星空
太陽がギラギラと照らし、雲一つない空。澄み渡った空気がとてもおいしい。
僕、海は一颯と一緒にキャンプに来ている。理由は、絶景と言われているペルセウス座流星群を見たくなったからだ。月の光と星の光が照らしあう。空を明るく埋め尽くしていく素敵な夜。少し遅い花火といっても過言ではないと思う。
僕と一颯は高校で同じ写真部に所属している。ちなみに、僕が部長で一颯が副部長だ。と言っても、部員はなんとたったの3人。僕たち3年生2人と新しく入ってきた1年生で活動している。活動している、といっても部活の日に部室に集まるのは週に一回くらいだ。みんな自分の好きな写真を部活動の時間に撮りに行くからだ。僕は主に人物像などを撮っている。写真部と聞いただけで暇そうに思われがちだが、実際はそうではない。結構大変なんだよね。
それでこそ、最近だと先週の月曜日は男子バスケットボール部の活動写真。火曜日は吹奏楽部の活動写真。木曜日はコーラス部の活動写真。金曜日は部室に集まるといった感じだ。なんで、活動写真をそんなに撮っているかって?なぜなら、僕たち写真部は実は生徒会の広報の役も務めているからだ。そのため、学校内の様子などを頻繁に撮ることが多い。
撮ることだけが本業に思われがちだが、本当はもっと複雑だ。まず、写真を撮ってから記事を書くまでの流れを説明しよう。最初に、生徒会の生徒会長や、生徒会担当の先生から文面で依頼をもらう。
次に、依頼をされたらその内容に合わせてどのように記事を作るのか部内で話し合う。と言っても3人だけで、後の2人は写真を撮ること以外あまり興味がないので、自分の意見を言うだけの会なのだが。
そして、次に担当の先生などにアポを取る。これが正直一番めんどくさいと自分の中で思っている。例でいうと部活動だったら担当の顧問の先生と部長、副部長の許可が必要になってくる。1つや2つならいいのだが、大体、学校のことを書いている記事なので複数アポが必要なことが多い。最初は先生や生徒会がアポを取ってくれたら良い、と思っていたけどそうもいかないことを知った。
今の生徒会の激務ぶりだ。また、一つ面倒くさいのが生徒会の上に総合会というものがある。この総合会は主に前生徒会長、副会長によって構成されている会だ。この学校の生徒会長をした、という経験は就職活動などに大きな影響を与えるらしい。実際に、総合会から総理大臣も何人か出ている。
それだけ、権力がある総合会への対応や、学校全般のことをしなければならない。それがどれだけ大変なことかは、生徒会長を見ればわかる。本当に休む時間はあるの?ってくらいだ。授業の合間の時間も活動、昼休みも活動、放課後ももちろん活動、というハードスケジュールだ。
まぁ、こういう理由があってアポ取らないといけないんだよね。
で、最後に記事を書く。これは正直最初は嫌だったけど、今では楽しくなっているのでそこまで苦ではない。けれど、一番時間のかかる作業だ。一応、ほかの二人も手伝ってくれるのだが、なかなか終わらない。
なぜなら、普通の新聞の3分の1くらいの内容を書かないといけないからだ。3枚新聞があるんだけど、1枚目はすぐ終わる。生徒だれもが楽しく読めるように、撮った写真や少しだけインタビューしたことを書くだけだからだ。
ヤバいのは2枚目と3枚目。これは、もうほんとにやばい。写真も多少あるのだが、文章文章文章、って感じだ。生徒会活動の1カ月のまとめ、各部活動の記録、学校行事について、校則改正案の提示、等々詳しくたくさん書かないといけない。これも全部、総合会がいるから手を抜くことができない。
もし、仮に嘘の情報なんて載せたらもう後がない状態に陥ってしまう。実際に前部長がやらかしていろんな人から責められていたから、今でも軽くトラウマだ。この話を聞いてもう写真部じゃないじゃん?って思ったでしょ。そうなんだよ。写真部っていうより広報部なんだよ。っていうか、これも生徒会活動の一環だから広報委員会。みたいな役割なのかな。
