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第96話

ユリウスが発した言葉に騒然となるギルド内。

当然ここ王都でも、”白銀の天使様”がレンチェスト王国を救ったという話は広く知れ渡っていた。

冒険者もギルド職員も、そこにいる全ての者たちの視線がティナへと注がれる。


「貴様…天使様に何たる非礼を…何てことをしてくれたんだぁーーーっ!!!」


「は、は、は、白銀の天使様……ま、ま、ま、まさか……」

ギースは青ざめ、ブルブルと震えだす。


「ありがとうございます。助かりました。もう大丈夫です」

大事になり過ぎたその場を収めようとティナがユリウスに声をかける。


「……天使様。…天使様がそう仰るのなら…」

捻り上げたギースの腕を離すユリウス。


「誰かギースを留置所へ連れていけっ!

 反省するまで絶対に出すなっ!!」


すぐにギルド職員がやってきて、震えるギースを留置所へと連れていく。

そしてギースと入れ替わるように、アイク、ライド、モーラの3人がティナの元へとやってきた。


ティナの前に整列する”烈火の剣”の4人。

すると直後、4人全員が片膝をつき、ティナに向かって頭を垂れた。


レンチェスト王国が誇るSランクパーティーが跪くという目を疑うような光景。

その光景が、ティナが”白銀の天使様”たることをギルド内にいる全員に知らしめた。


「…ちょ、ちょっと皆さん、顔を上げてください」

いきなり跪かれ、あわあわするティナ。


その言葉に、顔を上げた”烈火の剣”のメンバーの1人が話し出す。


「お初にお目にかかります。

 私は、”烈火の剣”のメンバー、モーラと申します。

 先の戦いではお力になれず大変申し訳ありませんでした」


ナイチを守る戦いに加われなかったことを詫びるモーラ。

ティナはそんなモーラの言葉に首を横に振る。


「謝らないでください。

 モーラさんはエギザエシム帝国の侵攻を知らせるために

 王都へ行ってくれたんですよね。ユリウスさんから聞いています。

 モーラさんは国を守るために重要な役割を担った。それだけのことです」


「天使様……」


先ほどから頻繁に飛び交う、”天使様”。

エギザエシム帝国にいたユイトはそれが何なのかさっぱり分からない。

しかしみんなの顔は真剣そのものだ。


(そう、俺は空気が読める男。これはきっと吹き出してはダメなやつだ)


必死に笑いを堪えるユイト。

その体はプルプルと小刻みに震えている。


そんなユイトを見てティナはくすっと笑った。

そのままプルプル震えるユイトを見ていても面白い。

しかし、そこはティナの優しさ。


「皆さん。ちょっとお願いがあります。

 ”天使様”はちょっと恥ずかしいので、ティナって呼んでもらえますか?」


ユイトの方をチラッと見てティナが微笑む。

(おぉ、さすが天使様!なんとお優しい…)


「…分かりました。

 それではこれからはあなた様を、”ティナ様”と呼ばせていただきます」

「ありがとうございます。

 でも、”様”もなしでお願いできますか?」

「ティナ様、それはなりません。どうか、どうかそれだけはお許しください」


どうやらこれ以上言っても引き下がる気配はない。

”烈火の剣”メンバーの真剣な眼差しと圧に折れるティナ。


「…そうですか。分かりました」

「ありがとうございます!ティナ様!」


”ティナ様”と呼ぶのを許され喜ぶ”烈火の剣”のメンバーたち。

ガイルたちに続き、新たなティナ教徒の誕生だ。

ひょっとするとガイルたちは”教徒”ではなく”舎弟”かもしれないが。

(ま、”姐さん”だしね)


「…ところでティナ様。そちらの方は?」

ティナの傍らに立つユイトのことを尋ねるユリウス。


「あっ、紹介がまだでしたね。

 こちらはユイトさん、私の大切な仲間です」


「…確かあんたは、あの時の……」


「何だ、アイク。お前、知ってるのか?」

「あぁ。ライドとナイチの入り口を守ってたとき、

 ティナ様と一緒にその狼とやってきたんだ。

 でもそれっきりで、確かその後は会わなかったな」


「あぁ、それはですね、

 あの後ユイトさんはすぐにエギザエシム帝国の帝都に向かったので」


「…えっ?帝都…?」

その言葉に、一つの可能性が頭をよぎる。


「ま…まさか……」

驚愕の表情を浮かべユイトの顔を見つめる”烈火の剣”。


「あー、その話はまた今度な」

ユイトがすぐにその話を制止する。


皆が注目する中、そんな話をすれば大騒ぎになることは目に見えている。

ユリウスもそれに気が付き、すぐに話題を変える。


「分かりました。その話はまた改めて。

 それでティナ様たちは、いつ王都に?」

「今日のお昼ですよ」

「そうですか。ではお疲れでしょう。本日の宿はもうお決まりでしょうか?」

「いいえ。これから探そうかと…」


すると”烈火の剣”は、即座に宿探しの手伝いを申し出る。

広い王都かつ見知らぬ街。まさに渡りに船。


ということで、すぐに”烈火の剣”に宿の希望を伝えるユイトたち。

もちろん伝えた希望はこの2つ。

風呂があって、ユキも泊まれる宿。


ユリウスの話では、どうやら風呂がある宿はいくつもあるらしい。

だが、ユキが泊まれるかどうかは行ってみないと分からないとのこと。

(ま、そりゃそうか)


「それでは参りましょうか」


早速”烈火の剣”に連れられ宿探しへと出発するユイトたち。

周りにいる全ての冒険者、そしてギルド職員たちからの静かなる視線を浴びながらギルド入り口へと進んでいく。


ギルドの外に出ると、まずは”烈火の剣”おすすめという宿へと向かう。

その途中、道行く人々から羨望の眼差しが向けられる。

もちろんそれは”烈火の剣”に対してだ。

だが、なんだか自分が見られているようで落ち着かない。

(有名人って大変だな。プライベートもくそもあったもんじゃないな…)


そうこうしているうちに、ユイトたちは無事一軒目の宿へと到着。

すると、見覚えのあるその外観にユイトとティナから思わず声が出る。


「えっ!?」


そう、そこはなんとウォータ―ヒール。

ここ王都にも、サザントリムでお世話になったウォーターヒールがあったのだ。


「それではティナ様。少しだけこちらでお待ちください」


ユリウスは、驚くティナにそう告げると早速、宿の受付へ。どうやら、ユキも泊まれるよう宿と交渉してくれているようだ。まさに至れり尽くせり。

王都で名を馳せるユリウスが交渉した方が、ユイトたちが交渉するよりも断然いい。それを理解した上での行動だろう。


結果、無事ユキも泊まれることになり、なんと一軒目にして宿の確保に成功。

これにて”烈火の剣”の本日のミッションはコンプリート。


「では、我々はこれで失礼します」


その帰り際、ユリウスから1つだけ依頼があった。

『明日の昼にギルドに来て欲しい』


おそらく今日の話の続きをしたいのだろう。

ちなみに明日は、混乱を避けるため、ギルド内の部屋を確保してくれるとのこと。

それならばあの話をしても安心だ。


この後ユイトたちは、部屋で一休みした後、王都の散策へ。

”烈火の剣”との再会も無事果たせ、食べ歩きも満喫。なんとも充実した王都初日となった。

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