オルゴールが鳴らすその音が、宇宙の果てに届く頃には
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「きみは時代遅れだなぁ」
今日もオルゴールは、人々の言葉に酷く落ち込んでいた。
世界がすべて灰色に見えた。
◇◆◆
この世界は、音楽で満ちている。
近年、音楽を鳴らす主役は電子機器の面々だ。
スマホ、オーディオプレイヤー、ラジカセ、蓄音機などなど。
新旧いろいろあるが、それらは楽器演奏や歌声をほぼそのまま再現できる。
それに比べて……。
曇り空を見上げ、オルゴールは溜息を吐く。
彼が鳴らせるのは、金属を弾く音だけ。
旋律や和音は鳴らせても、楽器や歌は再現できない。
澄んだ鈴のような音色が、人々を魅了した時代もあった。
でも今は、ほぼ忘れ去られた存在。
世界に取り残された感覚に、一段と気が沈むのだった。
◇◇◆
ある日の夜。
音楽道具たちの集会が、星空の下で開かれていた。
一同の前で、音楽の神さまが問いかける。
「昔の人類が、宇宙にレコードを打ち上げた事を覚えているか?」
かつて人類は、地球の音や画像を記録したレコードを無人探査機に乗せ、宇宙に打ち上げた。
宇宙人に地球のことを知ってもらうために。
そこには各言語での挨拶とともに、珠玉の音楽がいくつか収録された。
金色にきらきら輝くレコードは、今も遠い宇宙を旅しているが――。
「あれは宇宙人に再生方法が分かりにくかった可能性がある。人類はよりシンプルな形で音楽を届けなおす気のようだ」
「どうやって……?」
「探査機を再度打ち上げる。今度はオルゴールを乗せたいそうだ」
ざわつく一同。
「なぜ金属音しか鳴らせないやつを?」
「スマホやラジカセのほうが良いんじゃ?」
「いや、電気で動くものは長旅の中で力尽きてしまう」
「ぜんまいで動くオルゴールはレコードより仕組みが単純だし、悪くないな」
周囲の視線がオルゴールに集まる。
彼は突然の大役に困惑しつつ、何かの役に立てる喜びを感じていた。
◇◇◇
こうして、オルゴールは宇宙へと旅立った。
不安もあるが、それ以上にわくわくする。
旅が終わるころには、地球ではまた新しい音楽が生まれているだろうか。
今あるすべては、いずれ過去になる。
時代遅れの自分を嘆く必要はなかった。
今はやれることをやるだけだ。
探査機の窓から見える地球は、きらきらと輝いて見えた。




