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未定  作者: おうか
2/7

Episode 2 Sクラス寮

寮に戻ると、俺の部屋は今後『特別室』となるらしく特別な寮棟『Sクラス寮』へとお引越しとなったらしい。

荷物は寮のメイド達が既に入院中に移動させたらしく、俺はグラトニーが入ったケージをもってSクラス寮の201号室へと入る。


『…おい!俺様を早く出せ!』

「はいはい、わかったから待てよ…」


俺はため息をつきながらケージの扉を開ける。


次の瞬間、グラトニーは勢いよく飛び出し――ベッドの上に着地した。


『ふはははは!解放だぁ!ここが俺様の新しい縄張りか!』

「縄張りって……俺の部屋だからな、それ」


グラトニーはベッドの上をぴょんぴょん跳ね回り、カーテン、机、クローゼットと次々に視線を向ける。まるで品定めをしているかのようだ。


『むむ……広いな……そして――匂いがする』

「は?」


グラトニーはぴたりと動きを止め、鼻をひくつかせた。


『これは……肉の匂いではないが……“うまそうなもの”の匂いだ……』

「やめろ、勝手に何か食うなよ」


嫌な予感しかしない。

俺は慌てて冷蔵庫の前に立つ。


「これは俺のだ。勝手に食うな」

『ケチくさい奴め……相棒のくせに』

「だから相棒じゃないっての……」


部屋を見渡す。

Sクラス寮――その名前の通り、今までの寮とは明らかに違っていた。


広めのワンルームに、しっかりした家具。

生活に困らないどころか、むしろ過剰なくらい整っている。


「……なんなんだよ、これ」


『ふん!当然だ!俺様と契約したのだからな!特別扱いは当然だろう!』

「お前のせいかよ……」


グラトニーは得意げに胸を張る……が、サイズが小さすぎて全く威厳がない。


その時――


コンコン、と扉がノックされた。


「……もう誰だよ」


『む!?敵か!?』

グラトニーが一瞬で戦闘態勢に入る。


「いや早いって」


俺がドアに手をかけると、外から落ち着いた声がした。


「失礼します。Sクラス寮専属のメイドです」


「……メイド?」


一瞬、思考が止まる。


この寮、なんか色々おかしくないか?


俺はゆっくりとドアを開けた――


そこに立っていたのは、黒髪を腰まで伸ばしたメイド服の女性だった。

整った顔立ちに、どこか人間離れした妖しさを感じる。


「初めまして。Sクラス寮専属メイドのリリスと申します」

静かに一礼するその仕草は完璧で、隙がない。


「……あ、どうも」

思わず気圧される。


その瞬間――


『なっ……!?』


後ろから、グラトニーの声が明らかに変わった。


『お、おいルイ……こいつ……』


「ん?」


グラトニーは珍しく警戒した様子で、リリスを睨みつけている。

さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静かだ。


リリスはそんなグラトニーを一瞥し、わずかに口元を緩めた。


「ふふ……可愛らしい契約悪魔ですね」


『可愛いだとぉ!?この俺様を……!』

一瞬でいつもの調子に戻るグラトニー。


「……やっぱりうるさいな」


リリスは何事もなかったかのように話を続ける。


「ルイ様、本日よりこちらのSクラス寮にて生活していただきます。必要なものは全てこちらでご用意しておりますので、ご安心ください」


「……あの、なんで俺だけこんな部屋なんですか?」


俺の問いに、リリスはわずかに目を細めた。


「“特別な契約者”だからです」


その言葉だけが、妙に重く響く。


『ふん!当然だ!俺様と契約したのだからな!』

グラトニーがまた胸を張る。


「いや絶対それだけじゃないだろ……」


リリスはくすりと小さく笑った。


「詳しい説明は後ほど。まずはお疲れでしょうから、お茶をご用意いたしますね」


そう言って、自然な動作で部屋の中へと入ってくる。

――まるで最初からここが自分の領域であるかのように。


グラトニーはその背中をじっと見つめ、小さく呟いた。


『……ルイ、気をつけろ』


「え?」


『あの女……ただのメイドじゃねぇ』


その言葉の意味を考えるより先に、

リリスは何事もなかったかのように振り返る。


「どうかされましたか?」


「……いや、なんでもない」


俺はそう答えながらも、胸の奥に小さな違和感が残るのを感じていた。


――この寮も、このメイドも、そしてこの生活も。

どうやら思っているより、ずっと“普通じゃない”らしい。


リリスは静かにカップを並べ、お茶を注ぐ。

その所作はあまりにも優雅で、音すら立てない。


「どうぞ、ルイ様」


差し出されたカップを受け取りながら、俺はどこか落ち着かない気分になる。


「……ありがとうございます」


『……』


グラトニーは珍しく黙っている。

いや、違う。


――睨んでいる。


リリスを。


その視線は、さっきまでのふざけたものじゃない。

明確な“警戒”だ。


「……どうしたんだよ」


小声で聞くと、グラトニーは俺の足元に寄ってきて、さらに声を落とした。


『ルイ……あいつ、同類だ』


「……は?」


『しかも……俺様より上だ』


一瞬、背筋が冷える。


その時だった。


「ふふ……聞こえておりますよ」


リリスが、何気ない顔でこちらを見ていた。


「……っ!?」


『ちっ……』


グラトニーが小さく舌打ちする。


リリスはカップを自分の口元へ運びながら、穏やかに微笑む。


「自己紹介がまだでしたね」


――空気が、変わる。


さっきまでの“ただのメイド”の気配が、すっと消えた。


「私はリリス。確かに“メイド”ではありますが……」


一瞬だけ、彼女の瞳が深く、妖しく揺れる。


「悪魔側の存在でもあります」


静かに告げられたその言葉に、部屋の空気が一段重くなる。


「……え?」


理解が追いつかない。


「ご安心ください。敵ではありません」


リリスはあくまで穏やかに続ける。


「この寮にいる限り、私は“管理者”として皆様をお守りする立場ですので」


『守る、ねぇ……』

グラトニーが低く唸る。


『随分と都合のいい立場じゃねぇか』


リリスはその言葉にも微笑みを崩さない。


「悪魔にも役割はございますから」


その言い方は、どこか“人間の常識の外側”にあるものだった。


俺はカップを持ったまま、ただ二人を見比べることしかできない。


悪魔と契約した俺。

天使と契約した誰かがいて。


そして今、目の前には――


“悪魔側のメイド”。


「……なんだよ、この生活」


思わず漏れた言葉に、リリスはくすりと笑った。


「ようこそ、特別な契約者の世界へ」


その微笑みは優雅で――


そして、どこまでも底が見えなかった。

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