第16話 侵略的外来令嬢VS道楽王子(03)
正面から勝負を申し込まれたソフィアは、一瞬面食らった後、すぐに覚悟を決めた顔で頷いた。
「……分かりましたわ。道理は通っていますもの。その勝負、お受けいたします」
「っ、ソフィア様……」
ソフィアを守れなかった悔しさで、ゼットは唇を噛む。ヒューベルはそんな彼に見向きもせず、満面の笑みを浮かべた。
「ああ、ありがとう! では、早速、勝負に相応しい場に移動しようか!」
ヒューベルは右手を持ち上げると、パチンッと指を鳴らす。すると、周囲の景色が変わり、一瞬でソフィアとゼットは学園の演習場へと移動していた。
「よし、ここなら派手に暴れてもけが人は出ないだろう。そこの君、今からここで勝負を行うが問題ないかな?」
「えっ、ま、まさか王子殿下!? も、もちろんです! 今すぐ出ていきます!」
元から演習場にいた学生たちをヒューベルは笑顔で追い出す。ゼットは静かな怒りを目に宿して、そんな彼をにらみつけた。
「お言葉ですが殿下。ソフィア様に乱暴な真似をされるようであれば、この勝負を認めるわけにはいきません」
「おや、ソフィア嬢は度々、他の生徒と決闘をしていると聞いたが? それに、従者風情が、主の意思に背くのかい? 勝負を受けると決めたのはソフィア嬢だぞ?」
「俺は、それがソフィア様にとって害となるものであれば、たとえソフィア様のご意思を無視することになっても阻止しますよ。何があってもソフィア様を絶対に守るのが、俺の役目ですから」
「ふーん、強情だなぁ。ま、それだけ私の実力を買ってくれていると受け取っておくよ。怪我をさせるかもしれないと思う程度には私が強いと評価してくれているんだろう? お互い知らない相手でもないわけだし、素直に喜んでおこうかな?」
飄々と言うヒューベルに、ゼットは静かに深呼吸をした後、平静を装って尋ね返した。
「何のことでしょう。俺は、ソフィア様の付き人のゼットですが」
「はは、そうだったな。すまないすまない。どうやら人違いをしたようだ」
わざとらしく声を上げて笑うヒューベルと、明らかに彼を敵視した眼差しを向けるゼット。そんな二人をソフィアは見比べた後、緊迫した視線を交わし合う二人の間を遮るようにヒューベルの前に立ち塞がった。
「ヒューベル殿下、それ以上わたくしのゼットをいじめるようであれば、わたくし、手加減ができなくなるかもしれませんわよ」
むっと顔をしかめながらのソフィアの言葉に、ヒューベルはころりと表情を道化のように変えて彼女から距離を取った。
「おっと、失礼失礼。少し軽口が過ぎたな。謝罪するよ」
手を胸の前に当ててヒューベルは深々と一礼する。そして顔を上げると、彼は爽やかかつ胡散臭い笑顔を浮かべた。
「それにゼットくんの心配はただの杞憂だよ。なぜなら、私が申し込む勝負は、貴族本人が戦うものではないのだからね」
「……本人が戦うものではない? どういうことですの?」
警戒を滲ませながらソフィアは尋ねる。すると、ヒューベルは口の前で両手の人差し指を交差させてバツ印を作った。
「互いに己の代行者を立て、代わりに戦わせて勝敗を決める。それが王国法に定められた、高位貴族としての正式な決闘の作法だよ」
「まあ、そうなのね。でもなぜ代行者を? 直接戦ったほうが手っ取り早いし確実なのに。だって代行者が戦っても、その方の実力ではないでしょう?」
頬に手を当てて本当に不思議そうに呟くソフィアに、ヒューベルは作り笑いめいた表情で声を上げて笑った。
「ははは、我らが王国民は君たちの母国の民よりも柔な作りをしていてね。騎士階級や下位貴族の次男坊以下であれば直接戦うことも多いが、それ以上ともなると安易に命は賭けられないんだよ。だから代行者を立てて、代わりに戦ってもらうというわけさ。お分かりいただけたかな?」
暗に母国の民を野蛮人だと貶すような発言をされ、遠くで聞いていたゼットは視線をさらに鋭くする。一方、ソフィアは、ほのぼのとした表情で言い放った。
「あらあら、そうだったのね。わたくしの母国で代行者に戦わせるだなんて軟弱なことをしたら、腰抜け者の誹りを免れないから驚いてしまったわ~」
「こ、腰抜け……」
思わぬ強さで皮肉を返され、ヒューベルは頬を引きつらせる。だが、彼はその挑発に乗ることはなく、いつの間にか影のように後ろに控えていた青年を腕で示した。
「ごほん。私は代行者として、従者のアレクを選出しよう。ソフィア嬢はどうする?」
ソフィアはゼットに振り向くと、信頼の籠もった目で彼に尋ねた。
「ゼット、行ってくれるかしら」
「勿論です。あの無礼な男に身の程を思い知らせてやりますよ」
当然、ゼットはうなずき、明らかに私怨が混じった物言いで勝利をソフィアに誓う。そんなゼットを見て、ソフィアはふわりと破顔した。
「まあまあまあ、ゼットが血気盛んだとわたくしも嬉しいわ~。この勝負に勝ったら、思いっきりいいこいいこしてあげますからね~!」
「……首が取れてしまうので、ほどほどでお願いします」
勝負の後に迫る命の危機に冷や汗をかきながら、ゼットは引きつった笑みを浮かべる。
そんな相思相愛を見せつけるようなやりとりを一切気にせず、ヒューベルは宣言した。
「決まりだな。じゃあさっそく始めようか」




