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ショートショートSFメタ『私物語』

作者: 3太郎
掲載日:2026/02/15

ベッドの脇のガラス天板のお洒落なテーブルに置いているスマホが「ブーン、ブーン」と低い湿った音を立てる。振動が私の眠りを乱す──


「迷惑メール……」

もう一週間この通知音で神経質な私は目を覚ます、連日の執筆による寝不足のせいで、完全に私の意識を覚醒させることはできない。


差出人を見て、明らかな迷惑メールだ。

内容は読まず。即削除する。

しかしまあ、毎朝毎朝、届くその迷惑メールに、穏やかな私でも苛々が募る。


私は、友人の紀美子に助けを求めた。

街の一角にある、静かな雰囲気の喫茶店で待ち合わせる。ここは私たちの行きつけの喫茶店で、友人の聡が営んでいる。だから多少長居しても問題はない。私は仕事の打ち合わせでも使っているので、いわば常連だった。

いつもの場所に陣取りながら(店の奥にある大きな窓からレースのカーテン越しに、さわやかな日差しが差し込んでいる。窓の横には観葉植物が並ぶ)

コーヒーを飲みながら過ごす時間が、いつもの私のルーチンだった。


私の"変わった"物語は大体、この喫茶店から

始まるので店の名は【ぷれりゅーど】(「始まり」「前奏」「序章」等の意味をもつ)私が改名を命じたのだ。ちなみに改名前は「あじさい」という平凡な名前だった。


紀美子はそんなの簡単よと、ブロックすればいいじゃないと微笑みながら言った。


私は眉をひそめ訝しげな顔で

「ブロックはしてるのよね……」と伝えると。


紀美子の表情がわずかに変わった。何か思い至ったように目を見開き耳元でヒソヒソと呟いた。


「あなたそれ、幸せの"予言"メールじゃない?」──

紀美子の感はまず当たらない……私はそう思いながらコーヒーをすすった。




やはりこの喫茶店から物語が始まる。

聡が早速嗅ぎ付けて来る。

「新メニューの、ブルーベリーのふんわりムースのレアチーズケーキお持ちしました」と私たちの会話に割り込んでくる。


私たちは一瞥をくれて

「ダイエット中」と短く的確な言葉を投げかける。

それで十分だ。


聡はそそくさと新作のケーキだけ置いて、中に引っ込んだ。


もちろん私たちは、そのケーキを当たり前のように頂きながら話を続ける。


聡が序盤から入ってくると物語が"歪む"のだ

聡はそういう位置付けである。

序盤には不文律なのだ。


紀美子が私のメールを興味深く開いて見る。が──

そこには見たこともない文字が並んでいた。到底解読は出来ない。


紀美子がピクリと眉をあげ

「変な文字──見たこともない、気持ち悪い」

紀美子は意味ありげな、"起因となる台詞"を発した。

"律儀"にそういうと紀美子は私にスマホを返した。


私はその一連の行動で気づく、


そうこれは私がSF作家という事とは別の話で、この喫茶店【ぷれりゅーど】から始まるいつもの行動。


現実と私の脳内で生成された仮想空間、それらが混ざり合いやがて、メタ空間へと切り換わっていく、これはその"変換儀式"なのだ。


私、紀美子、聡が集まると数%の確率で構成フィルムが回り始める。この腐れ縁の私たち『スリーストーリーず』のメタ世界の始まりで、合図なのだ。


この"始まりを"自覚できるのは私だけで、ほかの二人は穏やかな日常を過ごしているだけに過ぎない。まさか迷惑メールが引き金になるとは思わなかった……

それとも私が今、書き上げている小説による慢性的な睡眠不足。それこそが今回の発動条件なのだろうか?


私はいつもメタ世界に巻き込んでしまう、二人には大変感謝しいる。危害が及ばないように、プロテクトは何重にも施してある。少なくとも私の設計上では。


こんなSFメタ人間の駄作に付き合ってくれるのだから──

万が一メタ世界で私が死んでも、

この二人は絶対に生還させる。

それが私の絶対条件だ。


だが今回違う。

私は非常に情緒が不安定で乱れている。

ノイズも混じる…

そして、荒れていることを理由にして

これから起動する、メタ世界そのものを

いきなり破壊してやろうと考えた。

執筆の睡眠不足からくる苛立ちは、いつもより酷く、私が老いただけなんだろうか──


この物語は【ぷれりゅーど】から始まるのはもはや必然。

しかしその起因が迷惑メールに置くことは素人SF三流作家の発想──


私は一応売れっ子だ。

迷惑メールに物語の起因は置かない。

いや、置けるはずがない。

これは私の直感でもなんでもなく、私自身の裏を読むことで超越できる干渉。


紀美子に私のバックアップ要員、新作のケーキを物語の消失点、聡を物理攻撃専門でこの空間をぶっ壊してもらうか、ええええい……スペシャルスキル『ドリームアタック』という、たいそうな名前に(中二病)にしてあげよう。


今回私は相当おかしな精神状態で物語を構築していた──

顔は微笑と怪訝と仏頂面と悪魔と三面相どころではない

紀美子の眼鏡の反射で写る狂喜染みた私の顔。

締め切り直前のワナワナと追い込みで執筆する作家の醜い顔、

いかりのような肩で息をしながら

脳内キーボードを打ち込む姿が私を更に追い込む。


これは私の三作目『私の言質は言霊に』のセルフオマージュであることは確実!


言霊に取り憑く雑兵が言質を盾に強兵になるあれだ──

小説三作目の私は順調にSF作家としての階段を登っていた頃で、

そのとき付き合っていた"ダイゴ"にベタぼれしていた時期だった。

と同時に浮気された──

卒倒…

憔悴…

幸福感…

この三つ巴の感情が同時に存在いていた、思い出したくもない"くそみそ時代"。


心の奥底に厳重に封印した記憶がこじ開けられる


………………………………。


私の琴線が「プツン」と切れて脳内シャットダウン──


気づいたら

紀美子と聡が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

目を開けた私を抱き上げ、紀美子が大泣きして

わんわんと泣き出す。聡も心配そうに佇んでいる。

私も嫌な記憶をまた封印するように大泣きしている。


私は私の記憶をトリガーにしてこの物語をデストロイしたのだった。


紀美子と聡に感謝し、



私はスランプにより

しばらく三流SF作家になり下がった。


おわり

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