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第15話 侵略的外来令嬢VS道楽王子(02)

「ソフィア様、ぜひわたくしと!」


「いや、ここは俺と!」


「間を取って僕と一緒に!」


「まあまあまあ~、ごめんなさい急いでるのよ~!」


 休み時間に殺到してくるつがい希望者たちを、ほとんどタックルのようになぎ倒しながらソフィアは逃げ回る。その後ろにはゼットがつかず離れずおともしており、追撃しようとするガッツのある希望者たちを千切っては投げ、千切っては投げ、対処している。


 そんな騒ぎを遠くで見ながら、アステルとミニアは学食からテイクアウトしたドライフルーツをシェアしていた。


「はぇー、ソフィア様大変そうですねぇ」


「去年のこの時期はまだ、ソフィアの信奉者も少なかったからマシだったみたいだけど、この一年間で増えに増えてしまったものね。同情はするけれど、わたくしたちが助けに入ってもむしろ邪魔になるだけですわ」


「いや、ミニア先輩の実力ならあの程度蹴散らせる気もするんですが……」


「ふふん、それはわたくしを買いかぶりすぎというものよ? 褒め言葉として悪い気はしないけれどね?」


 ミニアは嬉しそうに言いながら、清潔なハンカチの上に置いたドライフルーツを一つつまむ。二人はすっかり観戦モードに入っていた。


 そうしているうちにソフィアはつがい希望者たちによって、壁際に追い詰められていた。


「ソフィア様、ぜひ!」


「何でもしますから、一夏の思い出をください!」


「お願いします!」


「うぅ……どうすればいいのかしら……」


 ソフィアはすっかり包囲され、おろおろと困り果てていた。


 それまで手段を問わずソフィアを守っていたゼットは、少し離れた位置で足止めされている。


「ソフィア様……! このっ、あなた方、腰にしがみつくのをお止めください! 貴族としてのプライドはないんですか!」


「ソフィア様の隣を歩けるのなら、そんなことどうでもいいっ!」


「そうよそうよ! わたくしたちの底力見せてあげるんだから!」


「こんなことで団結しないでください! いつもは貴族としての学内政治に励んでるくせに!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるゼットの声を聞きながら、ソフィアは悩み始める。


 後ろの壁を破壊すれば、この場から逃げること自体は可能だ。軽く叩くだけで、あっさりと壁は壊れることだろう。だが、そんなことをすれば間違いなくお叱りを受けてしまう。


「むぅ、ヒトのルールに従うってどうしてこんなにもどかしいのかしら~……」


 頬に手を当てて憂鬱そうに息を吐くソフィアは、まるで宗教画のように神々しいオーラを放っていた。それに目を焼かれた希望者たちは、一様に目を押さえる。


「ぐわあああ……!」


「なんて眩しいの……!」


 悶え苦しむ学生たちを見て、ゼットは自分にへばりついていた連中を投げ捨てると、ソフィアに向かって声を張り上げた。


「ソフィア様、今の隙に!」


「ええ、皆様ごめんなさいね~!」


 ソフィアは攻城兵器のごとき勢いで、周囲を取り囲む人々を押しのけて逃げ出そうとする。


 しかしその時、ポンッと音を立てて、煌びやかな馬車が彼女の目の前に突然現れた。


 何の前触れもないその馬車の出現に、遠くで事態で見守っていたミニアが声を上げる。


「く、空間転移魔法ですって!?」


 驚愕の表情を浮かべて立ち上がるミニアに、アステルはドライフルーツを口に運ぼうとした姿勢のままきょとんと尋ねる。


「え? あれってそんなにすごい魔法なんですか?」


「おばかさん! すごいなんて話じゃないわよ! 空間転移魔法は王国内でも使い手が少ない、超高難易度魔法なの! その上、馬車だなんて大きな質量を転移させるだなんて……いえ、そんなことよりあの馬車の紋章は!」


