第95話
レンチェスト王国 王都ステイリア。
サザントリムを凌ぐ大都市でありながら、比較的治安も良く、王都と呼ぶにふさわしい美しい街並みがそこには広がる。
そしてその街の中央には、当代国王 ロットベル・ディ・レンチェスト王の居城が厳然とそびえ立つ。
「さすが王都って言うだけのことはあるな」
「うん。凄い人。街もサザントリムと同じくらい大きいね」
そう、ナイチの村を出発したユイトとティナは、この日ようやく目的地である王都ステイリアに到着した。
「…けど、こんだけ大きいと迷子になりそうだな」
「迷子…ふふっ」
「んっ?どうした?」
「なんか昔のこと、思い出しちゃった。
ユイトさんと初めて森で会った時…
あの時ユイトさん、迷子になってたって言ってたなぁって」
「あー、確かにそんなこと言ったような気もするな…」
(あん時は、道だけじゃなくて全てにおいて迷子だったからな…)
「よし。それじゃあ、まずは飯でも食って、それからギルドを探すか」
「うん!」
「ワオォン!」
ということで、3人は早速、昼ご飯。
今回はティナのたっての希望で出店をめぐって食べ歩き。
もちろん気に入ったものは異空間収納にストックだ。
3人は王都の街を練り歩き、おいしそうな食べ物を片っ端から食べていく。
「あぁ、お腹いっぱい。美味しかった!」
「うまかったな。
……じゃ、お腹も膨れたことだし、ギルドを探しに行くかー!」
「うん!」
その後ユイトたちは、道行く人に道を尋ねながらギルドを目指す。
だが、人が多いせいか教えてもらった目印が中々見つからない。
そして広い王都を彷徨うこと1時間。
ユイトたちはようやくギルドへと辿り着いた。
「やっと着いたね。……いるかな?”烈火の剣”の皆さん」
「どうだろう。依頼で遠出してなきゃいいけどな。
…ま、とりあえず入ってみるか」
扉を開けて中へと入る。
するとそこには数多くの冒険者たちの姿。
そしてすぐにその冒険者たちの視線が、ユキとティナへ注がれる。
「…な、なんだ、あのでかい狼!?」
「白い狼なんて、俺、初めて見たぞ」
「なぁ…そんなことより、めちゃくちゃかわいくないか?あの娘」
「あんなかわいい娘、王都の冒険者にいたっけ?」
そこら中で、ざわつきが起こる。
そんなざわつく冒険者たちをよそに、ギルド奥にあるカウンターへと進んでいくユイトたち。
そしてカウンターへと辿り着くと、早速、受付のお姉さんに”烈火の剣”のことを聞いてみた。
「ちょっと聞きたいんだけどさ。
このギルドに”烈火の剣”ってパーティー、在籍してるよな?」
「えぇ、在籍してますよ」
期待通りの言葉を口にするお姉さん。
「良かった!じゃあここで待ってれば、きっと会えるね!」
「そうだな」
そんな喜ぶ2人を見た受付のお姉さんが話し出す。
「…あっ、分かりました!
あなた方は”烈火の剣”のファンの方ですね!
分かります、分かります。彼らはかっこいいですからね。
レンチェスト王国一の冒険者である彼らに憧れて冒険者になる人も多いですし、
彼らに一目会おうと当ギルドを訪れる人も多いんですよ」
何やら盛大に勘違いしているようだ。
「いや、ファンとかじゃなくて、ちょっとお礼を言いに来たんだよ」
「あっ、これは失礼しました。
”烈火の剣”の皆さんへのお礼……あっ、分かりました!
あなた方は”烈火の剣”の皆さんに、危ないところを助けられた方ですね。
彼らは、弱きを助け強きを挫く、素晴らしい冒険者ですからね」
まるで自分のことの様に嬉しそうに話すお姉さん。
そして相変わらずの勘違いっぷり。
(まぁ、確かにナイチは助けてはもらったけど…)
(…さぁて、どう返すかな?)
すると、そんなことを考えているユイトたちの元に誰かがやってきた。
「おぅ、お前ら見ない顔だな。
…ん、そのタグ……さてはお前ら新米冒険者だな?
…はぁ、しょうがねぇ。じゃあこのCランク冒険者のギース様が
お前らに冒険者のいろはってもんを教えてやるぜ」
あまりに突然の出来事にユイトもティナも面食らう。
Who are you?まさにそんな気分だ。
ギースという男はさらに続ける。
「だが、俺も忙しい身だ。2人も教える余裕はねぇ。
だから特別に姉ちゃんだけ教えてやるぜ。手取り足取り丁寧にな。
まったく運がいいぜ、姉ちゃん」
開いた口が塞がらない。
これにはさすがのティナもドン引きだ。
「ちょっとギースさん。駄目ですよ。
そういうことはよそでやってください」
受付のお姉さんがすかさずギースを制止する。
「おい、ギースの奴、またやってるぜ」
「かわいい娘見るとすぐに手ぇ出すからな、あいつ」
周りからはそんな声が聞こえてくる。
「なぁ、良いじゃねぇか。遠慮すんなよ。そんな奴ほっといてさ」
その言葉にムッとした表情を浮かべるティナ。
と、そのとき、ギルドの扉が開き、1組の冒険者パーティーが中へと入ってきた。
その途端、そこら中でざわつきが起こり始めた。
一部では歓声まで上がっている。
そう、この時ギルドに入ってきたのは、レンチェスト王国が誇るSランクパーティー”烈火の剣”。
国の英雄である彼らに声をかけてもらおうと、新米冒険者や初級冒険者たちが”烈火の剣”へと群がっていく。
もみくちゃにされながらも、驕ることなく丁寧に対応をする”烈火の剣”。
その最中、ユリウスが何気にふと横を向く。
そこでユリウスの目に映ったのは、大きな白い狼と1人の女性冒険者。
そしてその女性冒険者に言い寄るCランク冒険者ギースの姿。
「…ま、まさかっ!?」
その瞬間、ユリウスは全身の血の気が引いた。
そしてすぐさま全速力でギースの元へと飛んで行き、ギースの腕を捻り上げティナから引き離した。
「…あなたはあの時の」
ティナのその反応から、それが”烈火の剣”のメンバーであるとユイトはすぐに理解する。
「痛ぇ、痛ててて。ちょ、ユリウスさん。痛ぇよ。離してくれよ」
「ギース。…貴様、一体何をしている?」
「何って…俺はただ、Fランクの姉ちゃんに色々教えてやろうと…」
ギースの腕を捻り上げるユリウスの腕が怒りに震える。
「ちょ、痛ぇよ。まじで待ってくれよ、ユリウスさん。
ちょっと遊ぼうとしてただけだって」
「貴様ぁぁーっ!!一体自分が何をしたのか分かってるのかぁーーーっ!!!」
”烈火の剣”リーダー ユリウスの突然の激怒っぷりに静まり返るギルド内。
「ギース、貴様…ここにおわすお方をどなたと心得る?」
(お、久々に聞いたよ、そのセリフ)
(…まさか、あれが出るのか?……って、さすがに出ないよね)
「このお方は…こちらにおわすこのお方こそ、
レンチェスト王国をエギザエシム帝国から守ってくださった
”白銀の天使様”だぁーーーーーっ!!!」
ユリウスの叫び声がギルド内に響き渡る。