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同じ景色

真っ赤な太陽が僕たちを照らしつける。町が赤く染まっていくのを歩と健斗は眺めていた。


 二人は小学校から同学年で、何をするのも一緒、やりたいことが一緒だったり好きなことも一緒だったり。ってことは隙になる人も同じなんだけど、それだけはマジで勘弁。こんな仲が良い僕らでも一度、同じ思い人を廻った大喧嘩をしたことがある。これは結構今だから笑い話になるって感じ。実際に学校ではもちろん無視、同じバスケ部に所属しているときにもチームプレー連携が壊滅している状況だった。当時のことを客観的に見てみると結構嫌なチームの雰囲気だったと思う。僕は副キャプテンだったし、健斗はキャプテンだった。でも、それも今では昔の話。


 今、中学3年生の僕たちは最後の大会になるかもしれない「荒川市総体」が刻一刻と迫っていっていた。後、2週間の時の今はとてもチームの空気がピリピリとしていることが読み取れる。正確かつ早いお手本のようなパスに、キャッチからシュートまでの動作がこれでもかというほど綺麗で、高い美しいボールが弧を描いてリングのなかに落ちるのが決まっていたかのように入る。華があるプレーの裏では全力で努力をする姿があった。あの試合に負けてからチームの勢いは低迷、その中で先輩も引退してしまい、チームのバランスもわるくなって、、、ということもあったがいまは本当にこのチームに入れてよかったと思う。数十分試合をしたところで、いつもの練習が終わる時間に近づいていたがまだ終わらずに激しい練習は続く。その中には、絶対に負けられないという思いが健斗からもチームからもにじみ出ていた。


 「ラスト一本集中」そう自分に言い聞かせてプレーをする。健斗からもらったパスから、ディフェンスとの間合いを確認し、シュートと見せかけたフェイクをしてディフェンスが飛んできたところでドライブをしてゴールに向かっていく。そのゴールの下にはそびえる壁と言っていいほど大きいディフェンスが言ったため、浮かせるようなシュートをループを意識して入れる。まあ、外してしまったのだが。


 監督の「片付け」の声とともにモップ掛けやゴールをしまったり、練習で使ったものを片づけたりする。

「もうあと2週間でこの体育館ともお別れか~」

 そんなことを冗談交じりでモップをかけながら健斗が言う。

「いや、終わりにはさせない。絶対に」

このチームで積み上げてきたものが同時に自分の胸の中であふれる。学校行って、勉強して、たまに友達と遊んだりしてまた勉強、そして部活をして健斗と河川敷を話しながら歩き、家につく。この当たり前の毎日がもう少しで壊れてしまうのかもしれない。2週間にはもうそれが決まっている。壊れる運命だとしても、運命をこのチームの努力の決勝で捻じ曲げて、この日々を続けるんだ。

「そうだね!絶対に勝って、まだこの体育館でバスケできる日々を過ごそう」


 片付けも終わり帰路につく。真っ黒に染まった雲の中には小さな月が心ともなく光っていた。暗闇の中の光はもろいようで美しかった。

「もう5月だから日が落ちるのも少し遅くなるはずなんだけどな~」

そう僕がボソッという。

「ん~、難しいことはわからんけど、まぁどっちでもよくね?」

「これ難しいも何も常識だぞ?ってか理科の天体の授業でやったじゃん。夏至に向けてどんどん日が長くなっていくって。しかもこれ基礎中の基礎だぜ」

「あー、まぁそんな授業を受けたことがある気もするわ!」


 そう受けごたえをする健斗。ちゃんと授業聞いてないからこうなるんだ、と僕は心の中で言う。実際、健斗の授業態度は?というととても良いとは言えない。何なら、最近ではなくなったが授業中に爆睡をかまして先生に怒られる、という毎授業のテンプレートだった。しかし、僕は知っていた。なんで授業中に寝てしまうかというと、彼は部活が終わった後も膨大な練習を積んでいたからだ。僕たちの学校は結構宿題も出るため、部活と勉強の両立はただ出も難しいものだった。僕は、休日を勉強時間に当てることでなんとか解決している。そのため、部活以上の練習をする健斗にとっては睡眠を削ってしまうことになる。「これでもバスケ部のキャプテンなんだからしっかりしないと、後輩とから尊敬されなくなっちゃうよ?」

