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 薄いピンクがかった桜の花が木にぽつりと咲き始めた。今年の早い春の訪れを表すかのように。その姿は、小さく弱弱しく見える一方、凛と咲いていて強くも見えた。


 春といえば、と言ったら私の中では「別れ」が大きい。これまで何年間も共に過ごしてきた仲間と別れる日。胸の中を埋め尽くす悲しみがあふれる日。いつか会う日のために頑張ろう!って少し大人になるように背伸びをしてみる日。


 でも、裏を返せば「別れ」があるということは「出会い」もあるわけだ。当然か。「出会う」ことによって人はこれからの人生の成長につなげる。


 「別れる」ことは、そうだな。悲しいことしか浮かばないや。でも、またいつか会えるはず。そんな思いが募っていく。


「こんなことに時間を費やしちゃいけないのはわかってるんだけどね」


私、沙希は中学3年生。いわゆる受験生ってやつだ。今は2月16日。後、13日後には受験が控えている。3月1日に私は偏差値が70を越えている国立高校を受ける。そのために、この1年間全力を尽くしてきた。まだ過去問周回が終わりきっていないんだけど。


 ちなみに私たちの高校はそこまでの進学校ではない。実際に先生にこの国立高校を受けたい、といったときは鼻で笑われてしまった。その時は何も思わなかったのだが、今になって苛立ちを感じる。


 実際、私はそこまで頭が良くない。かといって悪くもないのだが。可もなく不可もなくって感じ。強いて言うなら数学はちょっとだけ得意かも。この高校を受けようと思ったのはつい最近で、去年の7月くらいかな。私の大好きな「智弘くん」がこの高校を受けると知ったからだ。受験の年、ということもありまだ付き合うところまでには発展していないのだが、いい感じっていうところ。


このことを知るまでは私は

「高校なんて、意味なんてないでしょ。大切なのは大学。近所の高校でいいや」

って考えだった。


 そのため、勉強習慣もほぼない、といっても過言ではなかった。

でも、絶対に受かってやりたかった。

鼻で笑ってきた先生を見返すため。

大好きな智弘君と一緒の高校に行くため。


「ピピピピ、ピピピピ」


朝勉強終了の合図の音が鳴る。時計はとっくに7時半を回っていた。

「ヤバいじゃん」

私たちの学校は8時半までにつけばいいのだが、私は中学までの距離が少し遠くバスをいつも使って登下校している。いつもは7時42分のバスに乗るんだけど。そう思い、私は自分の体を見る。


「この状況じゃ無理そう」


 私は、パジャマのまま。しかも、寝ぐせもついているまま。こんな姿、智弘君に見せれないから朝風呂に入りたいんだけど、7時58分のバスに乗らなければいけない。入ったら絶対に間に合わないことだけは確か。う~ん。

「もうどうにでもなれ」

私はそう思いお風呂に入ることに決めた。




なんとかセーフ。学校についたのは8時26分。鞄等の整理をする時間。わずか2分。なんとか間に合った。バスには間に合わなかったんだけど。そのため、1つ後の8時8分のバスに乗った。普段は絶対に間に合わないから、このバスに乗ったのは1回くらいなんだけど。今回は運よく間に合った。


「おはよう。朝から大変そうだね。てか、今日の朝数学のワーク提出だから早く出しときな」


 そう私の大好きな智弘君が言う。ぱっちりとした目、似合っている短髪。かわいらしい笑顔。どれをとっても素敵。


「おーい」

私の視界に誰かの手が出入りしている。

「聞いてる?」

「あっ、や、完璧聞いてなかった」


私としたことが、、、情けない。


「今日の朝数学のワーク提出」


うん?数学のワーク?ナニソレオイシイノ。一瞬焦りすぎて思考がフリーズする。一回深呼吸して自分を落ち着かせてから言う。

「やばい、やってない。どうしよう。そういえばこのワークの提出がもしかしたら受験の内申票の最終評価に入るかもって言ってたよね」


ほんとやらかした。今日の朝、過去問やるんじゃなくてワークやっとけばよかった。


「まぁ、仕方がないよ。これ貸してあげるから早く答え写し?一時間目始まるまでセーフだから」「マジ、せんきゅ」


 そしてチャイムが鳴る。私は自分の席に着き、朝礼の中で先生にばれないように答えを写す。数学の場合、答え写しがめんどくさいんよね。答えだけ書くなら楽だけど。途中の計算式まで書かんといけないし。幸い4ページだけっていうのはありがたい。


