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第3話 ドラゴンが女の子



 こない…………

 こないのよ、衝撃が!



 落下する感覚は続いているし、音もずっと聞こえない。


 なのに衝撃だけがまるでこない!

 と思ったら、頭の中でまた誰かの声が。



 我ガ炎ヲ掻キ消スカ

 生意気ナ、ナラバ存在ゴト消シ炭ニシテクレル



 風切音を消し飛ばすほどの衝撃波が発され、風圧で身体がグンと浮き上がる。

 ジェットコースターで胃が浮くような感覚に陥り気分が悪くなったうえ、目を瞑ったまま激しく回転させられた僕は、今にも吐き出しそうな口を抑えて悶絶する。


 どうして僕だけこんな目に……!



 コレヲ弾クダト?

 ドウイウコトダ



 嫌な声が頭で響くたび、大気の流れに飲み込まれ、三半規管がグワングワン乱高下する。もう殺してくれと叫びたくなるほどの揺れのせいで、もう前後左右もわからないよ!



 良イダロウ

 見セテヤル、完全ナル死トイウモノヲ



 何かに動揺しているのか、どこか揺らぎがある声色とともに、僕の身体はさらに激しく掻き乱された。


 嗚咽に次ぐ嗚咽。

 白目状態でグロッキーな僕の意識は、とっくに臨界点を突破し、明後日の方角へ飛んでいた。



 消エ失セロ

 緋滅(バミリオン)咆哮(エリミネートフレイム)!!



 もはや全ての音が割れてしまったような耳が破裂するほどの圧力に包まれ、僕の心は世界と乖離し、静かな静かな明後日の世界を漂っている気分だった。

 もはやどれが現実かもわからなくなり、壊れたオモチャのように錐揉み回転していた僕が最後に聞いたのは、嘆きにも似た言葉でした。




 バ、馬鹿ナ、ナゼ弾カレル


 ヤメロ、近付クナ、マ、待テ!

 キサマハ 何者ダ ――




――――――――

――――――

――――

――




「……ん、うん、いでで、なんだこれ」



 強烈に痛む頭をさする。

 細かな石や砂ぼこりがポロポロ落ち、全身汚れて土まみれ。

 僕はぼやけた目をこすり、頭を振って身体を起こす。


 薄暗くてよく見えないけど、どうやら何もない、ただただ本当に何もない荒れ地の真ん中で目を覚ました、……らしい。


 周囲360度、まっっさらな更地。

 木の一本もあれば目につくだろうけど、それすらない。延々と続く荒れ地の真ん中に、僕は寝ていた。



「いてて、まったくどうなってるんだよ、これ」



 川に落ちて以降の曖昧な記憶を辿ってみるが、やっぱりハッキリしない。

 まるで脳が自分自身でフタをしたかのように、ここへ至るまでのことを隠してしまったかのように……


 空は曇天。

 むしろどちらかと言えば闇。

 分厚すぎる雲が全てを遮り、時折遠くで轟く雷鳴が地上を照らし、不気味な辺りの雰囲気を際立たせている。


 砂まみれになった服を払い、固まった身体をほぐす。不思議と怪我なく動く身体は、記憶すらないこの場所でも、何事もなく立ち竦んでいた。



「溺れて流されたはずなのに川すらない荒れ地に立っている僕……。イミフすぎてどうすればいいんだろう」



 おーいと誰か呼んでみる。

 もちろん返事はない。

 それどころか生き物の気配すらない闇の世界は、生気を全てどこかに捨ててきたかのように不気味だ。僕は鳥肌だらけの身体を温めるようにくしゃみした。



「ダメだ、一個も頭が働かない。しかしそれにしても酷い土地だなぁ。草の根一本生えてないよ」



 そんな僕の独り言に、突然誰かが返答した。直接脳に突き刺さったその声は、酷く不快で、僕は思わず耳をふさいだ。



 よく言ったものだ。

 キサマ自身で破壊し尽くしたくせに――



 周囲を見る。

 ハッキリ聞こえたはずなのに、やっぱり誰もいない。

 しかしその直後、ドゴンと音を鳴らして目の前の地面が激しく盛り上がった。そして硬い地表を突き破り、僕の20倍はありそうな巨大黒竜が姿を現した。



「くぁwせdrftgyふじこlp!?」



 突然現れた黒竜に驚いて言葉も出ない。

 日頃から油断せず動けるように意識してきたのに、これが蛇に睨まれた蛙かと笑ってしまうほど動けない。



「奴らの選んだ最終手段が、事もあろうにヒュムの力とは……。想像もしなかった」



 腹の奥に響く低く淡々とした声で語りかける黒竜は、朦朧(もうろう)と頭を揺らしながら、半眼で僕を見下ろしていた。



「褒めてつかわす。我を打ち倒した事実、しかと受け止めるがよい」



 そこまで言い終えると、黒龍は張っていた糸が切れたかのように意識を失い、倒れかかってきた。悲鳴を上げながら逃げた僕は、どうにか潰されず難を逃れた。



「どどど、ドラゴン、だ……、はぁ?」



 気を失っている黒龍の(うろこ)をつついてみる。尋常じゃなく硬い。


 とてもじゃないけど現実とは思えない。


 川に落ちたはずが、なぜか空。

 かと思えば、落下にドラゴン。

 もう意味がわからない。

 などと愚察していると、倒れているドラゴンが、シュルシュルと縮んでいくではありませんか!



「ん……、んんん……? ハッ!? ははは!!?」



 ドラゴンはそのままどんどん縮み、かと思ったら、そのまま小さな黒髪ショートの女の子になってしまった。


 しかも姿は裸で、衣服の一つもありません。



「な、なんでドラゴンが女の子にッ!? なんですかこれ!? もう次から次になんなのーッ!?」




――――――――

――――――

――――

――



【※注釈】

以降ページにて、『竜』と『龍』の字が混在することがありますが、

全て竜ということでお願いします。そのうち修正致します。

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