表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未定  作者: おうか
4/7

Episode 4 強さの代償

「……で、お前の力って結局なんなんだよ」


俺がそう聞くと、グラトニーはベッドの上で寝転がったまま、にやりと笑った。


『俺様の力はな――“喰らう力”だ』


「それはさっき聞いた」


『まあ待てって』


グラトニーはぴょんと跳ねて、俺の目の前に着地する。


『その力は“形”を持つ』


「形?」


『ああ』


次の瞬間――


俺の手が、勝手に熱を持った。


「……っ!?」


右手の中に、何かが“生まれる”。


それは黒い靄のようなものから、ゆっくりと形を成していく。


――剣だ。


禍々しく、黒く、どこか生きているような剣。


「な、なんだこれ……!」


『それが俺様の力の本体だ』


グラトニーが誇らしげに言う。


『“喰らう剣”――お前が振るえば、何でも喰える』


俺は恐る恐る、その剣を握る。


ズクン、と。


頭の奥で、何かが削れる感覚が走った。


「……っ、今……」


『ああ、始まってるぞ』


グラトニーは楽しそうに笑う。


『それが代償だ』


「まだ何もしてねぇだろ……!」


『“持っただけ”で少しずつ食う』


軽く言うな。


「……じゃあ振ったらどうなる」


『試してみるか?』


グラトニーの目が細くなる。


一瞬、迷う。


でも――


「……少しだけだぞ」


俺は部屋の隅に置かれた、空のペットボトルに向けて剣を振るった。


ヒュッ――


次の瞬間。


ペットボトルは“切れた”んじゃない。


――消えた。


まるで最初から存在しなかったかのように。


「……は?」


『喰ったんだよ』


グラトニーが笑う。


その瞬間――


ズキンッ!!


「っ……!!」


頭に鋭い痛みが走る。


「な、なんだ……今の……!」


『何か一つ、記憶が消えたな』


「……っ!?」


思い出そうとする。


――何かが思い出せない。


確かにあったはずなのに、“そこだけ抜けている”。


「……なんだよこれ……」


『いいだろ?便利だろ?』


「最悪だ……」


俺は剣を見つめる。


黒い刃が、まるでこちらを見返している気がした。


『その剣はな』


グラトニーが静かに言う。


『お前が失ったものの分だけ、強くなる』


「……は?」


『記憶を喰えば喰うほど、切れ味も、喰える範囲も上がる』


「……じゃあ俺は……」


『そうだ』


グラトニーはにやりと笑った。


『強くなるほど、“お前じゃなくなる”』


――言葉が、出なかった。


部屋の中で、黒い剣だけが静かに脈打っている。


『さあ相棒』


グラトニーが楽しそうに言う。


『どこまで自分を喰わせる?』


「……さっきの、勝手に消えたんじゃなかったのか?」


俺が低く聞くと、グラトニーは首をかしげた。


『ああ?そんな不便な力にするわけねぇだろ』


「……は?」


『“選べる”に決まってんだろ』


その言葉に、思考が一瞬止まる。


「選べる……?」


グラトニーはにやりと笑った。


『お前が“何を喰わせるか”決めるんだよ』


「……」


『記憶はな、全部同じ味じゃねぇ』


グラトニーは指で宙をなぞる。


すると――黒い靄が、ゆらりと浮かび上がった。


『どうでもいい記憶は軽い。大した力にはならねぇ』


靄はすぐに霧散する。


『でもな――』


次の瞬間。


ぐっと、空気が重くなる。


『“大事な記憶”は違う』


ドクン、と。


胸の奥が勝手に反応する。


「……やめろ」


『家族、友達、好きな奴――』


「やめろって言ってんだろ」


グラトニーは楽しそうに笑った。


『そういう“重い記憶”を喰わせた時、この剣は本気を出す』


俺は無意識に、剣を握る手に力を込める。


「……じゃあ、俺は」


『選ぶんだよ』


グラトニーの声が、やけに静かになる。


『どの自分を捨てるか』


沈黙。


部屋の空気が張り詰める。


「……試せるのか」


俺はゆっくりと聞いた。


『ああ』


グラトニーは頷く。


『軽いのでいい。何か一つ、選べ』


「……」


頭の中を探る。


どうでもいい記憶。


――昨日の晩飯。


「……これでいい」


そう呟いた瞬間。


黒い剣が、微かに脈打つ。


「……っ!」


頭の奥から、“それ”を引き抜かれる感覚。


一瞬で、消えた。


「……」


思い出そうとする。


――思い出せない。


『軽いな』


グラトニーがつまらなそうに言う。


俺はそのまま、近くの机に向かって剣を振るった。


ヒュッ――


机の角が、“削れる”。


さっきより、明らかに“ちゃんと斬れた”。


「……なるほどな」


『だが、それじゃ大した力にはならねぇ』


グラトニーの声が低くなる。


『本当に必要な時、お前はもっと重いもんを差し出すことになる』


「……」


『その時、ちゃんと選べよ』


小さな悪魔が、まっすぐこちらを見る。


『“何を忘れるか”で、お前の強さは決まる』


俺は剣を見つめる。


黒い刃が、まるで底なしの穴みたいに見えた。


「……最悪だな」


『最高だろ?』


グラトニーが笑う。


『自分の価値で強さが決まるんだからな』


――その言葉は、やけに重く響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