある。
“同じ契約者”。
それだけで、少しだけ緊張する。
エレベーターを降り、渡り廊下を進むと――
そこは普通の学校だった。
制服の生徒たちが行き交い、笑い声が響く。
昨日までと変わらない、はずの光景。
「……ほんとに同じ世界か?」
『表だけはな』
グラトニーが小さく笑う。
⸻
教室のドアを開ける。
ガラッ――
一瞬だけ、視線が集まった。
「……転校生か?」
「いや、昨日休んでたやつだろ」
ざわつきが広がる。
「……」
めんどくさいな。
適当に空いている席に向かおうとした、その時――
「そこ、俺の席なんだけど」
声をかけられる。
振り向くと、
短めの黒髪に、少し鋭い目つきの男子が立っていた。
「……あ、悪い」
俺がどこうとすると、そいつは少しだけ俺を見て――
「……その気配、お前もか」
「は?」
小さく呟かれた言葉。
その瞬間。
『ケケ……いるな』
グラトニーが楽しそうに笑う。
「……お前」
男は少しだけ口角を上げた。
「契約者だろ」
「……っ」
図星だった。
「……そういうお前も?」
「ああ」
男はあっさり頷く。
「俺はカイ」
「ルイだ」
短い自己紹介。
それだけで分かる。
――こいつは、同じ側の人間だ。
その時、後ろから別の声がした。
「朝から物騒な話してるね」
振り向くと、
柔らかい雰囲気の少女が立っていた。
茶色の髪に、少し眠たげな目。
でも――
どこか“普通じゃない”。
「……あなたも?」
俺が聞くと、彼女は少しだけ笑った。
「うん、一応ね」
軽い調子で言う。
「私はミオ」
『ケケ、増えてきたな相棒』
グラトニーが嬉しそうに呟く。
教室の中、普通の朝。
なのに――
確実に“同じ側”の人間が集まり始めていた。
「……めんどくさくなりそうだな」
俺がぼそっと呟くと、
カイは少し笑って言った。
「もうなってるだろ」
ミオもくすっと笑う。
「これからだよ、多分」
ミオの言葉が、やけに現実味を帯びて響く。
――その時だった。
ガラッ!!
教室のドアが勢いよく開いた。
「はぁ……はぁ……間に合った……!」
息を切らしながら立っていたのは、一人の少女。
長い髪が少し乱れ、制服もどこか着崩れている。
それでも目だけは、やけに鋭かった。
「……遅刻だぞ、アイリス」
カイが呆れたように言う。
「うるさい……朝から“あれ”が出てたのよ」
「……あれ?」
俺が聞き返すと、アイリスはちらっとこちらを見る。
その視線――一瞬で分かった。
こいつも、同じだ。
「……新入り?」
「ああ」
カイが短く答える。
「ルイ。こいつもSクラスだ」
「へぇ……」
アイリスはじっと俺を見る。
まるで値踏みするみたいに。
『ケケ……こいつもいい匂いがするな』
「黙ってろ」
小声でグラトニーを押さえる。
アイリスはふっと鼻で笑った。
「隠す気ないのね、その悪魔」
「……バレてんのかよ」
「わかるわよ、それくらい」
そう言いながら、アイリスは自分の席にドサッと座る。
「で、ルイだっけ」
「ああ」
「死にたくなかったら――」
その言葉に、空気が少しだけ張り詰める。
「無理に強くなろうとしないことね」
「……は?」
思わず聞き返す。
アイリスは視線を窓の外に向けたまま、ぼそりと続けた。
「このクラス、“それで壊れたやつ”何人も見てるから」
――一瞬、言葉が出なかった。
『……ほぉ』
グラトニーが興味深そうに呟く。
カイは何も言わず、腕を組む。
ミオも、少しだけ表情を曇らせている。
「……なんだよ、それ」
「そのままの意味」
アイリスは振り返らない。
「ここは“強くなれる場所”じゃない」
一拍置いて。
「“壊れる場所”よ」
チャイムが鳴る。
キーンコーンカーンコーン――
まるで、その言葉を区切るように。




