驪竜 珠 (りりゅう たま)
「昨日の晩に向こうから話しかけてきてこっちの事情ばかり深堀してきたんですよ」
「それで?」
「それでと言われても……」
「あの子は君の妹なんだよね?」
「そうよ、」
「あの子姓は名乗ったかしら?」
「うん」
「そのおかげで今の今まで本当に兄弟なのか信じれなかったんだけど」
「あなたにも兄弟いるの?」
「いますけど、それが何か?」
「私はいないのよ、兄弟、」
このひとふざけているのか?
自分のペースで話してくるところはこいつの妹そっくりじゃないか。
「それじゃあ、あなたは兄弟と初めて会ったのはいつ?」
「いつって言われても、」
「生まれたときかな」
今まで十六年間生きてきて初めてされた質問だったから、一瞬何を言っているのかわからなかった。
「私があの子に初めて会ったのは私が十五歳の時」
「つまり二年前」
「そんな成長してから紹介された子兄弟って言えると思う?」
「別にあの子が嫌いとかそういう話じゃないわよ」
「知っていると思うけど、私の家は大きな会社だから他との競争の毎日なの」
さっきから僕の予想の斜め上ばっかの話で反応に困る。
「だからほかの会社を取り入るためにも公には姉妹であることを隠していたらしいの」
「まあ、一種の企業戦略って感じじゃないの」
そんな昔の貴族階級の闇みたいな話が存在していたなんて聞いて普通にビビった。
「なるほど、論理的には正しいのかもしれないけど、倫理的にはいかれてるね」
こんな話を聞いて冷静に返答できた僕をだれかほめてほしい。
僕の話を聞いた後、彼女は僕に対する虫けらあつかいを少しやめてくれた気がした。
喜ばしいことだ。
「あなた、意外ときちんとものを考えられるのね」
こいつ、僕のこと馬鹿だと思ってたな。
こういう人を見下してるやつが社会でトップに立つって考えてたらめっちゃ萎える。
「そんなこと言うけどね、世の中にはもっと深い闇を抱えている人もいるんだよ」
「何それ」
「あなたのこと?」
「そうだとしたら自意識過剰なんじゃないのあなた」
この女どこまでいってもこのスタンスなんだな。
一本強い芯を持っているのはやはり育った環境なのか?
個人的には自分を持っている人は嫌いではない。
「でもやっぱり君と妹は全然似てないんだね」
「君の妹はなんていうか人懐っこい猫みたいだったけど」
「私はかわいくないと?」
「そういうわけじゃなくてさ」
こいつも他人にかわいく思われたいものなんだな。
てっきりそういうのはうっとうしがってるものだと思った。
「まぁいいわ」
「あなたの名前を教えてくれないかしら」
「吾妻 徹です、どうか二度と忘れないようにお願いします」
「馬鹿にしないで、私一度記憶したことは忘れないから」
ん?
じゃあなにか、こいつは僕のことを今日初めて認識したってことかよ。
やっぱりこいつ嫌いだわ。
「もうわかったよ」
「そろそろ教室に戻ろう、とっくに授業始まってる」
「いやよ」
「あなたと一緒にサボっていたなんて知られたくないわ」
「はいはい」
「なら僕は早退するよ、君が保健室まで連れて行ってくれたことにすれば問題ないだろ」
「不快だわ」
「あなた私だけにしかわからないような恩をうってるつもりなの?」
「それなら私が帰るわ」
「僕は別にいいんだけどお前はいいのか?」
「見たところによるとあなたのほうが学校に残って勉強するべきね」
ちぇ、こいつ頭いいんだった。
僕が悪いんじゃなくて、お前が頭良すぎるんだろうよ。
「否定はしないけどよ、もっと優しくしてくれよ」
「なにいってるの、あなたは私と話せるだけで十分幸せでしょ」
この自己中な女は勝手に話を切り上げて廊下の先へと姿を消していった。
こいつ、僕を理由に家に帰りたいだけじゃないのだろうか。
本当に鼻につく女だ。
昨日の午後から今に至るまで妹を含めて三人の美少女にかかわった感想だが、全員我が強すぎるんじゃないのかと思う。
皆可愛いんだから普通におとなしくすればいいものの。
まあ、それ込みで彼女たちなんだろうけど。
妹だけならかわいいですむ話なんだけど、今後三人も相手しないといけないと考えるだけで頭が痛い。
早く今までの僕の平穏を取り戻さないと、僕まで毒されてしまいそうだ。