 ミニアがその馬車の正体に気付いたのとほぼ同時に、馬車の戸が音もなく開き、優雅な足取りで一人の貴公子が降りてきた。


 彼が身に纏っているのは豪奢だが嫌味を感じさせない洒落た服装。


 透き通るほど艶やかな金髪は襟足だけが長く伸ばされ、立ち姿は優美に洗練されている。身長は高めだが筋肉は最低限しかついておらず、よく言えば貴族らしい、悪く言えばなよっとした印象を受ける人物だ。


 彼は優しい目元で微笑みながらソフィアに歩み寄ると、優雅に一礼した。


「ごきげんよう、麗しのソフィア嬢。噂の貴女とお会いできて光栄だよ。聞いていた通り、まばゆいほどに美しい……」


 うっとりとした眼差しで見つめられ、ソフィアは困惑で眉を下げて首をかしげる。


「ええっと……あなたはどなたかしら? お名前を伺ってもよろしくて?」


「おっとこれは失礼した。私はヒューベル・エル・リブラフルール。この国の第一王子だよ。もっとも、王位継承権は一位じゃないがね?」


 イタズラっぽく自虐を交えながら、その貴公子――ヒューベルはウインクをする。そのあまりに手慣れた所作に、周囲にいた女生徒たちがぽーっと頬を紅潮させた。


 彼の正体を知ったソフィアは、驚いて目をぱちくりさせた後、スカートをつまんで頭を下げた。


「まあ、王子殿下でしたのね。非礼をお詫びいたしますわ」


「いや、いいんだよ。突然やってきた私にも非があるからね。君に直接会って頼みたいことがあったんだ」


「頼みたいこと?」


 きょとんとするソフィアの手を、ヒューベルは流れるような動きでそっと握って、真剣な眼差しで告げた。


「ソフィア嬢。突然だが、私と一緒に『双竜祭』を回ってもらえないかな?」


「え?」


 突然すぎる話に、ソフィアはヒューベルに手を握られたまま硬直する。


 一方、周囲を取り囲んでいた人々はその申し出を聞いて、ひそひそと話し始めた。


「まあ、美男美女でお似合いの二人ですわ」


「くっ、流石に俺よりもソフィア様にふさわしいか……」


「王子殿下からのお誘いだなんて羨ましい~」


 肯定的な意見が広がっていくのを聞き、ゼットは慌ててヒューベルの近くに歩み寄ると、深く頭を下げながら進言した。


「恐れながら王子殿下。ソフィア様は他国の重鎮のご令嬢です。王子殿下がそのようなお誘いをしては、政治に関わります」


「おや、国政のことを引き合いに出して邪魔しようとするとは。せめて自分の本心の言葉じゃなければ、身を引きたくないなぁ?」


 ヒューベルはまるでゼットのことを以前から知っているかのように、軽口めいた言い方で彼を牽制する。


 ゼットはその挑発には応えず、静かにヒューベルをにらみつけた。


 意味深に視線は交錯し、無言の駆け引きが行われること数秒間。ヒューベルはふっと目を細めると、芝居がかった言い方でゼットに尋ねた。


「だがそうだな……ブレイブ王国には、求婚の作法があるんだったね。たしか……相手を負かさなければ、求婚をしてはいけない、というものだったね?」


「ええそうですが、それが?」


「私もその作法に従おうと言っているんだよ。今は名も無き従者くん?」


 ぱちんっとウインクを飛ばされ、ゼットはこの上なく嫌そうに顔をしかめる。ヒューベルはその非礼を咎めることなく、わざとらしく言った。


「形式だけとはいえ、つがいになることを求めるのなら、それは求婚と同義だろう。だとすれば、私がソフィア嬢に勝つことができたら、私がソフィア嬢を誘うことに対して、ブレイブ王国の人間として文句は言えないんじゃないかな?」


 意地悪な言い方で屁理屈をこねられ、ゼットは答えることができずに押し黙る。ヒューベルはそんなゼットを鼻で笑うと、ソフィアに向き直った。


「ソフィア嬢、私と勝負しようじゃないか。ただし、勝負の内容は我が国の作法に則ってもらうがね」

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