第91話
ナイチの危機が去ってから早数日。
帝国兵の攻撃により大きな被害を被ったナイチの村では、早速、復興に向けた作業が進められていた。
今回、ナイチの村を襲った突然の悲劇。
村人たちの心の傷はまだ癒えていない。
だが、ナイチを心から愛したナーハルとマドックのためにも、少しでも早く村を元通りにしようと、皆、懸命に作業に取り組んだ。
そんな復興進むナイチの村のすぐ近くまで、ようやくユイトが戻ってきた。
感知魔法によりいち早くユイトの帰還を知ったティナは、ユキとともに村の入口にてユイトが到着するのを静かに待つ。
「おかえりなさい。ユイトさん」
「ワオォン」
「ただいま。ティナ、ユキ」
出迎えに来てくれた2人とともに村の中へと入っていくユイト。
そしてすぐに皆がいる憩いの場へ。
「ユイトさんっ!良かった、無事だったんだな!
1人で帝国兵本隊のところに行ったって聞いたから、みんな心配してたんだ」
「ごめんな、みんな。心配かけちゃったな。
ちょっとエギザエシムの帝都まで行ってて、帰ってくるのが遅くなった」
「…えっ……て、帝都って……」
そのまさかの言葉に、目を丸くして驚く村人たち。
「ふふっ。きっと、そうなんだろうなぁって思ってた!」
そしてそんな村人たちとは対照的に、普段と変わらぬ様子でにこりと笑うティナ。
「それでユイトさん、どうだったの?」
「あぁ、もう大丈夫だ。
エギザエシム帝国がこの村を襲うことは二度とない」
その瞬間、村人たちは顔を見合わせ一斉に歓喜の声を上げた。
そしてティナだけが、その言葉が示す本当の意味を理解した。
そこからはユイトも加わっての復興作業。
村人たちの話によると、どうやらここ1、2年でナイチの村を訪れる人がかなり増えたらしい。
ということで、復興作業と合わせ、村を大幅に拡張することに。
さらには、訪れる人の大半が目当てにしているというナイチの村自慢の大浴場も一回り大きなものに作り替えることにした。
その後も順調に復興作業は進み、およそ1カ月ほどでより大きくなった新生ナイチの村が完成。その頃には村人たちも、以前の様な笑顔を取り戻していた。
それから数日が経ったある日の夜。
ユイトがユキのモフモフの毛にもたれ休んでいると、ティナが話しかけてきた。
「ねぇ、ユイトさん」
「んっ?どうした?」
「えっとね、ちょっと聞いてほしいことがあるの。
…私ね、あの時…帝国兵と戦ってた時、突然頭の中に声が流れたの。
『”精霊を統べし者”を獲得しました』って」
「…ほんとかっ!?」
驚いたユイトがばっと起き上がる。
「うん。これってひょっとして、前にステラさんが言ってた
”称号”ってやつなのかな?」
「頭ん中で声がしたんだろ?間違いない。それは称号だ!!」
ユイトの言葉にティナの顔がぱぁっと明るくなる。
「それじゃあ私、この世界に認められたってことだよね!?
やったーっ!なんかすっごく嬉しい!!」
子供のようにはしゃぐティナ。
すると突然、喜ぶティナが何やら不思議そうな顔をする。
「…そういえばユイトさん。
今、称号者で間違いないって言ったでしょ?
なんで”間違いない”って言い切れるの?」
「えっ?だって頭ん中で声がしたんだろ?だからだよ」
「えっーと、そうじゃなくて…
頭の中で声がしたらどうして称号者だって言い切れるの?」
「んっ?そんなの、俺の時がそうだったからとしか言えないけどな」
「…えっ!?ユイトさんって称号者なのっ!?」
「あぁ、”理外の者”っていう名前のな」
「そうなんだ……。全然…知らなかった……」
少しだけ複雑な表情のティナ。
「……ごめんな、ティナ。
別に隠してたってわけじゃないんだけど…。
ティナにはもっと早く言っときゃ良かった。…ごめん」
「ううん、いいの」
「…ティナ、俺さ、実はこの世界に来た瞬間から、もう称号を持ってたんだ」
「来た瞬間から?」
「あぁ。俺の称号の”理外”ってのはさ、”この世界の理の外”って意味だろ?