「えーー、それもヤダけどでもちゃんとやるのもヤダ~」「もうっ、だったら早く帰って勉強してください」語尾を強めに言って命令形にする。

「はーい」少し諦めの入った声とともに返事が帰ってくる。そんな愛くるしい日常を過ごしていた。


時は流れ、大会前日


「お疲れ~」その声とともに荒川市総体までに最後となる練習が終わる。今日はかえって早く寝よう。明日、自分の最高のコンディションを出して絶対に勝つ!そう思って家に帰ったまでは良かったのだが、寝る前になって鞄をあさっていると


「あっ!やべっ、明日の対戦相手をチームに伝えるのを忘れてた」

ということに気が付いた。大事なところでやらかしてしまった自分の不甲斐なさに胸が少しキュッとなる。しかし、忘れてしまったことは忘れてしまったことだ。割り切って何とかするしかない。という自分もまだ対戦相手を知らなかったので明日の対戦相手を見てみると


「んっ?ってえーーー、実践中と当たるの?」


 実践中というのは、多分地元で知らない人はいないであろうスポーツの進学実績が豊富なことで有名だ。去年は県総体でとどまったが、一昨年や一昨々年は全国大会まで進んでいる。また、バスケ以上にこの中学はサッカーが熱い。サッカーに限っては全国Best4までたどり着いている。そのほかにも、野球はもちろん、テニス、卓球、ラグビーとありとあらゆるスポーツでも実績はすごかった。


 この学校が掲げているのは日進月歩だそうだ。失敗を恐れずに挑戦していき、勇ましく戦っていってほしい。という願いが実践中の名前には含まれているそうだ。その実践中と戦うことを知って、ますます怖くなる。健斗、あいつらがこれを知ったらどう思うだろうか。4チームある中から初日敗退するチームが出てくるがそれがもしかしたら自分たちかもしれない、という恐怖から思い通りのバスケができるのか、堂々とできるのか、そんな不安がこみあげてくる。

「だめ、考えるだけ無駄だ。これまで自分たちがやってきたことを証明して、絶対に勝つそれだけだ」

今日はもう寝よう。時計は短針が11の針をさしていた。


大会当日


コンディションが悪くチームは2連敗中だ。ここであの実践中と勝負をする。ここで勝たなければ良くも悪くも敗退だ。


「え~、これが最後の試合になるかもしれない。自分の思い通りのプレーはできないかもしれない。もしかしたら、自分のミスでチームが負けてしまうかもしれない。そんな負の感情がお前らの心の中に渦を巻いているかもしれない。あながち待ちがいじゃない。今日負ければ終わる。自分の中で悔いの残るプレーをするな。胸を張れるような結果にしないさい」


そう監督が言う。監督は本当は頑張ってきてほしい、と言いたいだけなのだろうが、どうも恥ずかしくて言えずに少しカッコイイ感じで言ってしまうのだろう。それは、2年以上共に過ごしていたチームが一番わかっていた。この監督の言葉を最後に試合が始まる。


 そして、試合が終わる。ただ、何が起こったか理解しきれていない人もいれば、泣き崩れている人もいた。次の試合が始まるため、急いで身支度をして外に出る。

「すべておわったんだなぁ、歩」

そう泣き笑いを浮かべる健斗。僕は何も言えずに前をむいてた。


真っ赤な太陽が僕たちを照らしつける。町が赤く染まっていくのを歩と健斗は眺めていた。

本作品を読んでいただきありがとうございました。


感想を書いていただけると、短編小説を書く時のモチベーションにもつながるのでうれしいです。


このような短編小説を日曜日、水曜日、金曜日に投稿しようと思っています。少しでも面白いと思った方は、この投稿される作品も見ていただけると嬉しいです。

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