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第6話 侵略的外来令嬢VSお嬢様番付トップランカー(後-01)

 かくしてソフィアたちが連れて来られたのは、お嬢様部の拠点である第七演習場だった。


 しかし、入口に演習場というプレートがついてさえいなければ、ソフィアとゼットはそこを演習場だと認識することはなかっただろう。


 それほどまでに目の前に広がっている光景は、ある意味異質なものだった。


「まあまあ! なんて素敵な庭園なの〜!」


 眼前の光景にソフィアは感激の声を上げる。


 彼女の言葉通り、演習場は美しい庭園の姿をしていた。


 一面に敷き詰められた芝生は同じ長さに切り揃えられ、その緑色を横切るようにアーチタイルの石畳が緩やかな弧を描いて配置されている。


 道の左右にある庭木は、シンプルに切り揃えられているところもあれば、遊び心のある動物の形に整えられているところもある。


 洒落た装飾のある噴水、咲き誇る薔薇の生垣、ささやかな小川と池。そして石畳の終着点には、石造りのガゼボが優雅に建っていた。


 ソフィアによる素直な賛辞を受け取り、ミニアは誇らしげに胸を張る。


「オーッホッホッホ! そうでしょうそうでしょう! 当然よ! 何しろここはお嬢様部がお嬢様バトルを行うために、手塩にかけて整備している神聖なバトルフィールドですもの!」


「あらあらまあまあ」


 そんな彼女にソフィアはくすくすと微笑ましいものを見る目を向けたが、すぐに本題を思い出して質問を口にした。


「ミニアさん。わたくし、お嬢様バトルというものが何なのか知らないのだけど、どんな内容なのか教えてくださらない? やっぱり淑女らしくステゴロのタイマンなのかしら?」


「そんなわけないでしょう!? 淑女とステゴロタイマンに何の関係がありますの!?」


「ええ? わたくしの故郷ではそういうものだったけれど……こちらの国では違うのね。ごめんなさい」


 困った様子で謝罪するソフィアに、ミニアは悔しそうに闘志を燃やす。


「くっ、自分の非を素直に認める人徳の高さ……。一朝一夕で身につけられるものではないわね。ますます気に入りましたわ!」


「よくわからないけれど……ミニアさんのような素敵な方に褒められて嬉しいわ〜!」


「うぐぐ……っ」


 本当に嬉しそうに言うソフィアに見下ろされ、ミニアは喉の奥から歓喜の感情が込み上げてくるのを、己のプライドを総動員してなんとか飲み下した。


 目の前にいるのが圧倒的上位存在だと本能で察していても、屈服するという選択肢はミニアには存在しない。


 ミニアは己を奮い立たせて背筋を伸ばすと、ソフィアの目を見上げる形で見つめ返した。


「……なぜわたくしをそこまで高く買っているかは知りませんけれど、そんな言葉では籠絡されませんことよ!」


「あら、本心からなのに……。だってミニアさんのように、わたくしに正面から立ち向かってくださった女性は初めてだもの」


 ソフィアはそう言うと、ふわりと柔らかく目を細めて微笑んだ。


 その笑みに秘められた孤独と苦悩、そして今こうして会話している奇跡への喜びをミニアは繊細に感じ取り、茶化すこともできずに押し黙る。


 ソフィアは目を一度伏せた後、不安そうな顔でおずおずとミニアに問いかけた。


「ねぇ、ミニアさんはどうしてわたくしを恐れなかったの? 悲しいけれど、わたくしは生まれながら恐れられる存在だという自覚はあるし、この学園でも悪い噂がたくさん立っているわ。そんなわたくしを排除するでもなく、堂々と歩み寄ってくれるなんて、本当のところを言うと、不思議で、少し怖い気持ちもあって……」


 話しながら、ソフィアの声はだんだん小さくなっていった。


 こんなことを聞いてよかったのか。聞くべきではなかったのではないか。


 まるで夜の闇を怖がる子どものような幼い臆病さを滲ませるソフィアに、ミニアはすぱっと即答した。


「ふん、そんなの決まってるじゃない」


 ミニアはソフィアの目の前に仁王立ちになると、その小柄な体躯からは考えられないほど、気高く堂々とした立ち姿でソフィアに宣言した。


「わたくしはお嬢様の中のお嬢様! ミニア・オジョスニアだからよ! お嬢様は立場と矜持のために気高く全力で生きる生き物。ならば、誰が言い出したかもわからない噂話などに振り回されるのは愚の骨頂ではなくて?」


 スラスラと問いかけるミニアに、ソフィアは無防備な表情できょとんと目を丸くする。ミニアはやけにニヒルに、ふんっと鼻を鳴らしてみせた。


「わたくしは、貴女の正体や噂の真相はどうでもいいのよ。わたくしにとって目の前にいる貴女は、わたくしの最高のライバルになれるかもしれない、『実力のあるお嬢様としてのソフィア』でしかないのだもの!」


 腰に手を当ててソフィアをまっすぐに指差し、ミニアは朗々と宣言する。


 彼女の声は演習場に大きく響き渡り、ざあっと吹き抜けていく風にその余韻がさらわれていく。


 ソフィアは声の反響が消え去っていくのを呆然と聞き届けた後、口元に手を当てて目を潤ませた。


「まあ……まあまあ! なんて熱烈な宣戦布告なのかしら! わたくし、危うく恋に落ちてしまいそうでしたわ〜!」


 ソフィアの傍に控えていたゼットが、ギョッとした目を彼女に向ける。しかしソフィアはその視線に気づかず、顔を覆って照れるばかりだ。


 一方のミニアは、そこまでの反応をされるとは思っていなかったのか、照れてしまいそうになるのを誤魔化しながら、不敵な笑みをソフィアに向けた。


「ふん、感激している場合かしら? 今から貴女は、わたくしにお嬢様バトルで負かされますのに」


「ふふふ、負けませんわよ。わたくしも、あなたと絶対にお友達になりたいもの」


 互いに異なるオーラを背後に背負い、ソフィアとミニアは積年の好敵手のように睨み合う。もしこの光景を絵画に起こすのであれば、彼女たちの後ろには威嚇し合う猛獣が描かれることだろう。


 その時になってようやくやってきたお嬢様部の部員たちは、彼女たちの纏うお嬢様力を察知して感嘆の声を上げた。


「まあ、ミニア様が……!」


「お相手の方も、なんて練度なの……!」


「これは激しい戦いになるわね……!」


 よく分からない理屈で盛り上がる淑女たちに囲まれて、唯一の男性であるゼットは困惑していた。


 全然ついていけない。居心地が悪い。だが、邪魔をするのも違うから見守るしかない。


 そのままどうするべきかと迷った後、ゼットはコソコソと演習場の隅へと逃げていった。


 これから始まるのは女の戦い。男が口を挟む権利はそもそもないのだ。


「さあ、部員の皆さま! ルールボードをお持ちになって!」


「はい、ミニア様!」


 ミニアの号令に従い、部員たち数名が一緒になって、ルールが書かれた小さな黒板を引きずってきた。

ちょっと長くなりそうだったので後編を2つにわけます。

明日か明後日続きが上がります。

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