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夢の世界

 主人公が自分と同じ名前だからという理由だけで手に取った乙女ゲームだけどなかなか面白かった。今のところ攻略ルートが一つしかないのが残念だけど、今後追加予定らしいから期待しておこう。

 それにしても主人公のサポートとして置かれている友人キャラがとても良かったなあ。攻略対象と幼馴染という設定も魅力的だし、キャラの見た目も好みだからその子のルートの方が見たかった。

 別キャラルートができたら2人がくっつくかもしれないし続報を待たなくては。

「うげ、もう3時じゃん」

 夢中になっていたせいか、寝る時間を大幅に過ぎていたことに気が付かなかった。これは明日に響きそうだ。

 真美は急いでベッドに潜る。今日はいい夢が見られそうだと思いながら。




「真美、いい加減に起きなさい!もう5回目よ!」

 何度起こしたらベッドから出てくるのかと怒ったお母さんの声が聞こえてくる。起きなきゃいけないのはわかってる。でもまだ眠い。昨日夜更かししたせいだとはわかっているけれどもう少し寝かせて欲しい。

「あと5分……」

 お母さんの怒った声から逃げるように寝返りを打ってふ、と気づく。私は一人暮らし10年目だ。毎朝起こしてくれるのは目覚ましであって、お母さんの声なんて聞こえるはずがない。

 なあんだ、夢か。夢だとはいえ、まだ寝れるのに起こされるのは嫌だけど寝坊した夢より気分はいい。昔は目覚ましで起きれなくて何度も起こしてもらったっけ。懐かしいなあ。と思っていると掛け布団を取り上げられた。

「いい加減に起きなさい。高校の入学式に間に合わないでしょう!」

「高校?何年前の話してるのよー」

「なに言ってるの?いい加減にしなさい!」

 起きるまで布団を返してくれなさそうなお母さんの声に仕方なく顔を上げる。するとそこには私のお母さんではなく、昨日やった乙女ゲームの「真美」のお母さんが立っていた。

「え……」

 よほどゲームを気に入ったのだろうか、夢の中までゲームの世界になっている。自分の妄想力って強いんだなと思わず感心する。

 こういうのは夢の世界でもう一回寝れば現実世界に戻れそうなものだ。しかし目の前にいる「お母さん」は二度寝を許してくれそうな雰囲気ではない。

 しかたない。もう少しだけゲームの世界そのものを味わうか。私は目を覚ますために洗面所まで顔を洗いに向かった。




「それにしてもよくできた夢ね」

 顔を洗ってすっきりした真美は朝食をとるためにリビングへ向かう。すると既にお母さんと「お父様」は朝食をとっていた。

「おはよう。今日は入学式だね。新しい環境に緊張してるかもしれないけどよく眠れたかい?」

「はい。お気遣いありがとうございます」

「心配いらないですわ、慎一郎さん。この子、5回起こしても起きなかったんですよ」

「ははは、寝起きが悪いのはキミ譲りだね」

「慎一郎さん!」

 顔を赤くして拗ねているお母さんを優しい瞳で見る「お父様」を暖かい目で見つつ朝食をとる。思春期の娘の前でその雰囲気は気恥ずかしいよと思うが、この2人はある意味新婚であるので目の前でいちゃつかれても仕方ない。

 なぜならこの世界の真美は1年前まで母親と2人で暮らしており、父親とは離れて暮らしていたからだ。

 真美の両親は社長子息とメイドという身分の差がありながら恋に落ち、結婚しようとしていた。しかし二人の仲を知った父親の両親は真美の母に手切れ金を無理やり握らせ、遠くへ追いやってしまったらしい。

 母親は本当はお金を返してでも連絡をとりたかったが、真美を妊娠していることがわかり、真美を守るためにひっそりと暮らしていた。

 そんな母を何年も探し続けた父はついに自分の両親を説得し、2人の居場所を聞き出したという。母を迎えに来た父親は自分に娘がいたことに驚きつつも、真美のことも暖かく迎え入れてくれた。

 そして当時中学3年生だった真美は高校から貴族御用達の学校へ入学することになった。という流れでゲームがスタートする。

「今まで周りにいた子と雰囲気は違うかもしれないけれど、真美ならきっとすぐ慣れるよ」

「はい。皆さんと仲良くできるように頑張ります」

 朝食を終えた真美は、いってきます。と挨拶し車に乗る。車の中で二度寝してしまえば夢の世界は終わるだろう。

 非常によくできた夢だったけれど、見るのであればもっと盛り上がるシーンであってほしかった。

 会社から帰ってきたらもう一周このゲームしよう。真美は現実世界に戻るために目を瞑る。するとすぐに眠気に誘われて深い睡眠に落ちていった。

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