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登校

みんなは自分の腕がちぎれ飛んでく瞬間を見たことある?

あの瞬間は何故か覚えてる。

気を失う一瞬のはずだったのに今も鮮明に。

あの日夢は終わったんだ。



私は都内の高校に通う普通の女の子。

大和田日向(おおわだひなた)

好きな食べ物はチョコミント。よりもとかはない。

好きな色は赤。ショートの髪に少しメッシュで入れてみたけど……結構いい感じ!

あと音楽が好き。ジャンルは問わない!

食わず嫌いしない。これ大事!

そうだっ、聞いて聞いて!

最近男子に、大和田日向。温和な人だ。最近わかった、ぽんする人だ。とか言われる。

ほんと、頰吊りあがっちゃうよね?

何そのラップの完成度?

耳腐ったら責任とってくれんの?って感じ。


とまぁ、こんな脳内自己紹介をしているのは、昨日読んだ漫画の影響だろう。

すごい自分語り多かったんだよね。

そう、私は影響受けやすい人。

感受性の化け物。


「ひなー。おはー」

「みくおはー♪」


校舎に向かう長い坂の手前で私は親友のみくと合流した。

いつも坂の前で待ち合わせて登校する。

なんたってこの坂1人で黙々歩いても2、3分ぐらいかかる。

急じゃないけど緩やかに長い。

顎を一発で殴られた方が楽なのに、ボディブローで責めてくるみたいな?

よくわかんないけど!

ま、とにかくじゃあ、楽しく話してゆっくり行こうってことで、私とみくは学校まであと5、6分の距離をわざわざ待ち合わせて一緒に行く契約をしたわけです。


「さぁ、行こうか。この長い旅路を」

「お、おぅ。またなんかに影響されてんなー」

私たちは初夏を感じる日差しの中、足を動かす。

「えへ、分かる?」

「こないだは長い坂の悪魔との戦いが始まる。とか言ってたよね?」

みくがちょっとキメ顔で私の方を見る。

「え、やだ。私そんな顔してた?」

「うん」

我ながら痛い奴。

「ごめん。でも私、感受性の化け物」

「それ何なの?」

「なんかさっき思いついた。よくない?感受性の化け物」

「化け物とか悪魔とか好きだよね?」

「いやいやいや、人を厨二病みたいに言わないでもろて」

「ひなは厨二病じゃなくて単に病気。頭の」

「なんだとー!」

ケラケラ笑いながらみくは小走りになる。

私もそれを追いかける。

「みくっ、ちょ、待って!ゆっくり行こうよ」

「私はこれぐらい余裕だー」

さらにペースを上げるみく。

私は諦めて歩くことにした。

そのまま坂を登り切ったみくはスマホを取り出し、余裕こいてお待ちだ。

どうしよ?ワンチャンUターンして帰る?

そしたらみく降りてくるかな?

そんでパフェとか奢ってほしい。

そんな事を考えつつ、30秒ほど遅れて坂を登り切った。

「遅かったね?」

「最悪。汗かいた!」

「生きてりゃ汗もかくもんさー」

「かかなくてもいい汗と恥はかきたくないの!」

「落ち着きな。余計汗出るよ」

「……はあ。まぁいいや。それより何見てんの?」

「新曲のMV」

そう言ってスマホを私に向けてきた。

「この人新曲出たんだ」

「昨日の夜出た」

「へぇー、聴きながら行こう?」

「ん」

私を待っていたかのように、差し出されたワイヤレスイヤホンの片方を受け取った。

世の中の喧騒を半分ロックが掻き消した。




白いカラスと黒いウサギ


作詞 ごろりん

作曲 ぎゃんちゅう・ごろりん

編曲 悲民放暴走


始まりは君の笑顔

すぐ燃え上がった上がった結果どう?

絵に描いたよう脱兎の如く

君は一踏み込むと三逃げる

名も知らぬ時より開いてる距離

でもごめんね僕は諦めを知らぬ(とり)

だから砂浜をかける感じで

そのまま世界一周でも一緒にしようか


君をいつか空にさらって

逃げられないよう背中にしょって

勝手に君の人生を背負って

もう一周違う視界で世界を回ろうか

今度は君の尻に敷かれながら


僕の恋愛感情君との未来

シュレディンガーの猫のまま

人生を歩む気なんてなかった

本当に逃げられるのは辛くて

パンドラの箱を開けたみたいで

でもたった一つ希望を捉えてみたくて

君の一番近くで息したくて

僕は今も毎日恋してる


怖くて痛くて辛くても

白黒付けに行く君に分からす

晴らす()さギリギリ捕まえた

大丈夫僕らにBitterは無いよ


君といつも永遠(とわ)に笑って

離れないよう肩寄せ合って

勝手に君の幸せ祈って

もう一生(いろ)ある世界を一緒に回ろう、な!

今度も君の尻に敷かれながら




高い男性の声が世界に響かなくなった頃、私とみくは校門を跨いでいた。


「これ良いでしょー?」

「うんいい!もう一回聞こう!とゆーかスマホ貸して!MVきちんと見たい!」

「ああうん。そんなにくらっちゃっうとは」

「うん。感受性の化け物だからくらっちゃうよねー」


私たちはそんなことをケラケラ笑いながら話、自分達の教室へ向かった。

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