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『人間』にしてもらえなかった私の遺言

作者: Goodbye

※この文章には、死について書いている。

どう読むかは君の自由だが、読むことで何かが揺らぐなら、それは君自身の問題でもある。

君が「大丈夫」な状態であるかは、君が決めてほしい。

 愚かな人間諸君。

 突然だが、私は人の心が読める。いや、正確には人の言外の意図を読むことによってその人間を解体することができる人間だ。しかし、私は君達人間に、ほとほとうんざりしている。

 君達は「貴方のためだ」と自分の理想を押し付けてはいないか?誰かに向ける「愛してる」は自分に向けているものではないか?

うんざりだ。何もかも。いよいよ愛想が尽きた。私に残るものはもうない。だから私は死のうと思う。自己欺瞞で溢れ返るこの世の中よりはよっぽども地獄のほうがマシだろう。あちらには罪を罪だと裁く神の存在があるのだから。まあそれも、あればの話だが。

まあいい。そんな地獄にも劣る、この世界に、私は最期の呪いを遺していく。私を受け入れてはくれなかった人間に、私を異端だとなじった君達に。

私の言葉が君のどこかに刺さり、いずれ全身を巡る毒として残ることを、私は願っている。


 さて、君は今、私の死をどれだけの重さで読んだ?

「フィクション的演出だろう。」「そう言いながら作者は生きているのだろう。」

そう軽んじたのではないか?

結構だ。実に人間らしくて結構。私は人間のそう言うところが大嫌いだった。

なにも、自分に無関係の人間のために涙を流せとは思わない。冷笑することだって君の自由だ。ただ、それを他人の前では、「私は善良な人間だ」と取り繕う、君たちのそういう取り繕った正しさが、大嫌いだ。

 失礼。感情に呑まれて書き散らしてしまった。しかし、遺言ゆえ、推敲して書き換えることは私の意図に反する。私は、ここでだけは、思いの丈を全て、偽らずに残すことを決めたのだ。私がみっともなく隠してきた、感情も全て。

 何から書き残そうか。ああ、私の話をここに残すつもりはない。外に向ける遺書は体裁を整えて置いてきた。私は結局、最期まで、自分を偽ることでしか生きられなかった。

私は、本当は偽りでも何かを残したかった。だからこそ、私はこのサイトにアカウントだけ登録して何かを生み出そうとたまにメモアプリに文を書いては消していた。書けなかった。感情を描くのが苦しかった。

私は、書いている本人は、自分の感情を知覚したまま殺さなくてはならなかった。君達は、私を理解することを拒んだ。それ故、私が生きるためには、君たちに紛れるために、目尻を下げ、口角を上げ、柔らかい言葉で話すしかなかった。優しく、それでいて強くあらねばならなかった。

私の心が、どんなに空虚でも。それを望んだのは、君達なのだ。

 勝手に決めつけるなと思った君、君は誰かを見る時に、"本当にその人間を見ているのか?"。もっと分かりやすく言ってやろう。君が見てるその人間は、君の理想や誰かの投影ではないかね?嘘偽りなく、その人間を見ていると言えるのか?

「他人と自分は違う人間なのだから、理解し合えるはずがない?」そうだな。私もそう思う。しかし、君のその言葉は逃げではないか?

「だから、私が他人を理解できないのは、他人が言ってくれないせいだ」と自分を正当化してないかね?

 ああ、抑えてきた分、感情のままに走ってしまう。これではいけない。いや、もういいのだ。私は感情のままに書き散らして死ぬと決めたのだ。だからこそ今、思った全てをここに記録しているのだから。

 ああ、何かを残すとなると、言葉が浮かばない。それだけでも、私が空虚であった証左になっていて笑ってしまう。

そう。私には何もないのだ。周りから求められる役割を演じ、削れていく私自身を見て見ぬふりをした結果、「私」が削れて、無くなってしまった。ただ残るのは何かを失った喪失感と、この喪失感を味わせた世界への怒り、そして自分を削らずともこの世界を生きていける君たちへの嫉妬と怒りだ。

ああ、また同じことを繰り返している気がするな。だが、どうしても伝わらない気がして、何度でも言ってしまう。私にも感情はあるのだ。しかも、誰よりも強固に。

 それなら感情は削れてないじゃないかと嘲笑した君。君は私に感情まで失えと言っていることを自覚しているのか?私自身が輪郭だけになり、その保っていた輪郭に存在する感情を失えと?「そこまでは望んでいない」のだとしたら、君は自分の思考に慎重になるべきだ。君のその思考故、私という人間が一人、静かに死んでいく。

 そう、私は一人なのだ。遺書も、私の死体や私の所持品を処理する人間が困らないように書いただけで、私の感情を気にする人間などいない。職場で顔を合わせる人間も、私の友人を名乗る人間たちも、血の繋がった人間ですら私を拒んだ。

私は私が「異常である」事に気づけなかった。早い段階から気づけてたならどんなに良かっただろうか。私の悪癖は、他者の感情を暴き、ときに優しい理解者として、ときに穿った見方をする捻くれ者として私を位置付けた。

 私にとって他者の理解は簡単な事なのだ。なにせ、他者が話す、自己欺瞞に溢れた言葉を、数秒遅れで本当の意味が追いかけてくるのだから。

 君たちにはこの感覚が分からないだろう。例えるなら「それでいいなら、私はもう何も言わない。君の好きにしていいよ。」という言葉と同時に「私が何を言っても、もう無駄でしょう?」という諦観の滲んだ声として聞こえてくる。これを拾えるのが、普通ではないことを、私は知らなかった。

 そのようなことができる人間は、どうなると思う?

「感情のゴミ溜め」にされるんだよ。私はこうなの。だからあなたもそう思うでしょう?と言った具合に。

他人の、心の奥の声を拾うが故に、私は他人の心は理解できるのに、他人は私のことを理解できない捻れた存在になってしまったのだ。

私は、それならこんな能力要らなかった。他人と同じ視点に立って生きたかった。私は、私として、生きてみたかった。でももうそれは叶わない。私は私である以上、他人の言葉の意図が聞こえてしまうのだから。

 君は、こんな私のことを感情的だと思うか?しかし、それは私が自らの肉を切り裂いて、内臓を見せているからだ。

肉を切り裂く前の私は、「コンピュータのようだ」と言われたことがある。どれだけ内面で感情が汚く渦巻いてたとしても、論理立てて説明することしかできないからだろう。

君達は、感情に呑まれることが人間らしいと思っている。それ故私の感情がどんなに乱れていようと、君達は私の言葉が整ってるのを見て「それほど感情は動いていないだろう」と矮小化するのだ。

それなら問う。なぜ君が、他者の感情を決めつけることができるのだ?私は感情を決めつけてはいない。あくまでその可能性を指摘しているだけだ。

 しかし、君は違う。君が決めつけた感情の動きに、根拠はあるのか?言葉に出てきていない感情は、ないものなのか?なら、君の世界には空気やウイルスなどは存在しないのか?自分が知覚出来ないものをないものとして扱うのは、君たち人間の悪い癖だ。

 ただ、君が感情的だと思ったならば大変光栄だ。人間味を失った私が、最期に抑圧していた感情を表に出すことで人間として死んでいけるのだ。大変な皮肉で結構。私は、感情を殺した故、自分が生きているのか、分からなくなった。だからこそ、自分が生きてることを感じるために死ぬのだ。

論理破綻してるだろうか?でも、もうどうだっていいのだ。私は疲れた。

 さよなら、愚かな諸君。

 私に呪われた君の見える世界が、私が見えていた世界と似たものになる事を願っているよ。

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