だから、こことは別の世界から来た俺にこの称号が与えられたんだと思う。
あの時…ステラさんが称号者になったって教えてくれた時、
俺も称号者なんだって言おうかとも思った。
けどもしそれを言ったら、俺はこの世界の人間じゃないってことも
話すことになるのかな、ってな。
で、結局、あの時は何も言えなかった」
「…そっか」
ティナは一言そう言うと、なんだか嬉しそうに笑みを浮かべた。
「…どうした?そんな嬉しそうな顔して」
「ふふっ。だって嬉しいんだもん♪」
「???」
「ユイトさんと同じ称号者になれた。
ユイトさんが称号者だってこと、私だけが知ってる。
ユイトさんがこの世界とは別の世界から来たってこと、私だけが知ってる。
そう思ったら、なんだかすっごく嬉しいの!!」
「はははっ!何だそれ!そんなことが嬉しいのか?」
「そうだよー!すーーっごく嬉しいの!だって…」
「んっ?」
「…ううん。何でもない。
ユイトさんってそんなに凄いのに鈍感なんだなぁってね」
「そうか?そんなことないと思うけどな…。
何か気づいてないことでもあったけ?」
「ふふふ。知っててもまだ教えてあーげない!」
そう言ってティナはニコニコと笑った。
穏やかな時間が流れるナイチの村。
静かに夜が更けていく。
時は少し遡る。
帝国兵がナイチを襲ったあの日、エギザエシム帝国のレンチェスト王国侵攻を伝えるべく、いち早くナイチを発ったモーラ。
途中モーラは、サザントリムにも寄り今回の件を伝達、その後、すぐに王都へと向かった。
モーラの情報により、エギザエシム帝国の侵攻を知ったサザントリムでは、エギザエシム帝国を迎え撃つべく、大至急、駐留の兵士、冒険者たちが集められた。
だが相手は世界に名が轟く軍事大国の兵士12万。
その数、レンチェスト王国が有する兵力のおよそ2倍。
どこまで対抗できるかも分からない。
集まった兵士と冒険者たちの顔が不安に染まる。
だがたとえそうであっても、エギザエシム帝国の蛮行をただ指をくわえて見ているわけにはいかない。
皆、恐怖で埋め尽くされた心の隙間から、精一杯の勇気を絞り出す。
そして覚悟を決めた彼らは、少しでも都市部から離れたところでエギザエシム帝国を迎え撃つべく、ナイチ方面に向け出発した。
そして、そんな彼らがサザントリムを出発してから8日目。
北へとひた進む一行は、王都に向け南下中の”烈火の剣”と遭遇。
そこで彼らは、エギザエシム帝国のレンチェスト王国侵攻は、”白銀の天使様”の手によって防がれたことを知る。
「本当…なのか……」
それは、にわかには信じがたい話。
だが皆の目に映るのは”烈火の剣”。そしてリーダー ユリウスの真剣な顔。
レンチェスト王国が誇るSランクパーティーが虚言を吐くとも思えない。
結局その後の話し合いにより、兵士の半分と冒険者たちは、”烈火の剣”とともにサザントリムへ引き返すことに。
そして残り半分の兵士たちは、国境にある砦を確認するため、そのまま北上を続けることとなった。
ちなみに、この北へと向かった兵士たち。彼らはしばらくの後、新しくなったナイチの村の大浴場で疲れを癒すことになる。
場所は変わり、再びナイチ。
その日はユイトとティナがナイチを出発する日。
「じゃあな、ナーハルさん。マドックさん。行ってくるよ」
「ナーハルさん。マドックさん。これからもみんなを見守ってあげてね」
ユイトとティナが、ナーハルとマドックの墓に手を合わせる。
「じゃあ、みんなも色々とありがとな。
それに魔石を割ってくれて、ほんとにありがとな」
「……ユイトさん。
そのことなんだけど、それはユークのおかげなんだ」
「ユークの?」
「あぁ。実は俺たち大人は魔石を割るのを躊躇ったんだ。
ユイトさんたちを巻き込むわけにはいかないって。
でもそんな時、ユークが言ったんだ。
魔石を割らずに俺たちが死んだら、
逆にユイトさんたちを苦しめてしまうって。
ユイトさんが魔石を俺たちに渡してくれたのは、
俺たちに生きていて欲しいからだって。
ユークがああ言ってくれなかったら、きっと魔石を割らなかった。
俺たちはユークに助けられたんだ」
「…そっか」
ユイトはユークの前まで行くとしゃがみ込み、ユークの頭を撫でた。
「ユーク。偉かったな。お前がこの村のみんなを救ったんだ。
お前はこの村の英雄だ!」
「へへへ」
照れながらも誇らしげな顔を見せるユーク。
「ねぇ、ユイト兄ちゃん。
俺もユイト兄ちゃんやティナお姉ちゃんみたいになれるかな?」
「あぁ。ユークならきっとなれる」
「ほんとっ!?じゃあ俺、頑張るよ!」
「あぁ。でも無茶しちゃダメだぞ?」
「うん!」
「よし。じゃあユーク、ちょっと手を出せ」
差し出されたユークの手にユイトが置いたもの。それは新たな魔石。
ユイトたちにとっても大切なナイチの村。
ユイトはその村の未来を、小さな英雄ユークに託した。
「じゃあ、ティナ、ユキ。行くか?」
「はい」
「ワオォン」
次の目的地はレンチェスト王国 王都ステイリア。
ナイチを命懸けで守ってくれた”烈火の剣”は王都ステイリアの冒険者。
王都の冒険者ギルドに行けば、きっと彼らにも会えるだろう。
ユイトたちは彼らへ恩を返すべく、王都ステイリアに向け出発した。
【後日譚】
あの日、力の全てを失ったエギザエシム帝国。
その翌日よりエギザエシム帝国の先頭に立ったユグノースは、早速エギザエシム帝国の改革に着手。
自身とともに捕らえられていた穏健派メンバーを要職に就かせると、彼らとともに強硬派を一掃した。
そして後日、今回の件を正式にレンチェスト王国に謝罪。
その際ユグノースは、その言葉に嘘偽りが無いことを、ヴァルトス皇帝をはじめ、強硬派メンバー全員の処刑によって示した。
それは、あの日ユイトに誓った言葉を必ず成し遂げるという、ユグノースの覚悟の表れでもあった。
これにより、エギザエシム帝国によるレンチェスト王国侵攻の一件は収束。
サザントリムをはじめ、レンチェスト王国の各町は次第に普段の落ち着きを取り戻していった。




