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第5話 1000%死ぬじゃんか!



 力感なく立ち尽くす僕の前で大口を開き、彼女は笑いながら黒いモヤを溜めた。しかし目を瞑ったままその時を待っている僕の微動だにしない様子に、おかしな感覚にでも襲われたのか、彼女が話しかけてきた。



「そ、そのように油断を誘い、突然反撃の狼煙(のろし)をあげる。知っているぞ人の子、キサマら種族は、太古の昔よりそうして他種族を(だま)してきた。その手にはのらぬぞ!」


「そんなことしないよ。する方法もないし、僕はどんくさいからね」



 鼻息だけで飛ばされそうな僕を見つめる彼女は、なぜか攻撃するのを躊躇(ちゅうちょ)しているようだった。

 攻撃する準備は万全で口を開けたままいたが、しばらくするとグッと閉じてしまった。



「なんなのだキサマ。本当にやられるつもりなのか、あれだけの力を誇りながら!?」


「僕には力なんてないよ。ただ運が悪いだけの、どこにでもいる人間だもん」


「我を打ち倒しておいてどこにでも? どこまでも図々しい奴め。……ふん、ならば良かろう。キサマの本性を暴いてくれる」



 鼻息でフンッと嵐のような突風を起こした。耐えきれず飛ばされた僕を空中でキャッチした彼女は、首の裏の長い毛で僕の身体を掴むなり、恐ろしい速度で急上昇していく。



「や、や、や、やめッ!?」


「ヌハハハハ、キサマが口だけの存在であることを、これからとくと味わうがいい。自らの力を自覚し、如何に馬鹿らしい妄言だったかを思い出させてやるぞ」



 雲を突き抜け、生き物が存在しない領域まで飛び抜けた彼女は、高笑いのまま高速移動を開始する。

 今にも振り落とされそうなのに、百の腕で掴まれたように固定された僕の身体は、横に縦にと激しく振られ、上下左右に揺さぶられる。



「やめ……て……、で、出そう!?」


「ハハハハ、この程度で死にはしない。そして思い知れ、キサマの本性をな!」



 目的地らしき場所の上空でピタリと静止した彼女は、禍々しい黒い力をまとい、眼下を見下ろした。するとあれほど周囲を覆い隠していた分厚い雲が一斉に離散し、遠く地表が姿を現した。

 ずっと光なくあれだけ薄暗かったはずの景色に、煌々と明かりが灯っている。どうやら街が存在しているのか、建物のようなものが密集し、生き物の営みが感じとれた。



「ククク、奴ら慌てておるぞ。当然か、わらわが突然上空に現れたのだからな。しかしそこではないぞ、カーズルインの愚民ども。キサマらを滅ぼすのは、この者の一撃よ!」



 彼女の言葉と同時に、街全体の光が増し始めた。そして今度は彼女の魔力に似た、恐ろしいほどの闇が街全体を包んでいく。

 不敵に微笑む彼女をよそに、どうやら僕らをターゲットと見定め、街からの怒号なのか、それとも叫びなのか、異様なほどの唸りが吹き上がった。



「な、何が起こってるの……!?」


「準備しろ。くるぞ、奴らお得意の集中砲火だ!」



 彼女が喋り終わる前に、放たれた黒い光のスジが僕らの真横を通過していった。超スピードの闇の槍が街中から撃ち放たれ、僕は迫りくる恐怖に耐えきれず、無意識に悲鳴を上げていた。



「ハハハッ! ハナからトバしているではないか。それも当然か、わらわを相手にするつもりなのだからな。しかし――」



 不意に伸ばした彼女の指先が、背中で震えている僕のシャツを摘んだ。伸びた服ごと持ち上げられた僕は、「やめて、やめてよ!」と抵抗するが、強大すぎる彼女の力に逆らえるわけもない。



「時間だ。キサマの力、とくと見せてもらおうか」


「ち、力って、僕に、そんなのはッ!」



 微笑んだ彼女の指先が、パッと離れる。掴んでいた爪が外れ、空中に放り出された僕は、何か掴もうと必死に手を伸ばした。

 その甲斐なく、彼女の姿は秒ごとに離れ、もう届くはずもない場所へ消えていく。



「う、そ、でしょ……?」



 言葉にすれば、再びの自由落下。

 何すんだと叫んでみるが、地面に背を向け流星化した僕は、三度(みたび)落下の憂き目にあっている。

 しかも、今度は地上からの攻撃付きである。恐ろしい速度で迫りくる黒槍の束が、逃げも隠れもできない僕に向かって大量に飛んでくるのだから――



「や、や、や、やめてー!!」



 街中から放たれた、何千、何万という攻撃が、僕を亡き者にするため、超スピードで迫りくる。


 1000%死ぬじゃんか!

 重力に逆らえず、飛ぶこともできず、避ける方法すらないのに、眼下には飲み込まれそうな漆黒の闇。


 嗚咽どころではない心の叫びを発した直後、一直線に飛んできた一陣の(ほこ)が、僕の(ひたい)に直撃した。頭を打たれ、事故でむち打ちにあったかのように空中で後転した僕は、その瞬間気を失い、記憶が飛んだ。



 しかし薄れていく意識の端で、高笑いしている彼女の声が、確かに僕の耳に届いていた――





 燃やせ

 全て燃やし尽くせ


 キサマらが差し向けてきた化物の手で

 全て燃え果てろ



 フ、フハハハハ

 アハハハハ

 アハハハハハハハハハハ




――――――――

――――――

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