第74話 許されへん
「貴方様の、わがまま?」
「はい。今回のこと、僕とインフの二人に任せていただけないでしょうか?」
頭をさすって悶絶しているポンさんが、ガバリと振り返り、「なに言っとんじゃワレ!?」と僕を恫喝する。また面倒くさいことを言い出したと面食らったその目は馬鹿みたいに充血しており、今にも飛び出さんくらいに「まぁるく」なっていた。
「あかん。おのれと彼奴の二人だけは絶対に許さへんで!」
「大丈夫だよ、僕だっていつもいつもそんな無茶しないから。インフ、僕も一緒に行くけどいい?」
「主様が一緒に。……それは」
「ダメ、かな?」
「い、いえ、滅相もございません!」
ダメだアカンと繰り返すポンさんのおでこを押さえたまま、「よろしいですか」と村長に尋ねる。
竜族様が良いのであればと半ば強引に許可を取った僕は、インフと共にスカイドラゴンの住処へ赴くを勝手に決めてしまった。
「なに考えてんねん。コイツと二人でドラゴンの巣に突っ込むて、そんなん無謀にもほどがあるやろ。死ぬで!?」
怒りと心配でいっぱいいっぱいなポンさんは、手足をこれでもかと大きく振り回しながら僕のスネを叩いた。しかしこればかりは、僕にも譲るわけにいかない理由がある。
インフの正体については、カルラはおろか、ポンさんにすらまだ伝えていない。
その正体が真竜国のトップ、神竜インフェ・グレーゴル・ドルード12世なんていえば、きっと卒倒して怯えてしまうに決まってる。彼らのことだから、ますます心配のタネを増やしてしまうことになるだろう。
無駄な心配事を増やす必要はない。
それは以前に、ポンさん自身が言っていたことだ。
インフに関しても、彼女は今、自分の背負っている現状を全てを放りだし、僕の隣にいる。それがどんな事態なのか、どうやら僕にも少しずつわかってきた。
この事実が外に知れるのは色々とマズい。
だからこそ、僕とインフ以外を連れて行くことは絶対にできない。
もう話は済んだのかとカルラが姿を現し、村長が事情を掻い摘んで説明した。
しかし彼女がそれを了承するはずもなく……
「それを黙って認めろと? できるはずがあるまい、これは我らエルフの民と奴らの争いなのをお忘れですか!?」
「今回ばかりは俺も嬢ちゃんの側や。ウタ、さすがに毎度毎度勝手がすぎるで」
ポンさんも一緒になってカルラを援護する。二人に煽られて集まった村人までもが彼らの側につき、このままでは僕らの間でも諍いが生じかねない事態に発展し始めている。だけど、こればかりは譲れないんだ。
「……インフ、みんなを動けないように拘束できる?」
ポツリと囁いた僕の言葉に気付き、ポンさんが「おのれら散れ!」と叫んだ。しかし瞬時に行動に移したインフの捕縛の糸に絡まれ、全員が一斉に動きを封じられた。
「う、ウタ、おのれどないなつもりや。こんなん許されへんで!?」
「ごめんよ、ポンさん。今回ばかりは引けないんだ。少しだけここで待ってて。お願いだから……」
「待つんや!」と手を伸ばすポンさんたちを残し、僕とインフはエルフの洞窟を出た。そして村長に教えられた東の平原を越え、その先にそびえる岩窟山を目指して飛んだ。
久しくドラゴンの姿に戻ったインフの背中に乗った僕は、ゴリゴリ身体を鳴らし疲れた様子をみせる彼女の耳元に顔を寄せて話しかけた。
「ごめんねインフ、無理を言って」
「いえ。しかしよろしかったのですか、奴らを捕縛したままにして」
「うん……。本当のことをみんなに教えることは避けたいし。インフにも迷惑かけちゃうから」
「わらわのことなど……。して主様、この度のこと、わらわに一任いただけるのですか?」
「うん、でも一つだけ約束して。暴力に訴えることだけは絶対にしないこと。力で屈服させることだけはやめてほしいんだ」
「それは……」
「お願い。今この状況で、大きな問題に発展させることだけは避けた方がいいと思うんだ」
同族の問題であるためと、どうにか不承してくれたインフは、前方に見えてきた岩窟山よりさらに上空へと旋回し、そのまま真上から突入を試みる。しかし予期していたのか、複数のワイバーンが僕らを迎え撃つため岩場から飛び立ち、真っ直ぐに突進してきた。
「インフ、可能なら全部躱して山場へ近付いて!」
「容易いことです」と頷いたインフは、ワイバーンほどに身体のサイズを縮めてから、その隙間を縫うように、一瞬にして彼らの影を振り切った。僕は落とされないよう彼女の首にしがみついたまま、どうにかワイバーンの包囲網を掻い潜った。
スピードの違いで一気に引き剥がしたインフは、その勢いのままターゲットの待つ山の頂上を見下ろした。どうやら火口であるマグマ溜まりのほとりに巣を作っているらしく、「あそこだな」と呟いたインフが直滑降を開始する。
酷い熱に包まれた一帯はワイバーンすら近付けぬほどの暑さで、僕も慌てて魔力防御低下を自分にかけ、『大落下』を発動させた。そうでもしないと溶けてしまうほどの熱に煽られながら、僕らはそこに待つ、この山の主の元へと急いだ。
全てを溶かすほど熱された真紅のマグマが煮え立つ様は恐ろしく、僕は思わず固唾を呑んだ。何事もなくここに立っている自分の異常さも相まって、あまりの非現実さに笑いさえ込み上げてくる。しかしそんな僕の気持ちと裏腹に、マグマの泉に身を委ねし者の視線は、刻一刻と鋭さを増していた。
『よもや、これほどの存在が私の前に現れようとは。どうだろう、念の為、名をお聞かせいただけぬだろうか?』