まぁ、余談はさておき珍しく、本当に珍しく風景画を撮りに来た。一颯は空を撮ることが主に専門なので、一颯から言い出した案だ。この案を記事にしたい、という県で生徒会まで持って行って、いろいろあった結果、職員会まで行ってしまった。一時期心配したが、なんとか議決されたらしい。これを部活の一環として捉え、キャンプに行くまでの予算をすべて出すかどうかが特に問題になったらしい。こんな時に頼もしいのが総合会。圧倒的な財力から、数万程度出してくれたらしい。いろいろめんどくさいこともあったが、今は忘れて一颯とキャンプに来たことを楽しもう。そう思った。
あたりはもう真っ暗になっている。月の光が綺麗にともっている。僕たちは山でしかできないような遊びをたくさんした。その結果、本来の活動目的を忘れて早く寝てしまいたくなってきた。
「もうちょっと流星群、降ってくるらしいよ!」
そう興味津々で一颯が言ってくる。あれだけ活動してこれだけはしゃげるのは尋常じゃないと思う。っていうか、確かに流れ星はこの人生の中で見たことがないかも。
「今日は雲一つないから絶景になりそう!めちゃくちゃ楽しみ」
そう僕が言った矢先に数多の流星群が空から降ってきた。
『うわぁ~』
思わず見とれてしまう。月が綺麗に光っている夜。その中に、花火以上に明るい光が舞い落ちてくる。このまま夜空が自分たちに降ってくると錯覚したほどだ。周りの人も歓声をあげている。っと、いけないいけない。写真を撮らないと。僕はそう思い、カメラを取り出そうとする。
その時間が億劫だと思うほど空は煌びやかに照っていた。
「カシャ、カシャ」
この世の中で一番美しい夜空を撮った写真を複数枚。それに写真を撮るのが目的だということを忘れて見とれている一颯を一枚。いつまでもこんな日々が続いたらいいのに。そう、胸の中で流れ星に願った。
そんな日々も流星群のように流れていった。偶然ではなく必然的に。自分たちの高校では夏休みが開けたら3年生は部活を引退しなければならない。もう、大学受験まで半年もないからだ。それまであった部活を引退という形になってしまい、心に大きな穴が開いた用だった。
最初の方は頑張れなかった。だけど、一颯がいたから、一颯がいたから受験に向けて頑張ろうと思えた。本当に感謝している。でも、そんな一颯と会う時間も日に日に短くなっていった。勉強して勉強して勉強。こんなつらい日々がずっと続くのか、あの頃のように戻れないのか。そう思っていたころ、一颯から一件のメールが来た。
「今週の土曜日に双子座流星群を見に行かない?今年は例年よりすごいらしくてさ」
これを受け取った時とてもうれしかった。でも、自分自身の中で本当に行っていいのか、自分達は受験生なのに。という思いが溢れ出してきた。
悩みに悩んだ結果、行くことにした。最初、行くまでの移動時間も勉強。キャンプを立てたら勉強。のような感じで、結局勉強することは変わらなかった。これは全部僕の希望だ。これなら、勉強しなければいけない、という思いと一颯と一緒にあの時のように流星群を見たい、という思いどちらも満たすことができるからだ。
勉強をしていると、あっという間に時は流れ、あの日のように雲一つない夜空が広がっていた。今日は十六夜のように月が見えた。
「もうそろそろだよ!」
そういつもと変わらなくはしゃぐ一颯。
「うん!」
瞬きをした。その瞬間にまるで世界が変わったかのような空が僕たち覆っていた。歓声も出ないくらいに。この景色や海との思い出はきっといつまでもいつまでも残っていくだろう。この時は嫌なことなどマイナスな感情がすべて消え失せていた。ただ心の中に響く声は一つ。
「いつまでもこんな日々が続いたらいいのに」
あの時とは違う思いで流れ星に願う。海と一颯は満点の星空に飲み込まれていった。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、2つの同じ場面がその時の心境によって見え方が違う、ということを書いた作品です。海の心境の変化には、きっと一颯の影響が大きかったのでしょう。
今回の作品の感想を書いてくださると活動の励みになります!
次回は金曜日に投稿します。