 そして、朝礼が終わるころには答えを写し終わることまでできていた。すぐに智弘君の元まで駆け寄る。


「本当にありがと、この恩はいつか絶対に返す!」


そういったところで、智弘君が少し考えるような動作をする。多分、どんなことを恩として返してもらおうか考えているんだろう。性格上そうに違いない。


「じゃあ、俺が受ける高校絶対受かる、ってことを恩にして。あと、提出までが宿題だから忘れずに出しとけよ。」


そう言って、去る。この日からまた私の心の底にあるろうそくに光がともった。





 そして受験本番。少し緊張もあったし、数学が思ったよりできなかったけど、なんとか自分の最善は尽くせたかな。と思う。取り敢えず無事終わってよかった。こういう大事な時には体調をよく崩しやすいんだけど、なんとか今日は大丈夫だった。集中して受けることができた。


その後、智弘君を探したがいなかった。もう帰ったのかな?と思って母に連絡をした。母の安堵が電話越しにも伝わった。




 結局受験が終わってから卒業式までの5日間、智弘君は学校に来なかった。明日は遂に卒業式。流石にいてもたってもいられなくなって、智弘君の家まで行った。数秒悩んだ後、インターホンを鳴らす。そうすると智弘君の母親が出てきた。


「あら、沙希ちゃんいらっしゃい。ごめんね。智弘、受験終わってから急に体調崩しちゃって、明日の卒業式には行けると思うんだけど」


そう私に視点を合わせず少し上を見つめていた。その目は悲しそうだった。


「わかりました。ありがとうございます。智弘君に明日、あの桜の木のところで待ってるね、って伝えてください。」

そう言い残し、私は帰路に着いた。




 期待していたものの卒業式にも来なかった。ちなみに私が受けた高校の受験の合格発表は今日だ。きっとあの桜の木のところにいるだろう。と信じて、卒業式が終わった後すぐに向かった。 



そこには予想通り、智弘君がいた。こちらに気付き振り向いて笑う。

「ごめんな~。今日学校行けれんで」


色々聞きたいことはあった。なんで卒業式に来なかったのか。なんで、私に受験終わってからの6日間あってくれなかったのか。そんな思いを胸の中に押し込める。


「で、受験の結果発表今日でしょ。結果はどうだったの?」

「え、ぁあまだ見てない。今見るね。」


そう言って私は自分のスマホを取り出す。1337の受験番号をホームページに打ち込んで、自分が設定したパスワードを打ち込む。心臓が尋常じゃないくらいバクバクしている。絶対に一緒の高校に行くんだ。どうか受かっていてください。お願いします。そう、祈りを込めて「受験結果」というボタンをおす。


「どうだった?」


「受かってた。受かってたよ。やったよ。智弘君。」


喜の感情が溢れ出す。とっさに智弘君に抱きついた。しかし、そんな感情はすぐに打ち消されることになる。


「実は、俺落ちてたんだ。」


 そういうと彼の頬に涙が垂れてくる。私も、無意識に垂れてくる。涙の味は甘くて、苦くてしょっぱかった。桜が悲しそうに咲いていた。

この後、結局智弘君は受かることになりました。(なんか、補欠合格みたいなやつで)

また気が向いたら、この話の続きを書くかもです。

これは恋愛ものなのか?とジャンルがよくわからないのですがまぁいいでしょう。


この作品の感想を書いてくださると活動の励みになります。

次回は金曜日にあげるので、少しでも面白いと思ったら見ていただけると光栄です!

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